第四話:寝ろ
「ここはどこだ・・・?」
康太は目を覚ました。左腕には包帯が巻いてある。利き腕じゃなかっただけましだったな。隣では和磨がうつ伏せで寝ている。どうやら背中をやられたらしい。辺りを見てみると、ここは村の家らしい。床は堅く、壁は日干しレンガでできている。畳の上で育った俺にとってはどうもこの堅い床は慣れない。
「おーい、康太が目を覚ましたぞ」
亮太が叫ぶ。すると皆が次々と俺の近くにやってきた。
「一体、俺が気を失っている間に何が起こった?」
亮太に聞いた。
「康太はお化け蠍に襲われた後、すぐに気を失った。おそらく激痛によるものだ」
亮太は答える。言われたとおりだ。まだ左腕が痛い。
「お化け蠍との戦闘中にリョスケと再会した」
辺りを見てみる。確かにそこにはリョスケがいた。どうやってここまで来たのか。後で詳しく話を聞こう。しかし、一人足りない。純がいない。どこへ行ったのか。
「純はどうした?」
康太は亮太に聞いた。
「純は・・・」
その続きは聞かなくてもわかった。
「そうか、わかったから言わなくていい」
犠牲を出してしまった。俺が気を失っている内に。コメシスとの闘いからここまでに一人欠けることなく来たのに。今後闘いは厳しいものになるだろう。
「この宿はどうやって確保した?」
「リョスケが村長に話をつけてきた。ここは村長の別宅で宿じゃない」
宿すら無いとはここはかなりの田舎のようだ。観光客が来るとは思えないような場所にあるからか。
しかしこの部屋は狭いな。せいぜい四、五畳くらいしかない。全員が泊まるのは不可能だろう。
「ここ以外に泊まる場所はあるのか? ここじゃ全員は泊まれないな」
亮太に聞く。いろいろと聞くことが多いな。
「大丈夫。泊まれる部屋はここ以外にもあるから。細かい心配はしなくてもいいから今はとにかく寝て」
「ああ、そうするよ」
康太はまぶたを閉じた。今後の方針は明日話合えばいいか。
康太はすぐに深い眠りに就いた。
「俺も寝るか」
亮太も横になった。
皆も分かれて各自の部屋へ向かう。こうちゃん、尚人、健斗は階段下の部屋へ向かった。その向かいの部屋に和司とリョスケが入った。
「いつまでしょげてんだよ」
リョスケは和司に言う。和司は未だに純の死を引きずっていた。仲間の死はそうそう割り切れるものではない。
「あれはどうしようもなかっただろ」
リョスケは和司をフォローする。あれはどうしようもなかった。そう割り切らせようとしていた。和司はまだ無言だ。
「・・・なんでそう言えるんだよ」
無言だった和司が口を開いた。その声は涙声だった。
「あれは俺のせいだ。俺の装備がしっかりしてれば純は死なずに済んだ」
和司は自分を責めていた。
「いろいろ思うことはあるだろうけど、悔やんでも純は帰ってこない。とにかく今は寝ろ」
リョスケは床にしゃがみこみ、壁にもたれかかった。
「なんでそうやってすぐ割り切るんだよ! 仲間が一人死んでんだぞ! その態度は非情すぎるだろ!」
和司の怒りが爆発した。和司はリョスケに殴りかかろうとし、リョスケは拳を受け止めた。
「和司の気持ちはよくわかる。俺だって悲しくないわけがない」
リョスケは落ち着いた口調で言う。
「でも」
リョスケが大きく息を吸い込む。
「ここでいつまでもウジウジしてたら純の死も無駄になる。乗り越えなきゃいけないんだ。俊弥の時の様に」
和司は拳を引っ込め、その場に座り込んだ。リョスケの言うとおりだった。
「いろいろ話したいこととかあるなら明日聞くから。とにかく今は寝て疲れをとれ」
そう言って、リョスケはまぶたを閉じた。
和司もその場で横になった。