第二話:無謀な挑戦
和司は村落の方に向かって走り始めた。砂上にいては奴の独壇場だ。砂ではなく土が足場の所に奴を誘き寄せなくてはならない。
「純ー! 俺を援護しろ! 俺が蠍に飛び乗って、至近距離で手榴弾を爆発させる。その隙を作ってくれ!」
和司は叫んだ。
「了解!」
純は応答し、ライスコーピオンの後を追って行った。
和司は村落に到着すると、家の屋根に上った。村の住人は逃げ惑っている。
「あのお化け蠍の頭に手榴弾を埋め込んでやる」
和司はライスコーピオンの頭を吹き飛ばすつもりである。ライスコーピオンは体全体が冑で覆われているが、頭だけはおにぎりだ。ライスヒューマン同様、核である梅干を潰せば動きは止まると考えていた。
しかし、遠距離では頭を狙うことはできない。ぎりぎりまで近づかなければならない。既に康太は負傷し、和磨は死んだ。これ以上戦いを長引かせると不利になる。
屋根の上で待っているとライスコーピオンが近づいてきた。和司は既に手榴弾を右手に持っていた。
「今だ!」
和司は屋根から飛び出し、ライスコーピオンの背中に飛び乗った。ライスコーピオンは何かが自分の背中に乗ったことを感じ暴れだす。和司は手榴弾のピンを抜き、頭に手榴弾を埋め込もうとしたが、ライスコーピオンが暴れたため埋め込む前に手榴弾を放してしまった。
「しまった」
和司はライスコーピオンから振り落とされた。手から放れた手榴弾はすぐに爆発した。和司は爆風から身を守るためライスコーピオンの腹の下に潜った。爆発はライスコーピオンの頭を襲ったが、鋏で爆風が一部防がれ、頭を全壊させるには至らなかった。頭は半壊し、核となる梅干が半分露になっている。
ライスコーピオンは腹の下にいる異物を押しつぶそうと圧力を掛けてくる。
その時だった。
「純!」
純が援護に駆けつけたのだ。純はM4カービンを構え、ライスコーピオンの腹を狙った。
ライスコーピオンはすぐに攻撃の対象を変えた。対象はまだ砂上にいる。
「純! 早くこっちに来い!砂の上にいては奴の思うつぼだ!」
和司に言われた通り、純は急いで村落の方に向かった。ライスコーピオンは急いで砂上に向かった。
ライスコーピオンは砂に潜り始めた。純はまだ走っている。村落まであと百メートルといったところか。
純のすぐ後ろから砂が噴出し始めた。すると、お化け蠍が姿を現した。
「純! 後ろだ! 避けろ!」
純はすぐ後ろを見た。そこにはあのお化け蠍がいた。鋏が純に襲い掛かる。
「ここでくたばるわけにはいかないんだよ」
純はすぐさま、お化け蠍の鋏に蹴りを入れた。鋏は軌道をそらし、蠍はバランスを崩して倒れた。その隙に純は全速力で村落に走った。
やっと村落に着いた。もうこれであの蠍は砂に潜れない。純は家の中に入りM4カービンを構えた。真正面から襲ってくる蠍の頭に弾丸をぶち込んでやる。
しばらくして、ライスコーピオンは純が隠れる家に突っ込んできた。家の土壁は崩壊した。
「これでも食らえ!」
純は力の限り銃を撃った。しかし、ライスコーピオンの頭には命中せず、鋏や冑に命中するだけだった。
ほどなくして、カチカチと空しい音がする。
「くそっ、ここで弾切れかよ。ついてねぇなぁ~」
純は抵抗するのを諦めた。俺は皆の役に立てただろうか。コメシスとの決戦では戦力になっていただろうか。全く、迷惑を掛けたぜ。皆を頼むぜ、和司。俺、俊弥の所に行くよ。
家の中で血飛沫が上がった。
和司は崩落音がした方へ向かった。純は無事なのだろうか。ライスコーピオンのいる家に着いた。辺りには瓦礫が散らばっている。蠍は何かを食べているようだった。和司が近寄ると、蠍は振り返った。鋏には肉片を持ち、頭の周りが紅い。もしかして・・・
「う、うわああああ!」
和司は錯乱状態に陥った。そんなまさか、純が、純が。この憎いお化け蠍を倒すにしろ手榴弾は使ってしまった。自分の銃は狙撃用で接近しているこの状況では役に立たない。
「くそっくそが!」
和司は逃げようとしなかった。武器がないこの状況でも逃げるわけにはいかない。この仲間を殺した化け物を放っておいてはいけないのだ。お化け蠍は鋏を振り下ろした。和司はなんとか避け、振り下ろした鋏に掴まった。そのまま、振り上げられた勢いで和司はお化け蠍の背中に着地した。和司はすぐに腰にあるナイフを引き抜いた。これで直接頭を刺してやる。
ナイフを振り下ろそうとしたその時、何者かによってナイフが銃弾で弾かれた。
銃弾が流れてきた方向をみると、そこにはバイクに乗った少年の姿があった。