第十七話:Long time no see
「なんだこれ?」
康太はライスドッグの骸に付いている機械の様な物に目が行った。
その機械は筒状で先端にレンズが付いている。
「カメラか」
康太は機械を持って呟いた。
「カメラ?なんでそんなものがライスドッグに取り付けてあるんだ?」
こうちゃんが疑問に思った。
「このワンコロが自分で付けれるわけ無いからな、誰かが付けたんだろう」
和司が言う。
「誰かって?」
健斗が和司に聞いた。
「そりゃ、一人しかいないだろ」
和司が言いかけた時だった。
「得一だ」
リョスケが和司の言葉を遮って発言した。
「つーことは、ここに得一がいるってことになるら」
尚人が述べる。
「だな。でも、まだ絶対じゃない」
康太の不安の色は濃くなってきた。
ライスドッグが送られてきた、となると誰かが俺達を監視していることになる。
向こうもライスドッグ五匹ごときで全員殺せるとは考えてないだろう。
なら、なぜライスドッグを送ってきたのか。
謎は深まるばかりだ。
「とにかく、一番高い所を目指そう。ここに得一がいる筋が強くなってきた」
康太は先陣切って歩き始め、皆もそれについて行った。
「ビンゴだな」
康太の目の前には大きな洋館が建っていた。
エルバ島の雰囲気にそぐわないような建物が。
洋館の周囲は柵で囲んであるが、特に仕掛けらしいものは見当たらない。
「なんだか、新潟にあった洋館にそっくりだな」
和司が言葉を漏らす。
「警備の兵もいない、有刺鉄線みたいな柵もない。まるで、入ってくださいと言わんばかりだな」
和磨の言うとおりだ。本拠地にしては警備が薄すぎる。いや、この島自体の警備が薄い。
「正面から突っ込むのは危険すぎるから、俺と尚人は別行動するよ」
和司の提案により、二つに分かれることになった。一度の攻撃で全滅を防ぐためにも良い方法だ。
「二人で大丈夫?」
亮太が心配をする。
「大丈夫だら」
尚人が楽観的に答える。
「そっちに数が少なすぎると、見つかったとき怪しまれるからね。別経路で進入した奴がいるって」
和司の意見は的を射ていた。
「じゃ、そういうことで」
尚人は和司と共に来た道を少し下り、別路地に入っていった。
「玄関以外に入り口は無いかな?」
康太が皆に聞いた。できれば正面突破は避けたい。
「この洋館は柵でぐるっと囲んでいるから、裏口みたいなのは無さそうだよ」
洋館の周囲を見てきたリョスケが言う。柵を登るのは少々リスクが高い。
「素直に正目突破しようぜ!」
こうちゃんが門を開け、敷地内に侵入しようとした。
「待て待て待て!」
和磨が急いで止めた。
「こういうのは、一度確かめてから行くんだよ」
和磨がポケットに入っていた缶詰の缶を前に放り投げ、カラーンと缶が転がる音がした。
特に射撃音も爆発音も聞こえてこなかった。
「敷地内に物を投げ入れても怒らないとは優しい管理人だなぁ」
亮太が感服したように言う。
「じゃ、入りますか」
康太は一歩敷地内に足を踏み入れる。なんだかんだ言って正面突破か。
「地雷は無そうだな」
リョスケも足を踏み入れた。不安になること言うなよ。
「じゃ、俺も」
こうちゃんまでも敷地内に入ると、残りの皆も続々と足を踏み入れた。
康太達は洋館の建物内にまで侵入した。
建物内は床に大理石が敷かれており、ステンドグラスがはめ込んであった。
「中々、豪華な作りだな」
和磨が中を見て言う。
「新潟の研究所より贅沢だな」
皮肉を和司が言う。
その時だった
突然、豪勢なステンドグラスが砕け散り、床の大理石が持ち上がったかと思うと、数多くの兵士が侵攻してきた。
兵士は全員フルフェイスのヘルメットを装着しており、服装は特殊部隊の格好をしていた。当然、銃も装備している。
「やはり、罠だったか」
すぐに康太がシグザウエルP226を腰のホルスターから引き抜き、応戦しようとする。他の皆も各自、武器を取り応戦しようとする。
しかし、ほどなくして反撃の手は止まった。
「動くな」
放送が入った。この声はどこかで聞いたことがある。
「動くなって言われて止まるかよ」
和磨が放送には気にも留めず動こうとしたのを、康太が急いで止めた。
「とりあえず、ここは向こうの指示に従え」
康太が和磨に耳打ちした。和磨の目線の先には、こめかみに拳銃を突きつけられたリョスケの姿があった。
「わかった、動かないから撃つな」
康太は手に持っていたシグザウエルP226を床に落とし、両手を挙げた。他の皆も持っていた銃を床に置き、両手を挙げた。
「流石、康太。物わかりがいいね~」
癪に障る声が聞こえてくる。壁の一部が開くと、その声の主は現れた。
「やはり、ここだったか」
こうちゃんが舌打ちをする。
「久しぶりだね。教え子達よ」
目の前には「ライス・ハザード」の張本人、得一の姿があった。