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神の箱庭で剣鬼は踊る  作者: 剣鬼
3/10

どたばた

「よし」


 アカネは一声、気合を入れてから腰に差した紅霞を枕元に立てかけた。

 それから台所に向かい、床下収納に詰め込まれた食料と、ポンプ式の井戸を見る。


「……ビーフシチュー」


 夕飯のメニューを一瞬で考え、そしててきぱきと調理を始めてしまった。

 肉を刻んでいる最中、東京で人を切った時のことを思い出したが、どうでもいい事だと思ったのか気にすることなくブロック肉を切り分けていく。

 そしてしばらくすると見事なビーフシチューが出来上がった。


 なぜこんなさびれた家に圧力鍋があったのかは、誰も知らない。


「いただきます」


 きっちりと手を合わせて一礼してからスプーンを使ってビーフシチューを食べる。

 それだけで大丈夫なのかと聞きたくなるほどに少食だが、アカネは小柄なのでエネルギーの使用量もさほど多くないのだろう。


「……なにしてるんですか」


「おゆはん」


「さっき旅に出るように言いましたよね」


「言われた、了解した、けれどいつ出発かなんて答えてない」


 悪びれる様子もなく、アカネはそう言い放った。

 その言葉を聞いて頭を抱える自称神の女性を尻目に黙々と、そしてもぐもぐとビーフシチューを食べ進めていく。


「パンが固い、今度は柔らかいのをお願い」


「……こうしましょう。

貴女が旅をすれば食料やガス水道をここに配給します。

けれどここに引きこもるというならその全てを絶ちます」


「……水と食料だけでもなんとかなる」


 実際、が明日コンロは使えれば便利だがアカネ自身は竈や焚火での調理もできる。

 辺鄙なところで暮らしていた祖父の元に通ううちに覚えた技術の一つだった。


「……三時のおやつ付きで」


「契約成立」


 アカネも女の子、可愛いものや甘い物には目がない。

 そのため自称神の女性が出した条件に食いつき、あっさりと翌朝には旅立つことを受け入れた。


 しかし、ちゃっかりと今日は働かない、またどこかに居を構えてもかまわないという約束を取り付けていた。


「そういえば、名前なに」


「名前?

あぁ私ですか。

うーん……あなた方じゃ発音できないと思いますからねぇ……。

まあいちばん近い呼び方としてナイアとでも呼んでください」


「ナイア、記憶した」


 そう言ってアカネは先程までビーフシチューを食べるために使っていたスプーンでナイアに切りかかった。

 その動きに迷いはなく、やられたナイアも硬直してしまい回避できずに右肩にスプーンがめり込んだ。


「な……」


「混沌、千の顔、膨れ女、顔のないスフィンクス。

ナイアルラトホテップ、ここで殺す」


「いやちょっと待ってください!

私悪いナイアルラトホテップじゃない!

ほら純白純白! 」


 アカネの奇行に対して弁明、もとい命乞いを繰り広げるナイア。

 その名前からアカネが想像したのは創作上の神話体系に存在する神だった。

 半分以上カマかけだったがその予想は当たっていたらしく、ナイアは酷くあわてている。


「それで、改めて聞くけど本当の目的は」


「……あのですね、神様というのは物凄く暇なんです。

それで人間の世界で核戦争引き起こしたり、いたずらに主神起こして世界崩壊させたり、特殊な力を持っている人を捕まえたりしてるんです。

それでもその場しのぎなんですが、ちょうどあなたを見かけましてね。

それでこの人を観察したら面白そうだなーと……」


「要するに暇つぶし」


「そうです……」


 アカネの根も葉もない言葉にナイアが興産といったばかりにうなだれる。

 その横でアカネは手近なところに置いてあった食事用ナイフをつかむ。


「それじゃあ、覚悟はいい? 」


「本当にすみません!

でも消滅よりはましでしょう!

ほら、助け合いの精神!

プリーズ!ギブアップ! 」


 ナイアの必死の謝罪と懇願に折れたのか、アカネがナイフをテーブルに置く。

 その様子をナイアは胸をなでおろしながら見ていたが、その手が曲線的な動きをしたことでアカネは一度置いたナイフをつかみ、ナイアに切りかかった。


「おっきいは敵」


「小さいのはステータスですよ! 」


 アカネの鬼気迫る形相に気圧されつつも、ナイアは肩のスプーンを引き抜いてナイフを受け止める。

 その際に一切血が流れなかったのは、ナイアの肉体がおかしいのかアカネが皮下に届くように打ち込まなかったのか、主にアカネの意思一つだったことには違いない。


「とにかく!

私は暇がつぶしたいだけなんです!

暇は神さえ殺せるんです! 」


「私も神くらいは殺せる」


「そのドヤ顔可愛いけど今私切羽詰まった状況なんで堪能できないからやめてください!

というかむかつくんでやめてください!

端正な顔立ちのドヤ顔って目の保養になると同時にすっごく腹立つんです! 」


 必死の攻防を続けながら突っ込みを入れる、というのは常識外れも甚だしい所だが、そこはやはり神というべきなのだろうか。

 それから数分間は二人のダンスが続いたが、アカネがすっきりしたところで唐突に終わりを迎えてた。


「お願いしますどうか旅してください……私何でもしますから……。

えっちなことでもしていいですからお願いします……」


「じゃあ召使、この家をきれいにして」


「メイドプレイとはまたいい趣味を……あ、いえ何でもありませんそれ以上は家政婦が見ることになるんで」


 錯乱しているのか、ナイアが妙なことを口走る。

 それに対してアカネはナイフでほほをたたく、という物理的な脅しで黙らせた。

 その際に地面に倒れ伏しているナイアの正面にしゃがみ込んでいた事と、アカネが動きやすい格好としてスカートを選んでいたため、ナイアの目には純白の聖域が映ることとなった。


 なお、その代償は眼球に突き刺さる1本のナイフが物語っていた。 

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