第二十二話:最高傑作の欠点
和司たちとマイラントの距離は三メートルあるかないか。
間合いを詰めようと思えばすぐに詰められる距離だ。互いに牽制し合っている。
「ここは俺がいくから、二人とも下がってくれ」
和磨の言うとおり和司と亮太は一歩さがった。
「覚悟!」
和磨は拳を握りしめ一歩走り出すと、マイラントも一歩踏み出した。マイラントが伸ばした腕を和磨は避け、腹筋に肘打ちを一発入れた。マイラントは一瞬よろめくがすぐに踏みとどまり、蹴りを和磨にお見舞いした。和磨は放たれた蹴りを拳で防いだ。腕に衝撃がビリビリ走る。
得一が最高傑作と言うだけあって能力も高い。コメシスよりかなり強い。だが、所詮はライスヒューマンの強化系だ。頭を破壊すれば死ぬ。
ならば取る行動は一つ。頭を破壊することだ。
和磨は頭を狙うため壁を蹴って、上空から攻める。放った蹴りはコメシスの頭に命中するが、脚に来たダメージの方が大きかった。
「っ痛」
爪先を押さえてその場にうずくまる和磨。その隙をマイラントが見逃すはずが無かった。
「亮太、拳銃でマイラントの頭を狙え…」
「お、おう」
亮太は指示通り、マイラントの頭向けて発砲する。銃弾は頭に当たると同時に、跳ね返り兆弾した。
「危ね」
兆弾した弾を亮太は避ける。
マイラントは狙いを亮太に切り替えた。
「亮太、拳銃じゃ歯が立たないから俺にまかせろ」
和司は亮太の前に出て、モスバーグM590の銃口をマイラントに向けて引き金を引いた。散弾はマイラントの胸に命中するが、マイラントの勢いは止まらない。
「銃口が跳ね上がってずれた! これだから使い慣れない武器はよぉ!」
銃弾を装填し直し再びマイラントを狙う和司。マイラントは鋭い爪で和司の五体を引き裂こうとする。
とっさに和司は銃身を盾にしてマイラントの攻撃を防いだ。
「どんな馬鹿力だよ」
衝撃で和司はモスバーグM590を落としてしまう。丸腰の和司にマイラントは蹴りを入れようとする。
「くそっ、防げ…」
終わりを和司が覚悟した時だった。体重二百キロはあるようなマイラントの巨体が倒れたのだ。
和磨が痛みから復帰しマイラントの足を払ったのだった。
「和司、鉄靴を貸してくれ」
「ああ」
和司は鉄靴を脱いで和磨に渡した。和磨が靴紐を結び終わるくらいにマイラントは立ち上がった。
「ほんじゃ、再びいくぜ」
和磨はマイラントの腹にナックルの連打を浴びせる。今まで攻撃をものともしなかったマイラントに少し効き始めている。マイラントが腕を振り上げるのを見るやいなや、マイラントの背後に素早く回りラリアットをかました。和磨の渾身の一撃も大ダメージには至らない。
マイラントは振り返り、和磨の背中目掛けて再び腕を振り上げた。
「背中は勘弁よ」
振り下ろされた腕を和磨は身を翻して避けた。
「誰が弱点を曝け出しますか…」
言葉が途中で詰まった。マイラントは和磨の腹を蹴り上げ、和磨は吹っ飛んだ。
「今のであばらの数本は逝ったぞ…」
流石にあばらが折れては立ち直るのが難しい。ゆっくりとマイラントは和磨に近づく。
見かねた和司はモスバーグM590を拾い上げマイラントに立ち向かって行った。
「仲間に手ぇ出すんじゃねぇ!」
トリガーを力強くひき、顔面に命中した。
顔面に外傷は無いものの、マイラントは膝を付いた。
「……なんでダメージが効いたんだ?」
負傷した腹を押さえながら和磨が呟く。なぜ今までの攻撃にびくともしなかったマイラントが膝を付いたんだ。
「体内だ…」
亮太が呟く。
「亮太今何て?」
和司が聞きなおす。
「体内だ。身体の外は頑丈でも、体内はおそらく生身なんだ。外からの衝撃で頭を破壊するのは不可能だけど中からならできる」
亮太の意見は非常に的を射ていた。
「和司、手榴弾ある?」
「あ、ああ二つあるな」
和司はポケットをあさって手榴弾を二つ取り出した。和司が今身に着けているものは特殊部隊員から盗ったものだ。
「これをマイラントの口中へ入れれば…」
「ああ、多分倒せる」
和司は手榴弾を握りしめ、立ち上がるマイラントへ向かってった。