「あなたが作ってくれるものなら、何でも」
小さな町の片隅の、小さな工房。床の上には、大小様々な木切れが散らばっている。そんな工房で、一人の男が何やら作業をしている。
ようやく少年の年齢を脱した、という顔。その顔に難しい表情を浮かべて、彼は目の前の図面と睨みあっている。図面の横には、四枚の写真。同じ女を、四方から撮ったものだ。
(材料は、あらかた揃ってる。だけど……)
図面を見るかぎり、どうやらオルゴール人形のようだ。男は図面の下から、別の紙を引っ張り出す。
眉間にしわを寄せて紙を睨む。
「なーにしてんのー?」
突然後ろから聞こえた声に、男は思わず頓狂な声を上げた。
「な、なんでお前がここにいるんだよ」
声の主――男の幼馴染――は、男の反応が壺にはまったらしい。口元を手で隠して笑っている。
「ちょっと用事があって家に行ったらいなかったから、おじさんに聞いたら、ここだって。最近は毎晩いるんだってね」
(あの親父……余計なことを)
男の脳裏に、朗らかな顔で幼馴染に自分のことを話す父親の姿が浮かんだ。
(全部しゃべってないだろうな)
幼馴染がじっと図面を見ているのに気付き、慌てて隠す。
「えー、見せてよ」
「だめだって。大事な……なんだから」
もごもごと口ごもる。
「えーと、そうだ、用事って何?」
「これ、渡そうと思って。今日だよね、誕生日」
丁寧に包装された包み。大きさと、持った感触からして、セーターか何かだろうか。
「ありがとう」
帰ろうとする幼馴染を呼び止め、送るよ、と声をかける。
「平気平気。目つぶったって帰れるよ」
「もう遅いし、女一人でなんて、危ないだろ」
工房にしっかりと鍵をかけ、二人で夜道を歩いて行く。人は少なく、辺りは暗い。
「何か言った?」
小さな声を聞いた気がして、幼馴染に声をかけた。
「何でもない」
幼馴染を家まで送り、男も自分の家に帰る。
「プレゼントはできたか?」
入るなり、父親がにやにやしながら問いかけてきた。
「うるせえ。つーか余計なことしゃべんな、クソ親父!」
真っ赤になって自室に逃げ込む後ろから、父親の笑い声が聞こえてきた。
女はベッドに横になったまま、サイドテーブルを眺めていた。正確には、置いてあるものを。
手の中に納まるほどの、粘土細工の人形。その作りは、子どもが作ったものだとはっきり分かる。
――これ、作ったから、やる!
顔と手を粘土と絵具だらけにして、得意気に差し出して来た彼の顔は、今でもはっきりと思い出せる。
ふふ、と笑い声が漏れた。高いものでなくていい。複雑なものでなくていい。
「何でもいいんだよ。あなたが作ってくれるものなら、何でも」
Twitterにて、日向葵さんからリクエストをいただいた小説です。