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森蝕時代シリーズ

マンドレイク・フォレストキング

 私はいつからかこの暗くてジメジメした所に生えている。
 いつからか、というのは判然としない。
 私に知性というものが芽生えた時には、すでに私はある程度以上の大きさに育っており、それ以前にどれだけの時間を過ごしていたのか等見当もつかないのだ。

 さて、それにしても光が欲しい。
 このままでは色が抜けて真っ白になってしまう。
 どうにかこの森の薄暗闇から抜けださねば。


 ああ、申し遅れた。
 私は『マンドレイク』のマンドラゴーラ。
 植物である。


◆◇◆


 植物と言っても、ただの植物ではない。
 マンドレイクは魔物の一種である。死体を苗床にして育った植物が、稀に変異するのだ。
 マンドレイクの『マンドラゴーラ』。これは自分でつけた名前である。呼んでくれる者も居ないが、自己認識は大事なので一先ず名付けてみた次第。

 因みに、キルレアン場による触覚――要は不可視の何かによる測距イメージだと思って欲しい――によって周囲を探れば、何やら風化した魔法使いのローブらしきものが近くに落ちているのが認識できた。
 マンドレイクに変異する前の私は、なかなかに強力な毒草であったらしいので、大方道に迷った駆け出し魔法使いが私の葉を食べて死亡したということだろう。
 かくして哀れ魔法使いは、私の養分と成り果てたのであった。

 しかも死因が私の毒であったため、魔法使いの魂の力が私に流れ込んだらしい。
 勝者が敗者の力を吸収することは、どうやらこの世界のことわりであるらしい。
 雑草に過ぎない私が、魔法使い見習いというはるかに種族的に格上の相手を殺したことで、大幅にレベルアップしたらしい。

 らしいらしいと伝聞形ばかりで恐縮であるが、生憎私は世間というものを知らないのだ。
 あるのは幾ばくかの知識――森の中で行き倒れる程度の実力しか持たない魔法使い見習いの脳髄から吸い上げた知識のそのまたさらに断片――だけである。
 今あるところの知識にしたって、何処まで正しいものやら。

 それにしても、光が恋しい。林床は暗すぎる。


◆◇◆


 暇である。
 暇なのである。
 暇過ぎるのである。

 知性在ればこそ暇を感じるのである。
 全く、我が糧となった見習い魔法使いも余計なことをしてくれたものだ。
 退屈は何にも勝る拷問と言うことか。今まさに実感している。

 考えるしかすることが無いので、私は考える。

 例えば、私の今後について。

 このままでは、光が足りずに私は飢え死にして枯れてしまうだろう。
 いや、これまで細々と生きてきたので、身体を小さくすれば枯れることはないだろうが、折角得た知性は消滅してしまうだろう。
 それは少々勿体無いのである。退屈は拷問だが、知性の消滅は死である。そいつはゴメンだ。

 どうにか光のあるところまで茎を伸ばせないものであろうか。
 あの木立の梢の先にまでするすると伸ばせれば――。


◆◇◆


 ――にゅるん。


◆◇◆


 ……伸びた。
 茎が蔓になって伸びた。
 はて、私の生態的には、蔓や蔦が伸びるようなことは無いはずなのだが。

 これもマンドレイクという魔物に変化した恩恵であろうか。
 取り敢えず、光のある方へ、どんどんと伸ばしてみることにする。

 にゅるるるるるるるる……――。

 木々の梢の先にまでは伸ばせなかったが、周囲の木の高さの半ばくらいまでは伸ばせた。これ以上は伸ばせないようだ。
 あの光り溢れる林冠ほどではないが、ここでも林床の薄暗闇よりはマシである。
 最後の力で蔓の先に葉を広げた。ああ、光が美味しい。


◆◇◆


 どうやら蔓を伸ばすのは、一種の魔法というか、スキルというか、そういった類のものらしい。
 魔力なる不可思議な力を糧にして、私は自分の体をある程度自在に変えることが出来るようだ。
 マンドレイクなる魔物は、成長すれば自在に森を歩き回り、蔓や枝葉を伸ばしたり飛ばしたりして他の生き物を襲うらしいから、この能力は種族特有のものなのだろう。

 それというのも、つい先程初めて、自分以外のマンドレイクというものを見かけたから知れたことである。
 人間の出来損ないみたいなソイツに対して、私はキルレアン場による他感作用で交信を試みたのだが、上手く行かなかった。
 相手には、交信に答えられるだけの知性が備わっていなかったのだ。

 私は芒洋と歩いて行くマンドレイクを見送るしか出来なかった。
 マンドレイクというものは、知性を持たぬのが普通なのかも知れぬ。

 実は、私の苗床となって養分を吸われた見習い魔法使いは、見習いではなかったのかもしれない。
 倒した者から吸収できる力というのは、当然、倒した相手のパラメーターによって左右される。
 たかが毒草に知性を宿らせるほど、私を齧って死んだ魔法使いの知性は高かったということであろう。

 そのような高位の魔法使いが、何故森の中で毒草を齧る羽目になったのか、そればかりは謎であるが。
 案外、世を倦んでの自殺であろうか?

 まあ良い。
 何であれ、私が助かっているのは事実である。
 回復した魔力でさらに蔓を伸ばし、遂に私は林冠にまで葉を広げることが出来た。

 ああ、なんと太陽が眩しいことか!
 燦々と降り注ぐ光が活力を齎してくれる。
 素晴らしい。


◆◇◆


 魔力が回復するたびに蔓と葉を広げ、一帯の林冠を覆うくらいにまで私は広がった。
 蔓も太くなり、青々とした葉が茂る。
 我が世の夏である。

 葉を広げたとなれば、次にすることは何か。

 そればかりを私は考えている。

 どうやら他のマンドレイクは、魔力で蔓を伸ばすよりも、自分で歩いて森の外に向かうことを本能で決められているようである。
 何匹ものマンドレイクが歩いて森の外縁に向かっていくのを、私はキルレアン場のレーダー触覚で感知した。
 オツムが間抜けだというのは、たいそう哀れなことである。わざわざ歩かずとも蔓を伸ばせば光は手に入るというのに。

 また、マンドレイクは血に飢えているようでもあった。
 死体の血を吸った植物がマンドレイクになるということであれば、本能的に血を求めるのも納得が行く。獲物を求めて森を彷徨うのである。
 私としては、血よりも光のほうがよっぽど美味しいと思うのだが、彼ら同族からは共感は得られなさそうである。残念だ。


 一先ず私は、光にも水にも不自由しないようにはなった。

 今後はどうするべきか……。


◆◇◆


 考えた結果、本能に従うことにした。
 といっても、別に他のマンドラゴラと同様に、血肉を求めて彷徨うモンスターライフに飛び込もうというのではない。
 それよりももっと原初的な本能に従うのである。


 つまり……、『生えよ殖やせよ地に満ちよ』ということだ。

 生物の本懐は、子孫繁栄である。
 ここは偉大なる先行者たちを見習い、私という存在を世界に広めるために努力していきたい所存である。

 先ずは地下茎に栄養を蓄えることからであろうか。
 水不足や山火事が来ても良いように、地下に栄養を蓄えておこう。保険は大事だ。


◆◇◆


 地下茎に蓄えた栄養だが、モグラに齧られた。
 糞忌々しい。
 最近枝葉を齧られるより伸ばす速度のほうが優っていたため毒素の生産をサボっていた。それが良くなかったか。

 急遽毒素を産生し、地下茎部位にも蓄える。
 それを齧ったモグラが死んだ。
 ザマァ見ろ。ついでに私のレベルが上がった。

 そろそろ花や種を付けて、生息領域を拡大したい所である。
 どんな花が良いだろうか。
 考えるのは楽しい。


◆◇◆


 赤い花は鳥を呼ぶ。
 紫外線に反応する黄色や白の花は蝶や蜂を呼ぶ。
 夜に咲かすなら花の色よりも甘い匂いが重要だ。コウモリたちが寄ってくる。
 ハエを呼ぶなら腐敗臭に限る。色や形はどうでもいい。

 試行錯誤して花の形や匂い、蜜の量や味を変えてゆくのは楽しかった。
 普通の植物なら、蜜を用意するのだって大変なのだろうが、そこはそれ、私には魔法がある。
 蜜でも溶解液でも何でも魔法で用意できるのだ。しかも自分の想像力が及ぶ限りはその通りに。

 まあ既にここいら一帯の森は、全てが全て私の蔦によって覆われてしまい、私以外の植物は枯れてしまっているのだが。
 毒素のもたらす強烈な他感作用によって、他の木々は枯れてしまったのだ。
 私の蔦で絞め殺した木々も多い。

 一種類のマンドレイクしか居ないのに、色とりどりの花が咲き乱れているこの森は、なるほど確かに魔性の森だ。

 ああ、最近奇妙な同居人が出来た。
 マタンゴのマーくんだ。
 私の枯葉や、時々私の幹を伐りにやって来る人型の小さい奴ら――ゴブリンというらしい――を蔦で絞め殺したりしたあとの、その死体処理をやってくれるナイスガイだ。

 マタンゴというのは、マンドレイクの茸バージョンと言う所で、どうやらマーくんも元は毒キノコであったらしい。
 長い年月をかけてレベルアップし、動けるようになって私の森を横切ろうとしたマーくんを捕獲洗脳――げふんげふん、スカウトしたという訳だ。

 今はお互いに無いところを補いあう素晴らしい共生関係を築いている。私が炭水化物を渡し、マーくんは硝酸や燐酸を死骸から分解して回収するという役目だ。
 時には暴走してしまい、お互いの菌塊と植物体の間で菌糸やら毒やらで冒して殺し合ってしまうこともあるが、まあそれくらいの緊張感があったほうが良いというものだ。
 一部が殺られたとしても、菌塊であるマーくんも、マンドレイクである私も大した痛手にはならない。お互いのレベルアップにも繋がるので、節度を持った対立というのは必要であろう。

 しかし花を作るのにも飽きてきた。
 出来た種は何故か芽吹かないし、徒労感が募る。
 ……まあ、花が咲いていた場所の直下に落下したせいで、私自身の他感作用の餌食になったのであろうな。

 もっと遠くに種を運ばねば芽吹かないのだろう。
 うむ、新しい花を作るのにも飽きてきたことだし、次は果実や種に凝ることとしよう。
 どうせ時間は腐るほどあるのだ。


◆◇◆


 森の外縁部分を徐々に広げつつ、果実を作る実験を続ける。

 赤くて小さい果実は鳥に人気がある。
 大きくて甘い果実は猿に人気だ。
 果実ではなくて種に脂肪を多く蓄えたものは、ネズミやリスに人気が高い。

 大きな果実単体で作ったり。
 ブドウのような房生りにしたり。
 小さな種を沢山びっしりと穂に生らせたり。

 色々試している。

 種自体の飛ばし方も研究中だ。
 綿毛をつけたり、滑空用の羽をつけたり、細かな鈎で動物の毛皮にくっつけたり、粘着液でくっつけたり、丸ごと喰わせて鳥に運ばせたり、軽くて小さい種を雨水に乗せて流したり。
 一番のヒットは、しならせた蔦で遠くに自力で投げ飛ばす方法だ。種の形や大きさに工夫の余地がある。


◆◇◆


 マタンゴのマーくんに子供が出来た。
 ……子供という言い方は不適切かも知れない。
 要するに子実体である。キノコである。レッサーマタンゴというらしい。

 レッサーマタンゴはトコトコと森の外に歩いていった。
 自分のエネルギーが尽きるまでひたすらに歩き、殖えるのに適当な場所を自分で見つけるらしい。
 そして適当な場所に来たら自爆して胞子をバラ撒くのだとか。

 ――――その手があったか!


◆◇◆


 マタンゴのマーくんに倣って、私も自分の分身体を作ってみる。
 謂わばレッサーマンドレイクだ。
 光と水ある所に根付くようにと言い聞かせて送り出す。

 一日十体、とにかく送り出す。
 私自身も大きく広がったため、この程度の消費は造作も無い。
 もっと大きく権勢を広げるのだ、地の全てを覆うように。


◆◇◆




 ああ、燃える、燃える、燃える。

 私の森が燃えて無くなる!

 ああ、ああ、ああ! なんという事だ!




◆◇◆


 どうやら送り出し続けたレッサーマンドレイクが、周辺に暮らす人間の脅威となっていたらしい。
 業を煮やした奴ばらめ、手に負えぬとばかりに私の森に火を放ったのだ。
 全く以て忌々しい。

 あと私自身はただのマンドレイクのつもりであったが、人間らの言う所によると、『マンドレイク・フォレストキング』というらしい。ボスモンスターだとか云々。
 レッサーマンドレイクも、『マンドレイク・ナイト』と言うのだとか。だから何だといえば、何でもないのだが。
 ああ、マタンゴのマーくんは、『パラサイトマタンゴ・キング』と言うそうだ。全くだから何という話だ。お互いに偉くなったものである。

 まあ、地下深くにあった栄養を蓄えた地下茎は全く無事であったので、問題ない。マーくんの本体も無事だ。
 蓄えた栄養と魔力を消費して、一夜にして森を復元する。マーくんにも魔力を分け与えて、一緒に再び森を作る。
 二度と燃やされないように、燃やされると神経系の毒ガス化する特性の毒素を枝葉に行き渡らせる。元は毒草であったのだ、毒の扱いはお手の物だ。



 燃やされることは減ったが、人間ども、今度は伐採して来やがる。森を広げるそばから伐り取られていく。森を広げられない。
 忌々しいことだが、まあ、仕方あるまい。しばらくは今の森の大きさで我慢するとしよう。今は雌伏の時だ。
 地上部分が伸ばせないならば、地下から密かに伸ばしていけば良いのだ。そして地下から何処か遠くの森を侵略するとしよう。

 時々私の若い葉芽や蕾を取っていく人間が居る。
 神経系の毒素が病みつきになったのかも知れない。
 ……ふむ、他の動物との共存共栄というのも有りうるのであろうか。私とマーくんのように。一考に値する。


◆◇◆


 いつまでも私とマーくんだけで人間と戦うのは難しいので、他のモンスターの手を借りることとする。
 と言っても大したことではない。今まで種砲弾とか絞め付け蔦とか溶解液とか毒の実とかで命を奪って皆殺しにして肥料にしてきたモンスターたちに対して、少々のお目こぼしをくれてやるだけである。
 芋虫退治のために蟻を幹に住ませる植物のように、私は人間対策としてモンスターを森に住まわせることにしたのだ。麗しき共生である。

 私の分身体であるマンドレイク・ナイトや、マーくんの子供であるレッサーマタンゴでも戦力としては充分なのだが、如何せん偏りが酷い。
 具体的には火炎や氷結に弱すぎるのだ。
 画一的ではよろしく無い。単一種で森を作っている私が言うのも変な話であるが、多様性というのは外敵に備えるにあたって重要である。

 という訳で、慎重に生態系を作り上げていく。
 一種族だけ優勢になるのはよろしく無いだろう。
 先ずは虫系のモンスターからであろうか。蜜や果実を餌にして、寄せ集めることとしよう。


◆◇◆


 月が巡り、季節が過ぎゆく。
 私が森の主となってから、一体どれほどの月日が経ったであろうか。年輪でも数えれば良いのかも知れないが、一度全てが燃え落ちている以上、それも当てになるまい。
 対人間用にモンスターを集め始めてから大分経ち、森のモンスターの種類も豊かになってきた。

 一時期は巨大なドラゴンが棲み着いたこともあったが、余りに森を荒らしすぎるので、私が殺した。
 硬い種の砲弾で弱らせ、毒を染みこませ、寝る間もなく攻め立て、最後には絞め付けて、生きたまま養分にしてやった。竜の血は美味であった。マタンゴのマーくんも竜の死骸を貪って満足そうであった。
 私が求めるのは、強力な個ではない。強者は私だけで充分だ。私が求めるのは、もっと小回りが利いて数が多い輩なのだ。

 そんな現在、どうやらこの森一帯で一番強い魔物は、豚と人を混ぜたような顔をした筋骨隆々とした鬼のようである。オーク鬼というらしい。

 オーク鬼くらいが、人間から私の森を守るには丁度いい。
 力も強く、繁殖力旺盛で、森の理というものをよく理解している。人間に劣らぬ繁殖力を持っている点も、非常に重要である。
 それに森への敬意を忘れないあたり、好感が持てる。お互いの出来ることと、相手を利用することを良く弁えているのは良いことだ。

 特に、オークの中でも、オーク・ドルイドという呪術使いは素晴らしい。
 私のキルレアン場を捉えて、私と交信できるのだ。彼らは的確に私の意図を読み取ってくれる。
 彼らが私の森と共にある限り、私は彼らを守護しよう。

 共存共栄。
 私の森を焼いた人間どもが居なくなれば、私の森が広がる。
 オーク鬼たちが人間を殺せば、彼らと共に私の森が広がる。

 食べ物を作ろう。
 薬を作ろう。
 蜜をやろう。
 綿だって使うと良い。
 実からは油だって搾れるぞ。
 木材だって存分に使え。
 魔力を込めた実を食うが良い、魔力が増して強くなるぞ。
 鉄より硬い芯材も与えよう、好きなだけ武器を作れ。
 樹脂を伸ばして固めれば軽い鎧に加工できるぞ。
 永い時を生きる私は、智慧すらも蓄える。お前たちが教えてくれれば、その分覚えて良き助言者になれるだろう。

 オーク・ドルイドよ、私はお前たちの望みを聞こう。必要なものは何でも用意しよう。
 だからお前たちは私の望みを聞いてくれ。
 私と共に世界に広がろうではないか!

 乾いた砂漠だろうが。
 水のない渓谷だろうが。
 塩だらけの湖だろうが。
 凍土の土地であろうが。

 私の森を広げさせてくれ。この世界の隅々まで。


◆◇◆


 これが世に言う『森蝕時代(しんしょくじだい)』の幕開けである。


◆◇◆


『昔々の話である。
 人に迫害された強大な魔法使いが居た。
 親しい人に裏切られ、人に絶望した彼は、森の中に入り、毒草を食べて自殺した。

 魔法使いの無念と絶望の血は、一匹の魔物を生み出した。
 取るに足らないマンドレイク。それがその魔物だ。
 ただ一つ違ったのは、魔法使いの叡智が、マンドレイクに受け継がれたことであった。

 長い年月を経て、知性を持ったマンドレイクは大きくなった。
 森は全てマンドレイクによって構成されるようになった。全てのモンスターが、マンドレイクとその寄生体のマタンゴに貪り食われる死の森だ。
 歩かないマンドレイク。森の王。人々は、『マンドレイク・フォレストキング』とそれを呼んだ。

 ある時、マンドレイクは侵略を始めた。
 沢山の子供たちを生み出して、周辺の村々を襲い始めた。
 死の森から生み出されるマンドレイクは強く、人々はそれを森の尖兵『マンドレイク・ナイト』と呼んだ。

 やがて死の森を焼き払うこととなった。
 山火事がすべてを灰塵に帰した。しかし一夜にして森は復活した。
 また焼き払おうとしたが、煙が毒ガスになり、煙に巻かれた周りの村が壊滅した。

 死の森は明確に人間に牙を剥き始めた。

 蜜や果実がモンスターを集め、死の森は、迷宮異界(ダンジョン)となった。
 竜も棲み着いたが、なんと森の王『マンドレイク・フォレストキング』は、竜を殺した。
 竜をも殺す森の王。竜殺しの死の森。恐ろしい迷宮異界。

 竜殺しの死の森のモンスターたちは精強だ。
 マンドレイク・フォレストキングの身体から日々の糧を得ているそれらは、マンドレイク・フォレストキングの魔力の恩恵を受けている。
 特に、植物と交信できるドルイド職のモンスターは、森そのものを味方にして襲いかかってくる。竜殺しの死の森のオーク・ドルイドは賢く、その危険度は竜種に匹敵すると言われる。


 今もなお、竜殺しの死の森は広がっている。森に棲み着いたオーク鬼たちと共に、人間の領土を切り取っている。
 植物の王『マンドレイク・フォレストキング』は、その再生力の高さゆえに火を克服し、毒素のエキスパートで根を深く張るために枯葉剤も物ともせず、強大な魔力ゆえに呪いも跳ね返す。
 その庇護があるかぎり、森のオーク鬼たちの進撃は留まることを知らないだろう。

 ああ、歴史のIFに思いを馳せざるを得ない。
 もし人間が森を焼かず、あの森の王『マンドレイク・フォレストキング』と共存できていれば、どんなに人間は発展できていただろうか。
 だがそれも叶わぬこと。森の王は執念深い。人間が赦されることはないだろう。

 あるいは遥か昔の魔法使いが、人間に絶望していなければ。
 あの魔法使いを迫害していなければ。魔法使いを裏切らなければ。
 ただ一人の絶望と無念が、人間を滅ぼそうとしている。

 人間たちに対する、オーク鬼と森の王の戦いは、永劫に続いてゆくのだろう。
 恐らくは人間が滅ぼされるその日まで。
 時は森蝕時代。これは生存闘争なのだ。

 ――何故私が、野垂れ死んだ魔法使いを知っているのかって?
 私の先祖が、魔法使いを裏切ったからだ。森の王を生み出した絶望を魔法使いに与えたのは、私の先祖だ。
 これは一族に伝わる後悔なのだ。宿命だ、使命だ。私たち一族の手で、森の王を滅ぼさなければならないのだ』

 ――――森蝕時代の英雄未満の誰かの手記より。
■キルレアン場
キルリアン写真から名前拝借。オーラっぽいもの。

■オーク鬼
森と共生しているから、ある意味エルフと言っても良いかも知れない。

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