迷うな 突っ込め
カリンが冷静な声で僕を急かす。
「さぁ早く飛びなさいタイセー。次が来てしまっているわ」
「え、ホント!?」
ガケ横を見てみると、ついさっき僕が来た登り道を駆け足で上がってきているのは……、Oh My God! テンマさんだ!
マズイな、よりにもよってあの人か……。カリンとテンマさんがここで顔を合わせたらまたどんなPSIバトルが始まるか分からない。そもそも僕はあの娘が苦手だし。
よしっ、ここはこの手で行くしかないっ!! わざと驚いた顔をしてカリンの背後を指差し大声で叫ぶ。
「あ!! カリンの大好きなわかめごはんだっ!!」
カリンがバッと後ろを振り向いた瞬間に、ていやっとガケから飛び降りる。
やった、上手くいった!! 小さい頃のカリンが好きだったものを思い返してみて一番最初に出てきたのを言ってみたけど大正解!!
よーし! 間違っても力を使って落下速度を遅くしようなんて考えないぞ!! 慣性の法則に従ってマットまで一気に落ちてやる!! カリンに心を読まれてたまるもんか!!
「うわわっ!」
考えていた以上に空気の抵抗が凄い!! 襲いくる空気を強引に身体で切り裂いて突き進む感じだ!! そしてみるみる内に近づいてくる青いマット!! 怖いけどもっと早く早く!! じゃないとカリンに追いつかれちゃう!!
「ずいぶんと子供騙しな手を使うのね、タイセー」
ひぃぃっ!? 頭から急降下中の僕の顔の正面に涼しい顔をしたカリンがいる。
「あんな見え透いた嘘にこの私が引っかかるとでも思ったのかしら? 私、そこまで単純じゃないわよ」
「あ、あぅ…」
「まぁいいわ。さぁいらっしゃい、あなたの全てを見せてもらうから」
「わぁぁっ!?」
カリンに空中でぎゅっと抱きしめられる。
“ 地面に向かって真っ逆さまに落ちている最中に美人な幼馴染に抱きつかれる図 ”、ここに見事完成です。
「カッ、カリン!! ダメだよっ!! 僕の心を勝手に見ないでよっ!!」
空中なのでほとんど意味は無いけど見苦しくジタバタと暴れてみる。
しかしカリンからの反応は無い。僕の背中に手を回し、僕の胸に深々と顔を埋め、しっかりと目を閉じている。
読んでますか!? 読んでおられるのですか!?
「カリン! ねぇカリンってば!!」
何度呼びかけてもカリンの身体はピクリとも動かない。
……オワッタ。僕の人生、本当にここでオワッタ。
恐らく全部見られてる。
〇秘な情報からセキララ情報まで、接触感応で逐一見られている最中と思われます。今は空中だからできないけど、もし地面に立っていたら背中に負のオーラを背負って四つんばいにガックリと突っ伏したい気分だ。
……あーっ! もういいよ! そんなに見たけりゃ好きなだけ見ればいいさ!!
僕がどんな目で久々に会った幼馴染の君を見ているのか、そのダークな部分まで完璧に知って幻滅してくれよ!! でもたったわずかの間だったけど、カリンみたいな綺麗な女の子に告白されて嬉しかったよ!! だから最後にもう一つだけ君との良い思い出をもらうからねっ!! これは僕のプライバシーを君が勝手に侵害した迷惑料と思ってくださいっ!!
「カリンっ!!」
カリンの名を呼んで思い切りその頭と身体を抱きしめる。
うわぁ…肩細いなぁ……! それにすっごく柔らかい!!
あぁ、落ちこぼれな僕の人生でこんなカワイイ娘を抱きしめる事ができるなんて夢にも思わなかったよ。情けないけど目尻に嬉し涙が滲んでくるのを止められない。
お父さん、お母さん、僕を創ってくれてありがとう!! あなた達の息子は今最高に輝ける瞬間を満喫しています!!
……もうあと何秒か後には今抱きしめている女の子にボコボコにされると思うけど。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
……あれ? 落下速度が落ちているように感じるのは気のせいかなぁ……。
いや、気のせいじゃないっ!
カリンをムギュムギュしている喜びで夢中になっていたので今まで気付かなかったけど、速度がどんどん落ちてきている!
もしかしてイブキ先生が危険と感じて僕らをレスキューしてくれたのかな? でも何てラッキーなんだ! これであともう少しだけカリンを抱きしめていられるよ!
「…………タイセー…………」
「は、はひっ!?」
いきなりカリンに名前を呼ばれ、思わず声が裏返る。
マズイ、どうせ後でボコられるからといっても調子に乗りすぎたっ!!
慌ててカリンの身体から手を離すと、カリンがゆっくりと僕の胸から顔を上げる。
「ご……」
ごめんと謝ろうと思ったけど、逆さまの状態で僕を見上げるカリンの表情があまりにも可愛くて絶句してしまった。カリンのことはとっくに好きだけど一目ぼれってこういう感じなんだろうか。
「タイセー……、あなたってやっぱり素敵だわ……!!」
「ど、どういう事!?」
上気した頬でカリンが瞳を潤ませる。
「ヨナが嘘をついてたのね……。タイセーはずっとヨナを拒んでた。マットに押し倒したように見えたのも、ヨナを庇ったアクシデントだったのね」
── お父さん、お母さん、どうやらあなた達の不肖の息子は水際で一命を取り留めたようです。
「ごめんなさい、さっきはあんな態度を取ってしまって……」
カリンが腕の中でモジモジと恥らっている。
くっ…、こんな風な謝られ方をされて、いやダメだ許さん! なんて言う男なんかこの地球上にいるのかな?
「私のこと、許してくれる……?」
「ハ、ハハ! ゼンゼン! ゼンゼン キにしてナイネ! ダイジョブ、ダイジョブよ!」
キョドッたせいでヘンなカタコトになってしまった……。凄く恥ずかしい。
赤面していると、僕以上に頬を桜色に染めたカリンが僕の首に手を回してくる。
「タイセー……、好き……」
カリンがそっと目を閉じる。
ええええええええ!? ちょ、ちょっと待ってよ! まさか皆が見ているここで公開キスする気ですかっ!? 僕らは落下中でしかもこれが初めてなのに!? それに下にはイブキ先生だっているのにマズくない!? で、でもここで嫌がったらカリンが傷つくかも!? 女の子に恥をかかせるのは良くないしっ!!
と思いは千千に乱れる。
いや、こんな冴えない僕を好きだって言ってくれるカリンの気持ちを考えたら恥ずかしがっている場合じゃないよ! それに僕だってカリンが好きなんだから!!
えいっと気合を入れて、もう一度カリンをギュッと抱きしめる。
よぉぉぉしっ、タッ、タイセー・イセジマッ、もう一度行きまぁーすっ!!




