巨乳 vs 貧乳!?
怒りに我を忘れたカリンが、コダチさんを完全にスルーして僕の前に立ち塞がる。
ダメだもうおしまいだ!! ついにメデューサ様に抹殺されちゃうよ!!
カリンの影が僕の体の前面をゆらりと覆う。キツく目をつぶり、下っ腹に力を入れて刑の執行を待った。
うぅ、君がどのPSI能力で僕を断罪するつもりなのかは分からないけどっ、このまま裁くのなら、せめてっ、せめて一思いにお願いしますっ!!
「ひどい……私だけを見てくれるってさっき約束したばかりなのに……!」
……ん?
ゆっくりと目を開けると、カリンは怒ってなかった。でも代わりにちょっぴり泣いていた。まさか泣きだすとは思っていなかったのでうろたえてしまう。
「タイセーのウソつきっ!」
「……カリン……」
僕の前で涙ぐむカリンがすごく儚く見えた。さっきの約束を破るようなことは何一つしていないつもりだけど、でもこうしてカリンを傷つけて泣かせていることは事実だ。
「やっ、約束は破ってないよっ!」
心の中で何かが弾け、否定の言葉が口をつく。
でも罪悪感に似た気持ちが湧き起こってくるのはなぜだろう。
ほんの一時とはいえ、コダチさんの脚線美や特盛バストに目を奪われたことに対する、後悔の気持ちからきているのかもしれない。
もしそうなら、今の僕がなすべきことはただ一つ。
それはカリンに僕の想いを全力で伝えることだ。それしかない。
「カリン、聞いて」
「……」
戸惑いながらも涙に濡れた睫を瞬かせ、素直に僕を見上げるカリン。ずり下がり始めているスラックスを急いで引き上げ、伝えなきゃいけない気持ちを頭の中できちんとまとめる。
よし、いくぞ!
まずはすぅと一度深呼吸。落ち着け僕。後は一言一言、ゆっくりと言葉にしていくだけだ。
「ぼっ僕、確かにコダチさんの脚とかさっき見ちゃったよ? でもそれは見ようとして見たんじゃないし、コダチさんに特別な気持ちを持ってるから見たわけでもないよ。そこは絶対に信じてほしいし、あともう一つ、僕が好きな女の子はカリンだけだよ。僕、小さい頃も君のことが一番好きだったんだ」
……あうう、返事が戻ってこない……。
おそるおそるカリンを見ると、……あれ? 呆然としちゃってる?
勢いに押されて何を言われても頷いてばかりいた僕が、ここで突然こんな告白をしたので驚いちゃったのかな? メデューサ様ご本人が石化するという珍事が起きてしまっています。
「カリン、今のちゃんと聞いてた?」
細い肩をつかんで前後に揺さぶると、赤面中なメデューサ様は我に返り、急に顔を横に背けた。
「そそっそうでしょう? タタタタイセーも、よよっようやくわわ私のみ、みりょくを、ここっ、根本から理解できたようねっ!」
……えーとカリン? お嬢様然とした態度に戻ったのはいいけどさ、台詞めっちゃ噛みまくってるよ? でもこんな風に冷静さを失ったカリンもいいなぁ。そして改めて分かったよ。僕はこの女の子が本当に好きなんだ。
幼馴染でお嬢様、おしとやかで凛としているけど、怒っちゃうとメデューサかアマゾネスに一瞬で激変。でも僕はそんなカリンが大好きなんだ。
「うん、心の底から理解できた! 昔も今も僕にはカリンが一番だよっ!」
ニコッと笑顔でスマートに言えたっ! きっと偽り無い本心から出た言葉だからなんだろうなぁ。
こちらが見ていられないくらいにあわあわと動揺している真っ赤な顔のカリンは、頭の上からほんのりと湯気まで出し始めている。スゴイな、冷気だけじゃなく熱気も出せるんだね。ふと思ったけどヒトの脳の沸点って何度なんだろう。脳味噌が沸騰していないといいけど。
だけどこれぐらいじゃ足りないなぁ。もっともっともっと、カリンに僕の気持ちを伝えたくてたまらなくなっている。今なら臆さないでなんでも伝えられる気がするんだ。
よしっ、じゃあ言葉では伝えたから、今度は行動で示してみようっと!
昂る感情に後押ししてもらって、頭のてっぺんから湯気を出してはわはわしているカリンを思い切り抱きしめてみる。うわっカリンの熱気が伝わってきて身体の前面が熱い! だけどすっごく幸せだー!! 落ちこぼれの僕がこんなに幸せになっていいのかなぁ?
そんな喜びに打ち震えていると、冷やりとした感覚がなぜか今度は背中に。振り返ると……、
「……何よ何よランコの前でイチャイチャして……っ!」
今度はコダチさんが怒りの冷気を発してたーっ! なになに!? 美人って怒ると誰しもこうやって冷気を発することができるものなの!?
「なんでそんな貧乳な子がいいのよタイセー!」
プライドを傷つけられたコダチさんが叫ぶ。そしてコダチさんの暴言に、腕の中のカリンの身体がビクッと小刻みに震えた。
「抱きついてるのにまだ気がつかないの!? 今も教えてあげたでしょ! その子のおっぱい、あるように見せかけてほとんど詰め物でごまかしてるだけなのよ!? ランコなんか透視でとっくにお見通しなんだから!! ねぇ! カリンって言ったわよねっ、そうでしょ!? そのおっぱいインチキよね!? まがい物よね!?」
「……わっわたし……」
青ざめた顔で黙り込むカリン。
そっか……。
腕の中で力なく俯いてしまったカリンを見て、僕はすべてを理解した。きっと、コダチさんの言ってる事は全部本当のことなんだね……。
うな垂れてしまっているカリンの頭にそっと手を置き、僕の気持ちが全部伝わるよう、精一杯優しく撫ぜる。
……うん、大丈夫だよカリン。何も恥ずかしがることなんかないし、これからはブラに上げ底なんかしなくてもいいし、巨乳なコダチさんに劣等感を感じることだってないんだ。だって胸が大きくたって小さくたって、カリンはカリンだから。
「コダチさん」
また泣き出しそうになっているカリンの頭をぎゅうっと全力で抱きしめ、コダチさんに顔を向ける。
「僕は貧乳な子が好きなわけでもないし、かといって巨乳な子が好きなわけでもないよ。僕はカリンが好きなんだ。それだけだよ」
コダチさんの身体が怒りでふるふると震え出す。
「……タ、タイセーはやっぱりおかしいわ! ランコよりそんな子の方がいいなんて男として絶対におかしいわよ!」
「そうかな? 言えば傷つけてしまうことが分かっているくせに、その子が隠しておきたいことを平気で他人に暴露しちゃうような子が男に好かれるとは思えないけど。少なくとも僕はそういう無神経な女の子はとっても苦手だよ」
コダチさんが下を向いて黙り込む。シンとする屋上。膠着する場。
ちょっとキツく言い過ぎたかな……。でもあんな心無い言葉でカリンを傷つけたことはやっぱり良くないと僕は思う。
「……どうしてよっ……!」
顔を伏せ、コダチさんが両肩を震わす。
「どうしてタイセーはランコに夢中にならないのッ!? ランコの……ランコの魅力が分からない男なんてっ、この世界からみーんないなくなっちゃえばいいのよぉぉぉぉぉーっ!!」
突然コダチさんの頭上にいくつかの渦のようなものが現れた。
ええっあの小型ブラックホールみたいのは何!? 大気を捻じ曲げてるように見えるけど……。
「タイセーのばかばかばかばかぁぁぁぁぁーっ!!」
たくさんの渦が銃弾のような形状に変わり、僕めがけて一気に襲い掛かってきた。ここで逆ギレですかコダチさん!?
「危ないタイセー!!」
カリンが僕を突き飛ばす。狙うべき標的は変わったのに弾は軌道を代えずにそのまま大切な幼馴染へと突っ込んでいった。
そしてカリンの反撃。
恐らく自分が発動できるどれかの能力を使って結界を張ったのだろう、渦から生まれた弾丸は耳障りな高音と共にカリンの目前で次々に粉砕され、あっという間に消滅してゆく。すごいや!
「……あなた、私の男に攻撃をしかけたわね?」
すべての攻撃を完全に無効化し、冷静さを取り戻したカリンが静かに片手を上げる。コダチさんに向けたその眼差しは、たった今まで涙ぐんでいたとは思えないほど鋭く、そして強烈なものに変わっていた。
「その罪、万死に値するわ。覚悟なさい」
うわわわっ待って待って待って!! 急に片手を上げて何をやらかす気!?
「ダメだよカリン!! 落ち着いて!!」
頼むからここでのアマゾネス化は思いとどまってよ!!
突き飛ばされてコンクリートに尻餅をついていた僕はカリンに後ろから飛びつく。
「離れていてタイセー。あなたに代わって私がランコ・コダチに天誅を与えるわ」
「天誅!?」
「そうよ。あなたに危害を加えようとしたのよ。許せるはずがないでしょう」
「でっでもだからって暴力はよくないよ!」
「いいえ、これは暴力じゃないわタイセー。これはあなたをかけた聖戦よ。私の全ての力を使ってランコ・コダチを排除するわ」
ダメだぁー! もう完全にアマゾネスの戦闘魂がそのお身体に憑依しておられます!! 君、凛々しすぎるよカリン!!
「のぞむところよ! ランコも全力であんたをやっつけるわ!」
ちょ、まさかコダチさんもこのまま応戦するおつもりですか!?
あぁもうすぐ授業の終る時間なのにこんなところで何をやってるんだろう僕たち!?
とっ、とにかくなんとしてもこの二人を絶対に止めなきゃ!! でもPSIが使えない無能な僕に、この聖戦とやらを止める手段なんてあるの!?