夏の朝
こういったサイトに投稿するのはこれが最初になります。
ただの趣味ですが、読んで下さった人の暇な時間が少しでも楽しい時間になればと思います。
……を大きく上げて、背伸びの運動!
イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチ……。
小学生の朝は早い。まだ朝の八時だと言うのに公園でラジオ体操に励んでいる。 ご苦労な事だ。
近所の小学校が夏休みに入ってから一週間、毎朝八時にはすぐ隣の公園から流れてくるラジオ体操の歌でたたき起こされている。おかげで睡眠不足もいいところだった。
俺は、窓に降りているブラインドの隙間から公園の方を睨みつけた。すでに体操は終わり、小学生たちがスタンプを貰おうと保護者に群がってるのがなんとなく見えた。 やることもないので少女の観察でもすることにした。
窓に近付き、ブラインドをすこし開く。俺の部屋は一階なので、ブラインドを上げてしまうと向こうからもこちらが見えてしまう。昨今、変質者に対しての警戒はどんどん厳しくなっている。
もちろん俺は変質者なんかではないが、ただ見てるだけでも通報されかねない。
まぁ、自分の子供が事件に巻き込まれる事を考えたら仕方ないことなのかもしれない。
スタンプを貰ってさっさと帰る子、このあとの予定を話し合う子、昨日のテレビ番組の内容で盛り上がる子。じつに楽しそうだった。
そんななか、俺はお目当ての子を見付けた。
彼女は、公園の隅の方で友達とおしゃべりをしていた。
瀬野 麻衣。それが彼女の名前だった。
小学五年生の十一歳、身長は他の子に比べると低めで、推定百三十くらいか?
おさげ髪に黒縁の眼鏡、脚は細すぎず、かといって太くもなく、キュッと締まった足首のおかげか、身長のわりにスラリと感じさせる魅力があった。
胸は年相応だが、腰からお尻にかけてのラインはシルエットでも判別できそうなくびれを形作っていて、小さい身体ながらも、しっかりと女を主張していた。
その地味な恰好と、アンバランスな肢体とのギャップがたまらなく好きだった。
すこし観察していると、友達二人と一緒に麻衣ちゃんがこちらに向かってきた。 どうやら日陰を求めてきたらしい。
俺の部屋の外には、部屋への日光のほとんどを遮る忌々しい樹が生えていたが、まさかこんな風に役に立つとは思わなかった。
麻衣ちゃんの声が聞こえるのは嬉しいが、ここはあまりにも近すぎる。公園を囲うフェンスと部屋の壁がなければ、一緒に会話をしていても違和感がない距離だった。
さすがにやめようと、窓から離れようとしたそのとき、女の子の声が飛び込んできた。
「麻衣ちゃんってどんな男の子が好きなの?」
「あ、私も気になる!」
そう聞こえた瞬間、俺は窓に張り付けにされたように動けなくなってしまった。
ものすごく聞きたかったが、聞きたくなかった。麻衣ちゃんが答えるであろう内容を聞いて、会ったこともない小学生やテレビの中の俳優などに嫉妬なんてしたくなかった。
でも、動けなかった。
「え、私?わたしはあんまり元気な人って苦手だから、優しくて大人な人がいいなぁ」
一瞬、脳の活動が止まった気がした。
「じゃあやっぱり年上?大学生とか?」
「うーん、べつに大学生じゃなくてもいいけど、一緒に本読んだり、映画観たりしたいなぁ」
なんか、それって……。
「あ、でもたまには二人で運動もしたいなぁ」
「ま、麻衣ちゃん意外とロマンチストなんだね」
俺みたいな奴でも……。
「ち、ちがうよ!そういう人がいればいいなって話しで……もぉ、由美ちゃんが聞いたんじゃない!」
ありってこと?
外では三人の笑い声がしていた。意識がはっきりしてきて、俺は麻衣ちゃんに視線を戻した。
彼女も、俺を見ていた。
「…………え?」
くすくす、くすくすと。目を細め、曲げた人差し指を口元に当て笑っていた。
それは嘲笑だった。
それまでの屈託のない笑顔とは違う。明らかに俺に対して向けられた嘲りだった。
味わったことのある寒気が走った。冷たい汗が流れた。
あの笑顔は俺を見下し、蔑み、哀れんでる顔だった。
俺は、覗いているのがばれた焦りを感じることもなく、ただ彼女の顔を凝視していた。というより、視線を離せなかった。
「そろそろ行こうよ。みんなで宿題やらない?」
そんな言葉が聞こえた気がした。
もう彼女はこちらを見ていなかった。
ほんの数秒のことだったが、とてつもなく長く感じた。
少女達の声が遠ざかっていく。俺はもうそちらを見ることが出来ず、目を逸らした。
一番後ろを歩く彼女が、一瞬こちらを振り返った気がした。
…………くすくす。