第十話:迫りくる豪腕
「かっこいいこと言ったはいいけど、どうしようか・・・」
こうちゃんは目の前にいる怪物を見て思った。
誰かがこいつを止めなければならない。リョスケだと精神面上不安だし、健斗と俺かと言われたら、俺のほうが適任だろう。
こうちゃんは警棒を握り直し構える。試作品はこちらに近づいてくると腕を振り上げた。
「あれに当たったら終わりだ」
こうちゃんは急いで前転をして避けた。試作品の拳はコンクリートの床にめり込む。なんて力だ。
こうちゃんはリョスケと健斗が逃げた方向と反対方向へ走り出した。なるべく長く時間稼ぎをするために。試作品はこうちゃんの走った方向へと向かった。
幸いなことに、あの怪物はイーター程素早くない。
そんなことを思いながら長い廊下を走った。
試作品は素早さは無いものの、体力はある。
このままじゃ、捕まる。
こうちゃんは小部屋の扉を開けて中へ逃げ込んだ。ここなら入り口は一つだ。迎え撃てる。
警棒を構えたその時だった。
試作品は扉から入ってこずに、扉の横の壁を破壊して入ってきたのだ。
この狭い部屋には逃げ道は無い。そろそろ闘うか。
試作品は体当たりをかましてきた。
こうちゃんは壁を蹴り、三角跳びの要領で攻撃を避けた。
ガラガラという轟音と共に向こうの部屋が露になった。
試作品が振り返ろうとしたとき、こうちゃんは試作品の膝の裏を警棒で強打した。すると、試作品は一瞬よろめいた。
「膝はつかなかったか」
こうちゃんは舌打ちをして、すぐに次の攻撃にかかる。試作品がこっちを振り向く前に頭を破壊しようとし、力を込めて頭部を打った。
しかし、そのダメージはこちらに来た。
「く…」
あまりの痛みに思わず警棒を手から離した。これが作用反作用か。左手の感覚がいまいち無い。しばらくは持てそうにないな。
こうちゃんはとりあえず、落とした警棒を回収しようとした。
その時だった。
試作品の肘打ちが当たるところだった。あそこで警棒を拾おうとしてたら、自分の身体は粉々になってただろう。粉々になった警棒を見てそう思った。
こうちゃんは右手に持ったもう一つの警棒を腰にしまい、穴の空いた壁を通って、向こうの部屋へ向かった。
向こうの部屋を通り、廊下へ出たこうちゃんは階段のある方向へ向かった。
やつに追いつく前に上の階へ行ってしまえばこっちのものだ。
走っていると何かが空を切る音がした。自分の前の壁には人の頭ほどの大きさがある瓦礫が転がっていた。あの野郎こんなもの投げやがって。
急いで階段を上がろうとすると、再び試作品は瓦礫を投げてきた。またしても瓦礫はこうちゃんには命中しなかったが、瓦礫の破片が当たった。
瓦礫には目もくれず階段を駆け上がった。
階段を駆け上がると目の前に大きな扉があった。その横には再び廊下が続いている。
こうちゃんは目の前の扉を開けた。
そこには数多くの長机が置いてあった。
作業場か。
こうちゃんはひとまず長机の影に隠れた。
これで少しは落ち着ける。自分の息がかなり荒くなってるのに初めて気がついた。
「警棒を一本失ったか」
ほとんど感覚の無い左手をみて思った。あの野郎はとんでもない石頭だったな。米で出来てるとは思えない程の。奴の弱点はおそらく頭だ。しかし、その頭そのものがものすごく堅い。
しばらく息を潜めていると、試作品は部屋に入ってきた。