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最終話:それから

―ここはイタリア、ジェノバの郊外

一人の男が墓前に立っていた。その男は花束を奉げ祈りをする。

「もうあれから三年も経ったのか。月日の流れは早いもんだな」

男はそう呟く。墓は二つ横に並んでいる。

暫く感傷に浸った後、男は墓地から立ち去り、バイクに乗った。

バイクはエンジン音を唸らせ発進していく。

懐の携帯電話が鳴った。

「もしもし」

男は電話に出た。

「もしもし、墓参りは終わったか? 康太」

「今終わったとこだ」

「久しぶりの再会だ。ちょっと飲もうぜ」

「わかった。今行く」

康太は携帯を切って、バイクを走らせた。




三十分くらい走ると、康太は町の居酒屋に足を踏み入れた。

『ライス・ハザード』の発生から六年経とうとしていた。生存者はそれぞれ元の生活に戻ろうと復興を始めていた。そのおかげでこうして旧友と飲むことができる。

「こっち、こっち」

和司が手招きをする。健斗、尚人、亮太、和磨も一緒だ。

康太は椅子を引いて席に座る。テーブルには既にジェノベーゼやマルゲリータ等、様々な料理が並べられている。

「じゃ、乾杯しようか」

和磨がワインの栓を開ける。

「未成年が飲んでいいのかよ」

思わず康太が口に出す。

「今更気にすることじゃないだろ?」

尚人がワインをグラスに注ぐ。

全員のグラスにワインを注ぎ終えた。

「乾杯」

「乾杯」

皆で乾杯を挙げた。

ワインを乾いた喉に注ぐ。やはりアルコール類は未だ慣れない。

「もう、三年経ったんだ」

亮太がそう言う。

「皆あれからどうしてるの?」

康太が聞く。

「俺と亮太、健斗でこの町のアパートで暮らしている」

和磨がワインを飲みながら言った。

「仕事は?」

「仕事は港の貨物の荷揚げだ。給料はお世辞にも良いとは言えないけど良い職場だよ。イタリア語も話せるようになってきたし」

康太はマルゲリータを食べながら和磨の話を聞いていた。三年も経てば話せなかった外国語も話せるようになるもんだな。

「和司と尚人は?」

康太が聞く。

「俺と尚人はライスヒューマンの駆除で生計を立てていて、普段はスイスにいる。大体、イタリアとの国境近くだ」

和司はワインを注ぎなおしながら言う。さっきから既に二、三杯は飲んでいる。

「で、康太は何やってんの?」

尚人がジェノベーゼを口に含みながら話した。

「今はヨーロッパ中をバイクで巡っている。ここ三年回って思ったことは、やはりまだ『Rウイルス』の脅威は去ってないってことだな。何箇所も廃墟になった都市を見たさ。それ思うとここは綺麗に整っている方だ」

「なんで康太は旅してるの? 定住すればいいのに」

亮太が言った。

「定住……ね」

「いろいろこの世界をまだ見ときたいから」

康太はそう話した。

「この世界を見終わったら定住するさ」

「おいおい、それって何年後の話だよ」

尚人が笑った。

「それから」

「それから?」

尚人が聞いてきた。

「『Rウイルス』の特効薬の手がかりが欲しいから」

康太はワインを飲み干すと席から立ち上がった。

「エルバ島の事件の時諦めたじゃないかよ」

和磨が言った。

「あれは得一の持つ情報を使ってだ。そうじゃなくて自分の足でまだ感染の及んでいない地域を探すんだよ。そこの人間にはウイルスの抗体があるはずだ」

康太は床に置いといたバッグを背負って歩き始めた。

「勘定はよろしくな」

扉の呼び鈴がカラーンと店内にこだました。

康太は靴紐を結びなおし、バイクにまたがると発進した。

久しぶりに誰かと一緒に食事をするのは楽しいもんだ。

こうして康太は潮風を浴びながらバイクを走らせ、ジェノバを後にした。

これで第三部終了と共に『ライス・ハザード』シリーズも完結です。

応援ありがとうございました。

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