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drink up(仮)  作者: 神栖れい
1/1

#1

(寒い…。)


放課後の補習を終え、私が学校を出る頃には既に街並みは暗く静まり返っていた。

高校に入ってすぐの学力テストで見事に赤点を取ってしまい、早々に追試を受ける羽目に陥ったなんてお母さんに知られたらどんな顔をされることか。なんとか頼みこんで叶えてもらった念願の一人暮らしをすぐにでもやめろと言われかねない。そんなことを考えながら溜息を吐き出したとき、向かい側の歩道にちょうどバスが停まった。慌てて少し先の横断歩道に急いだが、バスは無情にも私を置いて走り去っていった。


(最悪…。)


1時間に1本しかないバスに乗り遅れることは初めてじゃないが、補習からようやく解放されて一刻も早く家に帰りたいこんな時に乗り過ごすなんて憂鬱な気持ちになった。11月に入ったばかりだというのに冷たい風が身体を刺してくる。ここ一番の寒さだといっていた朝の天気ニュースを思い出した。

学校に一度戻ろうかとも思い、ちらりと校舎の方を振り返るけれど、1時間も待っていたらさすがに一斉下校の時間は過ぎてしまうだろうし諦めた。林に囲まれたあぜ道にぽつんと立つ学校の周りにはお店はおろか民家すらない。


仕方ない、徒歩40分の道を帰ろう。

吐く息は白く、じんと冷たい指先を擦り合わせながら私は歩き出した。




15分ぐらい歩いただろうか?時間を確認しようとカバンからスマホを出し見てみると、電池残量が3%しかないことに気がつきぎょっとした。果てしないようにも思える長い林道を超えなければ家には着かない。鬱蒼とした木々が続いているだけのこの道は人気が全くないため不審者が出たとかいう話は聞かないが、時々上がる甲高い鳥の声や風が揺らす木々のざわめきが不安を煽る。両脇を森に囲まれただけの真っ直ぐな道をゆく。

出来ればこんな田舎ではなく、もっとお洒落なお店や美味しいスイーツが食べれるお店にほど近いような所に住みたかったけれど仕方ない。16歳になったばかりの私は自分でバイトして生活することと勉強を怠らないことをお母さんに誓って勝ち取った一人暮らしだったから。無論一銭だって安い物件を選ぶほかなかったのだ。そのためにこんな山の中の高校だって志望して通っている。


車すら全く通らない林道の砂利道には、時々思い出したかのように外灯がぽつぽつと立っているだけだ。外灯の下を通る度に少しだけほっとして、次の外灯はまだかと急かされた。静寂の中で、砂利を踏む私の靴音だけが響く。既に指先や足先の感覚がなくなってきた。きっと鼻先は真っ赤になっているだろう。


暫くそうして歩いていると森の中から唸り声のようなものが聞こえた。低く威嚇するように響く声。恐怖で思わず身が竦んだ。人のものではない、獣が発するような重低音。


恐い。なるべく気にしないように・・・早く帰ろう。私はカバンを持つ手に力をこめ、意を決して小走りで駆け出した。じゃっ、じゃっ、じゃっと足元で小石が踊る。


何個目かねね外灯にさしかかった時、森の中からいきなり黒い何かが飛び出してきて私は声もなく弾き飛ばされた。


「痛っ!!」


砂利道に倒れ込んだ私は顔を歪めた。制服のスカートから出た膝に血が滲んでいる。咄嗟に手をついたため、小石で切った手のひらからも出血していた。

はっとして顔をあげると、私とぶつかったであろう何者かがうずくまっていた。


「だ、大丈夫ですか?すいません。でも、なんでいきなり・・・・・。」


こんな所で、と言いかけて私はかたまった。そうだ。どうしてこんな時間にこんな所で人が飛び出してくるんだ。おかしい。きっとやばい人だ!


逃げるべきか否かという考えが頭をよぎった時、ぶつかった人がのそ、と立ち上がり私を睨んだ。

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