第十三話:大丈夫さ
康太は学校に到着した。午前七時五十分。チャイムが鳴るのは八時二十分だから余裕を持っての登校だ。
下駄箱に靴を入れて上履きに履き替えた。下駄箱には誰もいなかった。誰とも会わないとは中々珍しい。
階段を上がって三年三組の教室へ向かい、廊下を歩く。三年三組は一番奥の教室だ。
途中にある一組や二組の教室の中を見るが誰もいない。
ちょっと来るのが早かったかな。
そんなことを思いながら歩いてると三組の教室に着いた。
なんか教室が臭い。
この臭いは鉄か。
血だ、血の臭いがする。しかも強烈な。
前の席を見ると血だらけの俊弥の姿があった。
おい、俊弥どうしたんだよ
急いで俊弥の首筋に指を当てる。
脈が無い
一気に血の気が引くのがわかる。目をそらして床を見るとそこには白衣姿の宗磨と衛が倒れていた。
目を見開き口をぽかんと開け、首筋には獣に噛まれたかのような傷跡があった。
康太は自分の身体が一瞬ふらつくのがわかった。
貧血だ
陸上部の身なのに貧血とは情けないと思ったが、今回は別だ。気分が悪いのを我慢して前へ進んだ。
教卓の上には誰かの右腕があった。
今度はバラバラ殺人かよ
目を落としてみると、教壇の上には右腕の無い山本の姿があった。よく見ると左足も無い。
吐き気が来るのがわかった。
苦い胃液を飲み込み、吐くのをこらえて教壇から教室を見渡した。
そこには見るも無残な光景があった。
壁には血まみれの純が寄りかかっており、その近くには亮太が倒れていた。
亮太だけではなく、和司、こうちゃん、健斗、和磨、リョスケ、そして尚人も倒れていた。
康太は今自分の目の前で起こっていることを理解できなかった。いや、信じたくなかった。
キーンコーンカーンコンとチャイムの音が鳴る。席に着く気にはなれなかった。
「さ、もう朝のショート始まるから席着けよー」
聞き慣れたあいつの声がする。
得一だ
「なに康太やってんだ、早く席着けよー」
得一は足元の山本には目もくれず教壇の上に立った。
おい得一、これはどういうことだ
そう言おうとした時だった。
得一はスーツの内ポケットから拳銃を取り出し、銃口を康太に向けた。
「これで皆の所に行けるな」
銃の引き金に指をかけようとした所だった。
「うわぁぁぁ!」
康太は目を覚まし、飛び起きた。辺りはまだ暗く、夜明けには少し早かった。冷や汗が酷いのがわかる。心拍数が上がってるのもわかる。
「おい、いきなりどうしたんだよ」
隣で寝ていた和磨も目を覚ました。
「まだ、おはようにしては早…」
そう言いかけた時、康太は和磨の服の袖を掴み、顔を伏せて泣いた。
「よかった、夢だったか…」
そうだあれは悪い夢だったんだ、よかった。別に悲しいわけでもない、嬉しいわけでもない。なのに、涙が止まらない。
「いきなり、泣いてどうしたんだよ…」
「わりぃ、悪夢を見たんだ」
康太は和磨の袖を離し、窓の外を見た。砂漠の月はきれいだ。
健斗達は無事なのだろうか
それだけが気がかりだった。まだ出発から一日ぐらいしか経ってない。あの悪夢を見た後だとよけいに心配だ。
「あいつらは無事かな」
「大丈夫さ。三人いるんだ」
和磨の言葉を聞いて、康太は再び横になった。もう少し寝れそうだ。
そのころ、こうちゃん達は施設の外を出ていた。施設の裏口近くには運びだした銃や食料が置いてあった。
「なあ、リョスケ…案ってこれか?」
こうちゃんは目の前にある航空機を指差した。その航空機は翼にローターが付いており、大きさは結構なものだった。
「そうだ。これを操縦する」
リョスケは何事も問題なさそうに言った。
「これってさ、俺知ってるよ。この航空機」
「ああ、ティルトローター機だろ」
リョスケはこれが操縦できるのか。少し疑問だな。
「とりあえず、荷物中に入れるの手伝ってよ」
健斗が弾薬を運びながら言う。
「ああ、手伝うよ」
こうちゃんとリョスケは荷物をこのティルトローター機に入れるのを手伝った。
しばらくすると荷物の搬入が完了した。
「リョスケが操縦するの、これ?」
健斗がリョスケに聞いた。やはり疑問に持つらしい。和磨でさえこれは操縦したこと無いのに。
「ああ、大丈夫だ。操縦できる」
リョスケは自信を持って言った。
「二年間俺は一人で生きてきた時に習得したんだ。退役軍人に教わってな」
リョスケは操縦席に乗り込んだ。
「こうちゃんは助手席、健斗は後ろに乗ってくれ」
そう言われると、二人は指示に従った。
「じゃ、準備はいいな?」
リョスケはこうちゃんと健斗に声を掛け、二人はうなずいた。
「じゃ出発するぞ」
機体は徐々に浮き上がり、空を飛んだ。下にある刑務所はどんどん小さくなっていく。
「皆のとこに戻るぞ」
三人は刑務所を後にし、皆がいる村へ向かった。