君は僕には分不相応すぎるんです
1.マツリの迅速な報告 ⇒ 2.カリンの詳細な釈明 ⇒ 3.ヤマダさんの熱心な陳情。
渦中の三名が即席チームとして手を組み、それぞれに言葉を駆使してイブキ先生へ連携フォローを行った結果、今回の行方不明騒動は何とか大事にならずに済んだ。
一方、トラブルの原因となった小心者は職員室に呼び出され、ありがたい単独説教を受けている真っ最中だ。
「タイセーくんは男の子なんだからもうちょっとしっかりしなさいね。女の子に助けてもらうなんて情けないぞ」
説教終了間際、デスクチェアーから僕を見上げるイブキ先生に、空気拳骨で頭頂部をゴン、と小突かれる。これは先生が得意なお仕置き技の一つだ。
「分かった? タイセーくん」
「はい、ご迷惑をかけてすみませんでした。次から気をつけます」
……イタタ、今回のイブキ先生の拳骨、結構威力あるなぁ……。
前にも一度だけ喰らったことあるけどあの時は軽くコツン、程度だったのになぁ。それだけ今回の騒動が許せなかった、ということなのかもしれない。
「タカツキさんにケガがなかったのが不幸中の幸いね。タカツキさんには謝った?」
「いえ、まだです」と首を振る。
まだカリンには心の中でしか謝ってない。カリンがあんな目に遭ったのも、元々は僕の不甲斐さが原因なのに。
「じゃあちゃんと謝っておきなさいね。そして罰として今日の放課後、 CALL room の清掃を任せます。必ず一人ですること。時々透視でチェックするからくれぐれもサボらないようにね」
「はい、分かりました」
今回の体育が丸々中止になったペナルティーが僕に課せられけど、この程度で終わったのは本当に幸いだ。ペコリと頭を下げ、職員室を後にする。
「タイセー!」
職員室を出て歩き始めた僕にすぐ声がかかる。
廊下の隅に身を潜めていたカリンが僕の側にまで走り寄ってきた。
「あ、カリン。もしかしてずっとそこで待っててくれたの?」
「えぇ」
カリンがコクリと頷く。うーん、その神妙な顔つきからして、PSIで職員室内の様子を伺っていたっぽいなぁ。
「ごめんなさい……。タイセーには何も非が無いのに、結局あなた一人が悪役になってしまったわ」
あ、やっぱり聞いてたね。
「僕のことならいいんだ。カリンが怒られなくて良かったよ」
「でも代わりにタイセーだけがイブキ先生に怒られて、しかも一人で掃除をしなくちゃいけないなんて……。私も掃除を一緒に手伝うわ」
「ダメだよ。イブキ先生からは必ず僕一人でするようにって言われてるから」
「こっそり手伝うばいいじゃない。教室の外からモップで床を掃いたり、ディスプレイをクロスで拭いたり、私にも出来ることは色々あるもの」
それって当然 “ 念力で ”、だよね……。
いいよなぁ、PSI能力さえあれば色んな事が簡単に出来る。
溜息と共に羨ましい気持ちが湧き上がってくるのを抑えられない。
「いいでしょ?」
「ダメだって言ってるじゃん。時々イブキ先生が透視でチェックするって言ってるからモップが勝手に床を磨いてたらすぐにバレるよ。だって僕はモップどころかティッシュ一枚すらもろくに動かせない落ちこぼれなんだからさ」
「タイセー……」
あ! マズいっ、ついまた自虐的な言葉を口にしちゃったよ!
急いで口元を押さえたけど、そんな動作はもう何の意味もない。そしてそんな僕を見つめ、悲しそうな表情をしているカリン。
あぁもう! 自分で自分が嫌になる。どうして僕はカリンの前だとこういう情けない態度を取ってしまうんだろう?
“ 好きな女の子が自分よりも遥かに優れた能力を持っている ”。
その圧倒的な負い目が、僕を卑屈なマゾヒストにさせてしまうのかもしれない。あまりの情けなさに頭を抱えて叫びたい気持ちでいっぱいだ。
せめてこれ以上カリンに嫌な思いをさせたくない。
今の発言は無かったような素知らぬ顔でカリンの手をつかみ、「さ、次の授業が始まっちゃうからそろそろ行こう」と半歩先を歩き出す。するとカリンはいきなり立ち止まり、僕の手を振りほどいた。
「カ、カリン?」
き、嫌われた!? 男としてあまりにも器が小さすぎる僕についに愛想をつかしちゃった!?
いやでもその気持ちは分かる。君と僕じゃあまりにも不釣合いすぎるんだ。
才媛な君にはこんな生けるカスみたいな僕よりももっと有能でカッコイイ男が似合…
「私はこっちの方が好きだわ」
カリンはニコッと笑うと僕の右腕に自分の腕を大胆に絡めてくる。
学校内という神聖なる区域で腕を組んで歩く僕らはたちまち注目の的となり、すれ違う人みんなが僕たちを興味津々の横目で眺めていくのが分かった。
カリンに嫌われていなかったことはすごく安心したけどこれはかなり恥ずかしい。幸せ系の羞恥プレイを強制体験させられているようだ。
そんな僕とは正反対にカリンは注目されていることがとてもお気に召したようで、ギャラリーとすれ違う度にわざと必要以上に身体をピッタリと密着させてきて周囲に僕らの関係を強くアピールをしようとしている。おかげで右腕にカリンの胸の膨らみがフニフニと時折当たってくるのでどうしていいのか分からない。
「あ、あのさカリン、皆が見ていて恥ずかしいんだけど……」
色んな意味で平常心を保つことがかなり厳しくなってきたので、小声でSOSを送ってみた。すると我が美しき総統は、顔色一つ変えずに冷静な声で次の指令を出す。
「何が恥ずかしいの? 男なら細かい事を気にしちゃダメよタイセー。真っ直ぐ前を見て胸を張って堂々としていなさい」
あのーカリンさん? 僕の要望に取り合うつもりは一切なしでしょうか?
数年ぶりの対面以降、カリンの現在の性格はなんとなく把握できてきたけど、本当に我が道を突き進む人なんですね、君は。
しかし堂々としていろと言われても僕はこの現状に身体も心も慣れることができない。できるわけがない。
だってこんな冴えない落ちこぼれの僕に、カリンみたいなキレイな女の子が似合うはずがないことを学園内の誰よりもよく分かっていたから。