第五話:二年前
翌朝、和司は日の出と共に目を覚ました。
カーテンも窓も無く、ただ壁に穴が空いているだけでは朝日が直接部屋に差し込む。しかし、早朝なのにもう暑い。流石砂漠地帯といったところか。
現在の時刻は午前五時。以前の自分では考えられない程早く起きた。
既にリョスケは目を覚ましているようだ。
「おはよう」
「おはよう」
挨拶を交わした。
「昨日は熱くなってごめん」
和司は謝った。昨夜はあやうくリョスケを殴りそうになるところだった。
「いいよ、いいよ。疲れが溜まってたんだろう」
リョスケはそう言って部屋を出ようとした所だった。
「ちょっと待って」
和司がリョスケを引きとめた。
「どうした?」
「教えてくれないか」
「何を?」
「二年前、コメシスとの戦闘後に何があったかを。他の皆はどこいった」
和司は思い切ってリョスケに二年前のことを聞くことにした。
「じゃ、二年前のことを話そう。コメシスとの戦闘後はお前らとは合流できなかった。負傷者も多くいたし、合流する手段も無かった。そこで俺と秋田、一将、高之、幹弘で行動することにした」
「その後は?」
和司が聞く。
「大変だったよ。康太の様な絶対的なリーダーシップを持った奴がいなかったから中々まとまらなかったしな。持ってた武器も少なかったからよく揉め合いにもなった」
リョスケは話を続ける。
「ちょうど去年の夏だったな。俺たちはタイにいたんだ。あのときは湿度が高くジメジメしてた」
リョスケは一呼吸置いた。
「襲撃を受けた」
「誰からだ?」
和司は質問をする。
「あれは何だったかわからねぇ。少なくともライスヒューマンじゃない。イーターに近い姿だったな。そいつに攻撃され俺たちのチームは壊滅した。おそらくあいつは得一の差し金だろう。試したんだよ。試作品を」
和司は驚きを隠せなかった。得一は未だ新しい生物の開発を続けているのか。
「襲撃を受けた後はどうなった?」
「チームは壊滅。俺もその時は意識がもうろうとしていてわからなかった。とにかく自分の命を守るのが優先だった。俺は建物に身を隠してあの試作品が立ち去るのをただ待った」
「立ち去った後はどうしたんだ?」
「とりあえず、皆の無事を確かめようとしたさ。でも誰一人見つからなかった」
部屋が重い空気に包まれる。これ以上聞くのはよした方がよさそうだ。
「わかった、もうこれ以上話さなくていい」
和司はリョスケに二年前のことを聞くのは止めた。リョスケも仲間を失ったのか。和司は昨夜の自分の行動を少し後悔した。
「さあ、康太のいる部屋へ向かうぞ」
和司は部屋を出て、階段を上った。
「わかった、俺も行く」
リョスケはノートパソコンでメールを送信し、その後すぐに階段を上った。
皆康太のいる部屋に集まっていた。人数が多いせいで部屋が狭く感じる。
「これからどうする?」
康太は皆に聞いた。
「得一のいる場所へ向かう」
和司が発言した。それがこの旅の目的だ。
「ここ二年間旅をしてきてRーウイルスに関する情報はゼロ。無論、開発者である得一の情報なんて手に入っていないのに?」
こうちゃんが反論する。確かにその通りだ。
「もう武器も弾薬も少ない。どこか近くの町に調達しに行こう」
健斗が提案する。ライスコーピオンとの戦闘で弾薬等をかなり消費してしまった。これ以上旅を続けるのは厳しい。
「ここは砂漠地帯のど真ん中だ。近くに町なんてあるのか?」
和磨がリョスケに聞く。
「この村から少し離れた所に大きな町がある。そこの警察署とかに行けば武器が手に入ると思う」
リョスケは答えた。
「少し離れたってどれくらい?」
康太が聞く。
「五キロメートル」
リョスケは平然と答えた。砂漠を五キロメートル移動なんてかなり過酷だ。ましてや日中はさらに厳しい。
「そんな、移動だけで水や食料を使うじゃないか!」
和磨が声を荒げながら言ったが、リョスケはすぐに和磨に言い返した。
「村の人に話をつける。町までラクダで送ってくれないか、と」
リョスケはそう言い残し、部屋を出て階段を下っていった。
しばらくすると、リョスケが部屋に戻ってきた。
「で、話はどうだった?」
康太は聞いた。
「別に問題ないって。ただし町の近くまでならばだって」
皆その発言に良い予感はしなかった。
「なんで町の近くなんだ?」
こうちゃんがリョスケに聞く。
「町にはライスヒューマンがいっぱいいて、町に行くのは危険すぎるからだって」
全員が黙った。R-ウイルスの感染はこんな辺境にまで来てたのだ。
「でも町に行かないと弾薬や武器は手に入らない。それに食料も直になくなる」
康太の言うとおりだ。
「行くことに賛成の人」
康太が採決を採った。すると全員が行くことに賛成だった。
「誰が行く?俺と和磨は怪我が酷いから無理だ」
康太が皆に聞いた。
その後、誰が町に行くか議論をした。
その結果、町にはこうちゃん、健斗、リョスケが行くことになった。
町に行く三人は町へ行く準備をしていた。
「これ持ってけ」
亮太がこうちゃんに自分のベレッタM92を渡した。勿論弾薬もだ。
「ありがとう」
こうちゃんは亮太にお礼を言った。
出発は夕方だった。日中に移動するのは厳しかったからだ。
「じゃ、行ってくる」
三人は村人が用意してくれたラクダに乗って町へ向かった。
もう既に月が出ていた。