今日僕はここで散ることになるようです
お腹の辺りでカチャカチャとおかしな金属音がし始める。真下に視線を向けようとしたけど、あれっ!? また身体が動かなくなってる!?
ウエストの周辺をやんちゃなヘビが元気にのたくっているようなくすぐったい感触がした時、
「いただき~♪」
嬉しそうなコダチさんの手には一匹のヘビ……じゃなくて、一本の帯のような黒い革製品が…………って!! それもしかして僕の制服のベルトじゃないですか!?
「なっ、何してるのコダチさん!? それ僕のだろ!?」
「そーよ! だって脱ぐのに邪魔でしょ? だからランコがサービスで取ってあげちゃった♪」
うわわっ少しスラックスがずり下がってきた!? まだ成長途中なことを考慮して大きめの制服を母さんが買ったせいだ!! 慌ててウエスト部分をつかんでこれ以上の自然落下を必死に防ぐ。
「コダチさんそれ返してよ!!」
「だーめ! 返してほしかったらランコに身も心も夢中になることねっ」
そっそんなムチャクチャなー!!
体育の時間にマツリから「嫌いだけど付き合え!」って言われた時も驚いたけど、こっちのレベルの方がはるかにぶっ飛んでるよ!!
「えーいっ!」
「あぁーっ!?」
コダチさんの掛け声と共に、取り上げられたベルトが頭の上を優雅に飛んでいく。慌てて片手を伸ばしたけど全然届かなかった。
……さよなら、僕のベルト……。
綺麗な放物線を描きながら落下していくベルトをただ呆然と見送る。
「さぁタイセー! 心の準備はできた~? これからランコの愛情たっぷりな超別格・愛撫であなたをメロメロにしちゃうからね! ランコのスーパーテクをたっぷりと堪能しなさい♪」
スーパーテクってなに!? っていうか、白昼堂々、校舎の屋上で一体君は何をおっぱじめる気なんですか!?
「ほらぁ~、早くそれ下ろしちゃいなさいよっ」
コダチさんの手が僕のスラックスにかかり、容赦なくぐいぐいと引き下ろそうとする。
「やややややややややめてよコダチさん!!!!」
まさか学校の屋上で女の子に制服を脱がされそうになるなんて、フルリアナスに入学する当初は思ってもみなかったよ!!
念力をフルで使用中のコダチさんは僕の抵抗など物ともせず、前方に身体を折り曲げて僕の下半身に顔を近づける。
「へ~タイセーってこういう柄が好みなんだ~! ちょっと意外!」
「わぁぁ!? み、見ないでよ!!」
コダチさんに下着を見られたぁーっ!!
「タイセー、結構いいセンスしてるじゃない。見直したわ」
しかも見直されたぁー!! でも褒められてもそれどころじゃないから全然嬉しくないよ!!
と、とにかくこのエッチな女の子を至急どうにかしないと!! でも後ずさりしたくても背後には手摺がぴったりだし、目の前には目を輝かせたコダチさんが迫ってるし、逃げ場が無いです!!
「ほらほらいつまでも恥ずかしがってないの♪」
脱出策が浮かばない……っ!
パニックのため手のひらが汗でしっとりと湿りだしていた。精神的な興奮にプラスし、初夏の陽気も手伝って額からも汗が吹き出てきている。コダチさんと一緒にいる限り、体外への水分と塩分の流出は抑えることができなさそうだ。
…………ん?
なんだろう、体内はこんなに熱いのに、右側の身体の表面だけが少し涼しいような気が……。ミョーに不自然な冷気を右頬辺りに特に強く感じ、チラリと横目で右方面を見る。
「カカカカカカカカカカリンッ!?」
人間って本当に心の底からビックリすると死んじゃうことがあるらしい。
今の僕もマジでそんな状態です。いや、もしかしたらすでにひ弱な魂魄は頭のてっぺんから抜けかけているのかもしれない。い、いや、そっそんなことよりなんでっ!? なんでカリンがここにいるのっ!?
「……タイセー……」
カリンの口から僕の名が静かに告げられ、新緑の風がメデューサ様の綺麗な亜麻色の髪を大きく波立たせる。
「は、はいッ!?」
斬られる斬られる斬られる斬られる斬られるマジで斬られるぞこれはっっ!!
どうみたってこの光景ヤバすぎだもん!! ずり下がるスラックスからトランクスが覗いちゃっている僕に、そこに顔を近づけているコダチさんだよ!? 何言ったって絶対に信じてもらえないよこれは!!
突然屋上に現れたカリンはゆっくりと腕組みをし、幽体離脱しかけている僕を冷たい視線で射抜く。
「…………何か言い残す事はあるかしら?」
── よく晴れた6月の午後。
フルリアナスの屋上はすごく眺めも良くってこんなに気持ちいい風も吹いているのに、どうやら僕は大好きな幼馴染の手にかかってここで壮絶な討ち死にに遭う運命のようです。