第一話:砂上の決戦
「あ、ありがとう・・・」
和磨はバイクの少年にお礼を言った。少年の顔はフルフェイスのヘルメットに覆われていて誰だかわからない。少年は無言だった。
「早く、皆のところに戻らないと」
和磨は少年の腕を振りほどこうとする。しかし、少年は和磨の腕を離さない。
「何すんだよ!」
和磨はついに少年に対して怒った。少年は無言で和磨の背中を手刀で叩いた。和磨は痛みでその場にうずくまってしまった。ライスコーピオンに襲われたときに背中を怪我したのだ。
「う、うぅ・・・」
「今は大人しくしてろ」
少年は初めて言葉を発した。
「くそっ、和磨が死んじまった」
尚人が残念そうに呟く。さっきまで和磨がいた場所には血痕があった。
「悲しんでいる暇は無いぞ。奴が砂に潜った」
こうちゃんが警棒を構える。砂の中は奴にとってプールみたいなものだ。どこから襲ってくるかわからない。細心の注意を払わなければ。
その時、康太の後ろから砂が噴出した。
「康太後ろ!」
健斗が警告をしたが、声を出したときには遅かった。康太は左腕をライスコーピオンに掴まれ、そのまま蠍と共に宙へ飛んだ。
「このクソさそりめが! 腕を放しやがれ!」
抵抗をするものの、ライスコーピオンの鋏む力は万力のように強い。いや、万力以上の強さだ。人間が抵抗したくらいで放れるようなものではなかった。
「関節が駄目でも腹ならいけるはずだ」
和司は弾薬を装填し、ライスコーピオンの腹を狙った。ライスコーピオンは康太を掴んだまま地面に降りてこようとしたときである。
「今だ!」
和司は腹を目掛けて引き金を引いた。銃弾はライスコーピオンの腹に命中し、その衝撃でライスコーピオンは康太を放した。落ちた康太のもとに亮太がすぐに駆け寄る。
「大丈夫か?」
亮太は康太に聞く。
「ああ、何とか意識はあるよ。でも、左腕をひどくやられてしまった」
康太の左腕はひどい有様だった。早く治療をしないと腕を切断するはめになりそうだ。亮太は応急処置として、康太の左腕を包帯で止血した。
「じっとしてろよ」
亮太は康太の近くにいることにした。
ライスコーピオンは和司に狙いを定めた。
「やっべ、こうなった時のことを考えていなかった・・・」
和司の銃はM24SWSだ。狙撃銃では接近戦には向かない。リュックサックの中にあるものを思い浮かべてみる。あのお化け蠍を倒すのに使えそうなものは手榴弾くらいしかない。それも一発のみだ。
「くそっ、どうするかな」
和司は考えていた。あの蠍の頭に手榴弾を埋め込めば確実に倒せる。だが、そうするためには極限まで接近するしかない。
「いちかばちか」
和司はライスコーピオンに背を向けて走り始めた。