第十六話:流刑の地
エルバ島が見えてきた。
辺りの海は鮮やかなマリンブルーに染まっている。ここに観光目的で来てたら良いなと思う。
ティルトローター機は砂浜に着陸地点を定め降下する。
ローターの風圧でビーチの砂が舞い、パラソルが飛んでいく。
普段ならこの島は観光客で賑わっているが、人っ子一人いない。
そう、『ライス・ハザード』が起こるまでは。
航空機は無事着陸に成功し、降りる準備を皆してる。
「ここに得一がいるといいんだけどね」
尚人が皮肉っぽく言う。
バツ印が何をさしてるかわからない以上、そんな気分にもなるだろう。
「得一の情報が手に入っただけでも儲けもんだろう」
こうちゃんがフォローする。
「とりあえず、機内から出るか」
和司が銃を担いで外へ出ると、尚人もこうちゃんも外へ出た。
「じゃ俺も出るか」
康太はシグザウエルP226を手に取り外へ出た。この左腕が使えないから、あまり大きな武器は携行できないのが残念だ。
外へ出てみると、皆武器を持ち待っていてくれた。
「康太、どっから探す?」
こうちゃんが聞いてきた。孤島とはいえ、エルバ島はかなり広い。全部しらみつぶしに散策しようとなると丸一日くらいはかかるだろう。車を使えばの話だが。
「こーゆーのは島で一番高いところへ行けばいいんじゃね?」
和司が適当なとこを言う。確かに和司の言うことも一理ある。港に置くよりは高い所に本部を置いたほうが外的からの攻撃に対処もしやすい。
「あの得一がそんな単純な所に本部を構えるかな?」
亮太が疑問に持った。高い所に置くよりは、目立た無い所に置いたほうがいいかもしれない。
「じゃ、どこに置くんだよ?」
和司が亮太に反論する。
「そりゃ目立たない所だよ。島の地下とか」
亮太も同じように反論する。地下も考慮すると丸一日掛けても見つかりそうに無い。
「とにかく、まずは島の頂上目指して島の全貌を掴むことにしよう」
悩んだ挙句、康太達は島の頂上を目指すことにした。悩んでいても始まらない。
「それにしても、敵から攻撃を俺達受けてないな」
健斗がふと呟く。普通、見知らぬ航空機が島に近づいたら撃ち落とそうとするだろう。でも、俺達は着陸して且つ機内から出てきても狙撃が無い。もしかしてここは本当の無人島であのバツ印はダミーなのではないかという疑問も浮かび上がってきた。
「言われてみればそうだな。普通攻撃がありそうなんだけど。もしかしたら俺達を殺せない理由でもあるのかな?」
リョスケが何気なく言う。殺せない理由。それが何なのか疑問が残るけどな。
「ま、頂上いけばわかるら」
尚人が尻ポケットに弾薬を入れると島の頂上へ向かった。
「じゃ、出発しよう」
皆出発し始めた。
銃を前に構えながら島を徒歩で移動するものの、人はおろかライスヒューマンすら出てこない。もしかして得一がこの島に本部を構える際、島の住民を追い出したのか。
街はがらんとしているが思ったよりは荒れてない。街の通りは石でできており、通りにはヨーロッパ調の建物が並んでいる。建物はクリーム色だったり、白だったりといろいろだ。二年前はここも観光客で賑わってただろう。
「ここに二年前に来たかったな」
康太が呟く。
「だな」
和司も呟いた。
「ここまで静寂だと不気味すぎるな」
和磨が不安気に言う。
「いや、そうでもないな」
と健斗が言うと、その目線の先には犬が五匹程こちらに近寄ってきた。
犬じゃなく、ライスドッグが。
「さっそくお出迎えか」
ライスドッグがこっちに走ってくると、和磨はメリケンサックをはめ直し、走ってくる一匹のライスドッグの顔面を殴り飛ばした。
殴り飛ばされたライスドッグはすぐに体勢を立て直した。
「五匹ばか怖くないぜ!」
健斗はトンファーを振り回しながら突っ込んでいき、振り回されたトンファーはライスドッグの前足に当たった。
ライスドッグ達は狙いを和磨と健斗に狙いを定め、和磨と健斗は背中合わせでライスドッグと対峙した。
「助っ人は欲しいか?」
和磨が言う。
「俺達二人で十分だ」
健斗が答えると、一匹のライスドッグが牙を剥き襲いかかってきた。健斗はライスドッグを蹴り飛ばすと、そのまま間髪入れずにトンファーでライスドッグの頭を粉々に砕いた。
仲間が犠牲になり、一瞬ひるんだ隙を和磨は見逃さなかった。和磨はひるんだライスドッグの頭部をアッパーカットで吹き飛ばした。頭の無くなったライスドッグはその場に倒れた。
残った三匹のライスドッグは二人から距離をとった。
「何を考えてるんだか」
健斗は腰につけたホルスターからデザートイーグルを取り出し、一体に向ける。
「もっと仲間を呼んでくるんだな」
引き金を引くとライスドッグは地に伏し、生き残った二匹は逃げていった。
「よし」
健斗はデザートイーグルをホルスターにしまった。
「おお、すごいすごい」
二人の闘いを見ていた和司達が感嘆の声を漏らした。