第十一話:ヒーロー
試作品は部屋に入ってくると辺りを見回した。
俺のことを探しているらしい。
俺の居場所を見つけるのにはそんなに時間は掛からなかった。
試作品は長机を蹴り飛ばしながらこちらに近づいてくる。休ませてもくれないのか。
右腰にしまった警棒を取り出し構える。試作品はすぐさま体当たりを仕掛けてきた。
俺は右に跳んで攻撃をかわす。辺りには長机の破片と思しきものが散乱している。
「いい考えが思いついたぜ」
俺が試作品の懐に潜ると、試作品は俺に狙いを定めて拳を振り下ろした。走って拳を避ける。床のコンクリートにはひびが入る。
「この調子だ」
試作品は俺目掛けて何度も拳を振り下ろし、そのたびに俺は避ける。
このまま、床を殴り続ければいい。
徐々に床のヒビは大きくなっていく。
パキっとコンクリートの破片が砕ける音がした時だった
「そろそろ離れるか」
こうちゃんは試作品の傍を離れた。
試作品が足を一歩踏み出すと突然床が抜け落ち、試作品は下の階へと落ちていった。
「本体が強いなら、そいつの足場を崩せってことだ」
倒れた試作品を見下ろしながらこうちゃんは呟いた。
まだ試作品の意識はある。油断してはならない。
試作品はゆっくり立ち上がり、こうちゃんがいる上を見た。
すると、試作品は大きく跳びあがり、再び舞い戻ってきた。
「やっぱりこいつと闘うのかよ」
試作品は腕を振るい、こうちゃんはそれを華麗に避ける。大きな穴を床に空けたせいで足場が悪くなった。
すぐさま、右脚に装着してあるベレッタM92を引き抜き、試作品の左足を狙い撃った。
銃弾は筋肉のついた脚を貫いたが、たいしたダメージにはなっていない。
「拳銃くらいじゃビクともしないようだな」
ベレッタM92を右脚のホルダーにしまい、警棒を構えた。
試作品が風を切るような速さで、こちらに拳をぶつけてきた。
「危ねぇ!」
とっさに警棒を振り払い、拳の軌道を逸らした。その拍子にこうちゃんは試作品の腕に掴まり、放り投げられて試作品の背中に乗った。
試作品の背中から床は中々の高さだ。
ざっと二メートルはあるだろう。
試作品は一生懸命こうちゃんを振り落とそうとした。
こうちゃんは試作品の首に掴まり振り落とされまいとした。
そうやっていると試作品は足場を踏み外し、再び下の階へ落下した。無論こうちゃんと一緒に。
落下した試作品はうつ伏せになるようにして倒れ、その上にこうちゃんが馬乗りになっているような状態だった。
これはチャンスだ。
しかし、止めを刺すような武器がない。
そう思っていると、何やら話し声が聞こえてきた。足音も近づいてくる。
その足音の主は扉を開けた。
リョスケと健斗だった。
「こうちゃん」
リョスケが話しかけようとする。
「話はいいから後だ。その銃をこっちに投げろ」
リョスケは持っていたモスバーグM590をこうちゃんに向かって投げた。こうちゃんは右手で受け止め、試作品の頭に突きつけた。
「くたばれ筋肉おにぎり」
引き金を引くと、頭部の米粒が飛び散り、中から紫蘇が噴出した。試作品の身体がビクンと痙攣すると、その身体は二度と動かないかのようグッタリしていた。
「いいところに来てくれたな」
「ヒーローは遅れて来るもんだろ」
リョスケは自慢げに言った。