どんなにカワイイ娘にだって弱点はあるみたいです
天を衝くくらいの激しい怒りが体内に湧き起こったとき、普通なら燃えるぐらいの熱いオーラが体外に滲み出るものだとばかり思っていた。
だけどカリンは違うようだ。ひんやりとした冷気をその御身から発せられ、僕の右半身を擬似的に凍りつかせる。
「…………何か言い残す事はあるかしら?」
こっ怖い!! 無感情に近いその口調が逆に恐ろしさを醸し出しています!!
こっこれはなんとなくの直感だけど、ぎゃーぎゃーとヒステリーを起こして喚く女の子より、こういうタイプの女の子の方が怒らせるとマジでヤバそうな気がする。でもこれは謝って許してもらえるレベルとはとても思えないし、一体どうすればいいの!? 溺れる者はワラすらもつかむんだぜの心境で無理やり言葉をひねり出そうとしてみたけど、アウアウとぶざまなオットセイみたいな擬音しかでてこない。
そんな超最弱な僕の前にコダチさんがスッと割り入ってきた。彼女のフワフワした長い髪に遮られ、一瞬カリンの姿が見えなくなる。
「あなたがタイセーの幼馴染?」
コダチさんが厳しい視線を送ると、それを弾き返すようにカリンも無言でキツい視線を浴びせる。姿形はちょっと違うけど、まるでお互いを鏡で照らし合わせているみたいな位置関係に、冷や汗が止まらない。
ここからトンデモナイ修羅場が始まる予感がするのは僕だけだろうか。だって二人の間に漂うこの一触即発感、すでにハンパじゃないレベルですよ……!?
「どうなのよ!? 何とか言いなさいよ!」
戻ってこない返事にコダチさんが苛立ち始める。するとようやくカリンがコダチさんにも口を開いた。
「……幼馴染ならどうだというのかしら? あなたには何も関係ないことだと思うけど?」
「あるわよ! 幼馴染だからって勝手にランコの席に座らないで! タイセーの隣はランコって決まってるんだから!」
「ならそれは昨日までの話ということね。今日からは私がタイセーの隣よ。異論は認めないわ」
「なんでランコがそれに従わなきゃいけないのよ! タイセーの隣はランコなの!! そう決まってるの!!」
「誰が決めたのかしらそんなこと」
「ランコに決まってんじゃない! それにタイセーの初体験の相手はランコなんだからね! だからタイセーはランコのものよ!」
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーっ!!
いやいやいやいやいやいやコダチさんっそのカミングアウトはおかしいですよ!!
この一触即発なシーンで言うべき事じゃないし、大体その初体験の相手ってさっきのテレポートのことだよね!?
絶対に誤解されちゃうじゃん!! メデューサ様のあのゴルゴンアイで僕が石化しちゃうじゃん!!
コダチさんの背中からおずおずと顔を出してみると、カリンとバッチリ視線が合う。
「タイセー。ランコ・コダチから離れて速やかにこちらに来なさい。あなたの身体に直接訊けば全てが分かることよ」
カリン様の接触感応宣告がキター!!!!
マズイな、どうしよう……。コダチさんとの初体験疑惑は完全な濡れ衣だから何も問題はないけど、ヤマダさんとのことを知られるのはちょっと……。
「タイセーは絶対に渡さないわよ!!」
僕を背後に擁し、気勢を上げるコダチさんに驚きを隠せない。この娘ってそんなに僕のことが好きだったの!?
「いいえ返してもらうわ。タイセーは私のものよ。これはずっと前から決まっていた事なんだから」
「そんなに欲しいならあとで返してあげるわよ!」
「聞き分けのない人ね……。実力行使じゃないと分からないのかしら?」
ついにカリンの身体から戦闘オーラが立ち昇り始める。
危険だ! このままだと今度はこの屋上で覚醒したアマゾネス様がご降臨なされてしまいます!!
「あなたの言う、“ あとで ”ってどれくらいを指すのかしら? 10秒後? それとも20秒後かしら? 言っておくけど私が待てるのはせいぜいあと1分くらいが限度よ」
さ、さすがカリン……!
君はお嬢様だから、何かを待つってことに慣れていないんだね、きっと。
でもそれはあまりにもこらえ性がなさすぎだと思うよ?
「はぁ1分!? バカじゃないの!? タイセーがランコにメロメロになったらに決まってるじゃない! そしたらもうタイセーには用が無くなるから返してあげるっ!」
エエエエエー!? それはつまり、好きにさせたらあっさり捨てるってことですよね!? それもそれでかなりひどくないですかコダチさん!?
「ムダなことはおよしなさい。タイセーがあなたに夢中になるはずがないわ」
「どうしてよ!? ランコが本気になればタイセーだってランコに夢中になるわよ!!」
「浅はかな人ね。それでも無駄よ。何をしたってタイセーはあなたになびくはずがないわ」
「なんでそこまで言い切れるのよ!! ランコはこんなに可愛いのよ!?」
「言いきれて当然でしょう? だってこの完璧な私がタイセーを好きなのよ? タイセーは私しか見ないに決まっているじゃない」
―― どっちも見事なまでの自信満々キャラだーっ!!!
たっ確かにカリンもコダチさんもすごく美人だけど、その恐ろしいまでに揺るぎない自信は君らのカラダのどこから溢れ出てきているんでしょうか!?
「じゃあタイセーに決めてもらいましょ! あなたとランコ、タイセーはどっちとエッチしたいと思ってるかで勝負よ!!」
ハハ……これまでの流れでなんとなくうっすらと予想は出来ていたけれど、やっぱりそっち方面に行くんですねコダチさん……。この娘の頭の中、僕ら男子と同レベルのような気がするよ。
「エ、エッチ勝負……!?」
なぜかわずかにひるんだ様子を見せるカリン。それを目ざとく見つけたコダチさんがすかさず突っ込みを入れ始めた。
「あららテンション下がってどーしたの~? もしかしてランコ相手に勝ち目が無いと気付いて気後れしちゃったとか~?」
「そ、そんなことないわよ!」
「そーお? だってあなたとランコじゃスタイルに差がありすぎじゃない! だってあなた……」
コダチさんの超ウルトラセクシーポーズが僕の前で綺麗に決まる。
「おっぱい小さすぎるじゃなぁーい♪」
凄まじい爆弾発言キターッ!!
コダチさんが現在僕らの前で披露しているポーズは、前かがみになって二の腕で胸を挟み込み、わざと谷間を強調させるスタイルだ。いつの間にか制服のシャツのボタンが上から四つ目まで外れてるし、挑発するにもほどがあるよ!
でもカリンの胸ってそんなに言うほど小さいかなぁ……。
裸を見たわけじゃないし、幼馴染だからって擁護するわけでもないけど、そこそこあるような気がするんだけど。
そりゃあマツリやコダチさんみたいなビッグな物件をお持ちの方に比べたら見劣りはしちゃうと思うけど、平均くらいはちゃんとあるように見えるよ。
15歳の女の子のバスト平均値が何センチなのかはよく知らないけどさ。
「べっ、別に小さくなんかないわっ! あなたみたいなお化け巨乳じゃないだけよっ」
下唇をグッと噛み、悔しそうな顔をしているカリン。あれっ、もしかして「胸が小さい」って、カリンには地雷ワード……?
一方のコダチさんは余裕シャクシャクの表情だ。
「アハハッ、おっぱいが小さい人ってすーぐそういう負け惜しみを言うのよね~! “ 爆乳 ”とか“ 魔乳 ”とか、“ 年取ったら垂れるのに ”とか! でもランコみたいにこんなに大きいほうが何かと便利よ~? あなたみたいにぜんぜん無い人に比べてできるプレイの幅も大幅に違うしね♪」
そうなのそうなの!? そんなにバリエーションが豊富になるの!?
バストが特盛の女の子限定でのプレイ内容、すごくすごくすごぉ──く興味はあるけど、ここでコダチさんに尋ねたら、僕の身体はネメシス様の復讐の炎によって一瞬で消し炭にされることだろう。
「さぁタイセー選んでちょーだい!! と~ってもセクシーなランコと、おっぱいが小さいからブラにパットをぎゅうぎゅうに詰めて上げ底をしているかわいそーな幼馴染さん、どっちと今すぐエッチした~い?」
振り返り、両腕を上げて二度目の色っぽいポーズを決めるコダチさん。眼下でコダチさんの大きな胸が誘うようにぽわんぽわんと揺れている。次はいよいよ“ 女豹のポーズ ”あたりを披露してきそうなテンションだ。
…………っていうか、カリンってブラで上げ底してるの!?
「どこ見てるのタイセー!!」
マズい! ついコダチさんのバストに目がいってしまったところをカリンになじられた!
それにしても胸の事をコダチさんに指摘されてから、カリンの態度が急におかしくなってきているみたいだ。全然冷静じゃなくなってきているよ。そんなに動揺されると、さっきの“ ブラに上げ底疑惑 ”が真実のように見えてきちゃうから止めて欲しいんだけどなぁ。
「んふっしょうがないわよぉ~! だってどうみたってランコのカラダの方があなたよりも魅力的だもん! ね~タイセー♪♪」
「わっ私だってあなたより優れているところがあるわ! あなたの方が胸は大きいけど、脚は私の方が綺麗よ!!」
ちょっ何を言い出してるんだよカリン!!
ムキになっているカリンを見て思わず頭を抱えたくなった。完全にコダチさんの挑発に乗って同じ土俵に上がってしまってるじゃん……。
「あら脚だってランコの方がキレイよー? ね、タイセー? さっきいーっぱいスカートの中を見せたからタイセーもよーく分かってるわよねーっ!」
「さっきスカートの中を見せた、ですって……!?」
カリンの表情がこれ以上ないくらいにまで強張る。そして怒りを自らの足取りに乗せ、ずんずんと僕らの側に近づいてきた。
ああああああああもうダメだぁー!! ここで本当に詰みだよ僕の命の灯火は!!