第二十五話:仲間殺し
「このまま得一に差し出すのもいいけど、もっと苦しめてからにしよう」
リョスケがこっちに近づいてくる。頭がガンガンするのは血を流しすぎてるからだろうか。
全身の力を振り絞って立ち上がる。立ち上がったのはいいがフラフラする。こんな状況でやり合って勝ち目があるかどうかはわからない。
「まだ立ち上がるのか」
リョスケは警棒を構えた。
「まだ終わっちゃいねぇ」
トンファーを構えると、リョスケは警棒を振り、それをトンファーで防ぐ。また防戦一方だ。
「そろそろ耐え忍ぶ闘いは辞めたらどうだ?」
リョスケが挑発してくる。
「そんならお望み道理…」
足を上げかけた時だった。耐えられない痛みが腹を襲ったのだ。
「が…」
思わず膝を付く。あばらが折れてるのは流石に効く。
「どうした? さっきと言ってることが違うぞ」
リョスケの警棒の殴打が腹に響く。よりによって弱点を狙ってくるか。
そのまま地面に倒れる。リョスケは見下したような目でこっちを見ている。
「そろそろ終わりにしようか」
リョスケが片足を上げた瞬間を狙って、軸足となっている足を振り払った。
「この」
バランスを崩したリョスケは倒れ、俺は立ち上がった。
崩れ落ちるリョスケの顔面に正拳を食らわし、リョスケはダウンした。
「そろそろ終わりにしようか」
リョスケが言ったことを鸚鵡返しに返す。
リョスケはすぐに立ち上がる。中々タフだな。こっちはあと一発でも食らえばノックアウトなのに。
「実験室送りにしてやる」
リョスケは二本の警棒を同時に振り下ろした。
脇が空いた今だ。
俺はトンファーを振り回し、脇に命中させた。
「ぐ…」
今度こそ効いたらしく、痛みでリョスケの顔が引きつったのがわかった。
ここで引いたらおしまいだ。
俺は全身全霊を込めてアッパーカットをリョスケの顎に命中させた。
殴った時の痛みがこちらにも跳ね返ってくる。
リョスケは一瞬ふらついたが持ち堪えた。
「おのれ」
全身全霊のアッパーカットも相手にはあまり効かなかった。リョスケの警棒の突きが俺のみぞおちに命中し、ノックアウトされた。
「よくもここまでやってくれたな、生かしちゃおかねぇぞ」
リョスケが俺の身体に覆いかぶさり、右腕を押さえられた。
「腰の拳銃も右腕が抑えられては取り出せねぇか」
リョスケは目を俺の腰のほうに向けると、突然青ざめた顔になっているのがわかった。
「まさか、お前」
俺は左腰に付けた拳銃を取り出し、銃口を向けた。
「形勢逆転だな」
トリガーを引くと、弾丸はリョスケの右肩を貫いた。
「がああああああ!」
取り押さえられていた右腕が自由になった。右腕を拳銃に添える。
「仲間殺しの罪は許してはいない」
弾丸は左脚、右脚の順に貫通しリョスケはその場に倒れた。
俺はリョスケを見下ろした。既に虫の息だ。
「止めを刺せ」
リョスケの口からその言葉は出た。
「なんでだ?」
「どの道、俺はもう役立たずだ。得一は俺を始末する。それに」
「それに?」
「俺はこうちゃんを殺してしまった」
リョスケの目が潤んでいるのがわかった。
「あの状況はああするしかなかった。得一に忠誠を誓っているのを示すためにな。でも、仲間殺しは仲間殺しだ。クラスメートを殺した。人の人生を勝手に終わらせた俺が好きなタイミングで死ねるわけがない」
リョスケの言ってることは至極全うだった。
「その通りだ。俺はこの場ですぐに止めを刺したい」
「なら刺せ」
「でもー」
「でも?」
リョスケが聞き返した。
「康太がこの場にいたら、すぐ殺そうとはしないだろう。出るところに出てもらうぞ」
俺はリョスケの身体を持ち上げ、得一の部屋へ向かった。