第十五話:バツ印
「得一に関する情報?」
康太はこうちゃんに聞く。まさか、ここで得一の情報を得られるとは思いもよらなかった。この二年間旅をしても手に入らなかった情報。
「ここで話すより上で話そう」
こうちゃんの提案により、皆上へ上がっていった。
「得一に関する情報を話す前にまずは良いニュースを話すか」
こうちゃんは口を開き、皆それを聞こうとする。こうちゃんは息を大きく吸い込み発した。
「食料や弾薬が大量に手に入ったってことと、航空機という移動手段を手に入れた」
歓喜の声が沸きあがった。特に食料が手に入ったのは大きい。ここ最近食料をケチりながら行動してたからだ。やはり「腹が減っては戦はできぬ」は本当のことってとこか。
「得一に関する情報はリョスケの口から話してもらおう」
こうちゃんに話を振られ、リョスケはノートパソコンを取り出した。
「俺とこうちゃん、健斗は弾薬を手に入れるため刑務所に入ったんだ。そこで新型のイーターに襲われた」
「新型のイーター?」
和司が質問する。
「ああ、これだ」
リョスケはノートパソコンのファイルを開きその画像を見せた。
画像は確かにイーターに近かった。でも、従来のイーターとは全然違う。イーターにしてはやけに筋肉質過ぎる。
「この画像はどこから…」
亮太も聞いてくる。
「それだよ。この画像は刑務所のパソコンの中に入っていた。ご丁寧にな。ただの刑務所にこんな画像が入ってるわけがない。考えられることは一つ」
皆リョスケと同じことを考えていた。
「俺達が入った刑務所は得一の研究所の一部だったんだよ」
皆衝撃の事実に驚きを隠せない。まさか、ここまで得一の支配下に置かれていたなんて。
「それだけじゃない」
リョスケはパソコンを操作して新たなファイルを開いた。そこには世界地図が広がっており、丸で印がつけてあった。
「丸がつけてある場所はアメリカ合衆国に二箇所、ブラジル、オーストラリア、タイ、中国、ウクライナ、日本、そしてここリビアだ」
康太はその丸印を見て考えていた。リビアに付いてるのはリョスケ達が行った刑務所のことだろう。日本に付いてるのは新潟にあった研究所か、中学校の古墳下にあった所のどっちかだ。
「それってつまり…」
康太が言いかけた所でリョスケは言葉を遮った。
「ああ、多分この丸印は得一の研究所だろう」
「得一の野郎、いくつ研究所を持ってんだ」
和磨が少し怒り気味に言う。研究所が多いってことはそれだけ資金も人もあるってことになる。
「でも」
亮太が世界地図に指を指す。
「このバツ印は何?地中海辺りを指してるけど」
亮太の指先にはバツ印があった。他の場所は丸印なのにそこだけバツ印。他の所とは明らかに違う何かがあるってことだ。問題はそこに何があるかってことだ。
「バツ印か…」
康太は呟く。
「そこがもしかしたら本拠地なんじゃないか?」
皆康太の問題発言に目を丸くする。
「おいおい、その発想はいくらなんでも唐突じゃないか?」
和司が反論する。確かにこの発想は突拍子も無い。何の根拠もない。
「ああ、確かに唐突だな。でも、廃棄されたリビアの研究所には丸印。このことからバツ印は別に廃棄された所を指してるわけじゃない」
「なんか…妙に的を射てるな」
亮太は康太の意見に共感していた。
「言われてみれば確かにそうだな。ここにいてもしょうがないからそこが次の目的地にしようぜ」
和司が折れ、皆康太の意見に賛成した。
バツ印は本拠地を指してるという意見に。
「和司の言うとおりだな。そのバツ印に向かう準備をしよう」
康太が皆を仕切った。リョスケからの情報は大きく状況を動かす。
「こうちゃん、移動手段って?」
「ティルトローター機だ」
ティルトローター機。どっかで聞いた名前だ。まあ、いい。早く準備をしてお世話になった村長にお礼を言わないと。
「皆出発の準備だ」
康太が掛け声を掛ける。
「おう」
各自自分の荷物をまとめる準備をした。
康太は村長に会いに行くと、村長は笑顔で迎えてくれた。
「どうもお世話になりました」
康太はお礼を言う。村長もお礼を言ってるようだが、何を言ってるのかはわからなかった。感謝の意が伝わればいいか。
「全員いるな、忘れ物無い?」
康太が皆に聞いた。
「遠足に行くわけじゃないんだからさ~」
和磨が突っ込む。皆、ティルトローター機に乗り込み始める。
「運転は俺がやる。助手席には和磨が着いてくれ」
リョスケが操縦席に着き、その隣に和磨が着く。太陽は容赦なく照り付けていた。
「よし、いくぞ!」
リョスケがエンジンを掛けると、ティルトローター機は離陸し始めた。どんどん、下の砂地が小さくなってく。
「リョスケ、バツ印の場所ってどこだ?」
康太がリョスケに聞く。
「エルバ島だ」
リョスケは真剣な眼差しで正面だけ向いて答えた。
エルバ島。ナポレオン流刑の地だ。