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第十八話:弔い

「得一……!」

拳を握りながら和磨はそう言った。

「ここで下手に動くとリョスケが死ぬぞ」

康太は和磨を必死になだめた。人質がいる以上、向こうが有利だ。おまけにこちらは武器を持ってない。

「なんだよお前ら、久しぶりの再会だぞ」

得一がおちょくるかのように言葉を発する。この状況をどうにかして打破しなければならない。

「そういえば、和司と尚人がいないな。どうしたんだ?」

得一が質問をしてくる。とっさに、

「二人は死んだ。旅の途中でな」

と康太はとっさに嘘をついた。

「なんだ、死んだのか。短い生涯だったね」

こんな状況で無いならお前をぶん殴ってやりたい。相変わらず、リョスケのこめかみには拳銃を突きつけられたままだ。

「こっちはもう、闘いの意思は無い。リョスケを開放してもらおうか」

康太が交渉に応じた。

「開放? なんのことだか」

得一がとぼけたかのように発言した。

「得一、てめぇ…」

こうちゃんが得一を殴ろうと一歩踏み出した時だった。

「リョスケ、やれ」

得一の命令によって、こめかみに突きつけられていた銃はどけられ、リョスケは腰のホルスターから拳銃を取り出し、こうちゃんの左足に向けて発砲した。こうちゃんは悲痛の叫びを上げてその場に倒れこんだ。

「リョスケ…てめぇは…裏切るのか…」

瀕死の状態でこうちゃんは声を絞り出した。

「止めを刺せ」

その得一の一言でリョスケはこうちゃんの頭に向けて発砲した。こうちゃんがビクンと身体が跳ね上がったかと思うと、紅い液体が流れ出てきた。

「リョスケ、お前どういうことだ!」

健斗は怒りを抑え切れなかった。

「お前ら気がつかなかったのか」

得一はただそう言った。

「考えてみろ。十代のガキにサハラ砂漠を横断してる仲間を見つけられると思うか? 敵のアジトの本部まで何の襲撃も無く無事辿りつけると思うか?」

得一の言うとおり、確かにおかしかった節があった。この島に入ってからも襲撃されたのは洋館に着いてからだった。

「リョスケからの連絡でお前らの行動は筒抜けだったがな。ここまでよう誘導してくれたよ」

「リョスケが得一に頭を垂れたのはいつからだ?」

康太が質問をした。

「二年前、リョスケ達のグループを襲撃したときだ。どいつもこいつも死に損ないだったが、リョスケだけ息があった」

康太は黙って聞いている。得一が深く息を吸い込んだ。

「リョスケに交渉したんだよ。お前の命は助けてやるから、三年三組の残りを実験台として俺に提供しろとな」

「そしたらな、リョスケは首を縦に振ったんだよ。そこからだ。リョスケの体力が回復したら様々な訓練を施した。武道、語学、武器の扱い…」

康太は得一の発言に少々疑問を持った。実験台…だからこの特殊部隊も俺達をすぐに殺さないのか。

「リョスケは再会したときからグルだったってことか」

和磨が怒りを殺しながら言った。

「なぜ、俺達を実験台にするんだ? 人間なら誰でもいいんじゃないのか?」

康太はさらに質問をした。

「君達が優秀だからだよ。<ライス・ハザード>が起こった時も冷静に対処して、日本からの脱出を図った。ただの中学生がだ。さらに訓練もしてないのに、銃火器を手足のように使いこなす。俺の最高傑作のコメシスも倒した」

得一はさらに話を続ける。

「もうね、君達はねただの中学生じゃないんだよ。才能を持ち合わせてる。平凡な人間じゃ実験にならないんだよ」

こいつはイカれてやがる。マッドサイエンティストか。

「あと、俺の素性を知ってるやつがいるといろいろ迷惑なんだよ。今、<ライス・ハザード>の首謀者は正体不明になってる。けどな、お前らがいると首謀者がばれちまう。世界は既に半壊してるけど、FBIとかは犯人をまだ追っている」

皆驚きの色を隠せなかった。こんなイカれ野郎が担任だった事実に。

「リョスケの役割はここまで俺達を誘導するってことか」

亮太が呟く。

「そう。君達はまんま騙されたってことだ。さ、こっちに来るんだ」

得一はリョスケを自分の身の近くに寄せ、特殊部隊は康太たちの手を縄で縛りつけようとした。


その時、天井の排気口のふたが外れた。特殊部隊はとっさに銃口を排気口へ向けた。

「ねじがゆるんでたのか」

得一はあまり気に留めなかった。

だが突然、特殊部隊の一人が銃を乱射し始めた。銃弾は他の特殊部隊に命中し、次々と人が倒れていく。

「何が起こったんだ?」

康太達も突然の出来事に驚き、銃を乱射した特殊部隊員はヘルメットを取り外した。

「ここまで予測通りだ」

その正体は和司だった。

「くそっ、ずっと大人しくしてたか」

得一は舌打ちをすると、リョスケを連れて通路の向こうへ消えていった。

「得一を追うぞ!」

健斗は得一を追っていった。すると、死に損なった特殊部隊員が通路の前に立ちはだかった。

特殊部隊員は銃口を健斗へ向けたが、すぐに銃口はだらりと下がりその場に倒れた。

「尚人…」

尚人が手に持ったダガーで特殊部隊員の首筋を刺したのだ。

「よこったね、別行動する人間がいて」

尚人はダガーを腰にしまい、健斗と共に後を追った。

「このまま、追うぞ」

和司、亮太、和磨も後を追って行った。

「死者への弔いはするべきだな」

康太は力尽きたこうちゃんのまぶたをそっと閉じさせた。


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