第九話:試作品
壁の向こうは何かの施設らしかった。
犯人輸送車両やジープが立ち並んでいた。
奥には鉄筋コンクリートで作られた建物があり、窓には鉄格子が取り付けてある。
刑務所だろうか。
そんなことを思いながら健斗達は歩いていた。
「とりあえず、建物の中に入るぞ」
こうちゃんの提案により三人は建物に入ることにした。
扉には何もロックは無かった。おそらく取り壊されることになってたのだろう。
「おじゃまします」
と言いながらリョスケは入った。二人もそれに続くようにして入った。
建物の中には幅広い廊下があり、廊下の横にはいくつもの小部屋があった。
小部屋には粗末なベッドと便器がある。
中々不気味な場所だ。陽光が差し込んでる分まだマシか。
「ここに入ったはいいけどどうする」
こうちゃんが聞く。
「ますは、武器庫を探すのが優先でしょ。ここは刑務所っぽいから銃火器も備えてあるはず」
銃を磨きながらリョスケが答えた。
「じゃ、まずそうするか」
三人はムショの中を歩いた。
しばらく歩いてると分かれ道になった。このまま真っ直ぐ進むか階段を上るか。
「どっちへ行く」
再びこうちゃんが聞いてきた。
「二手に分かれるのは?」
健斗は答えた。
「二手に分かれるとなると、二人と一人か。一人は危険じゃないか?」
こうちゃんの言うとおりだ。ここの内部の構造がわからない以上、単独行動は危険だ。
「じゃ、三人で行動するか」
リョスケがそう言ったときだった。
壁がガラガラと崩れる音がした。
「何かいるのか?」
リョスケがすぐにM4カービンを構えた。
「建物が老朽化して崩れたんだろう」
こうちゃんのその一言を皆は信じてしまった。
「だ、だよな」
「で、どうする?」
「とりあえず、皆で階段を上るか」
健斗達は階段を上ることにした。
階段を上るとそこには再び廊下があった。しかし、小部屋は少なくなっていた。
少し廊下を歩くと今ままでの部屋とは雰囲気が違う部屋が一つあった。
「この部屋に入るか」
こうちゃんはドアノブに手をかけた。
ガチャっと音がして扉は開いた。鍵はしてなかったようだ。
部屋の中にはコンピュータ機器が多く存在し、病院にあるような手術用のベッドが一つあった。
試しにコンピュータの電源を押してみるが電源が入らない。
当然か。
でも、コンピュータはそこまで古くない。つい最近まで使っていたのか。
コンピュータの横には本棚があり、そこには数多くの書籍が埃をかぶっていた。
試しに書籍の一つを手にとってみるが、書籍は英字で書かれており読めない。
「ここは何の部屋なんだ」
こうちゃんがふと疑問を言う。
「もしかして、ここは得一の研究所の一つなんじゃないか」
リョスケの発言に二人は目を丸くした。
「いや、その可能性があるかもねってことだよ」
リョスケは慌ててフォローした。
確かにリョスケの推測があってるかもしれない。
刑務所になぜ病院用のベッドがある?
刑務所内にだって看守や囚人を診るために病院はある。
でも、ただの病院にしては設備がよすぎる。
それとも、刑務所の病院はこんなに設備が良いものなのだろうか。
いろいろと思索をしていると、再びガラガラと壁が崩れる音がした。
崩落音がしたかと思うと、何かが近づいてくる足音もした。
「絶対何かいる」
リョスケはM4カービンを携え外に出ると、すぐにリョスケは青い顔をして部屋に戻ってきた。
「やつがいる」
リョスケはガタガタと震えだした。
「やつってなんだよ」
健斗はトンファーを構えて外に出た。
そこには見たこともない生物の姿があった。
頭はおにぎりで、筋骨隆々に鍛え上げられた姿。イーターにものすごい筋肉が付いたと言ったらこんなんだろう。足音からしてかなりの重量だ。
「あ、あの時の・・・」
リョスケが音を漏らした。
「あの時のって?」
健斗が聞く。
「二年前のあの時の試作品だ」
リョスケの声色は明らかに悪い。二年前リョスケの部隊を壊滅させた張本人の姿が目の前にいるのだから。
「あいつには敵わないから早く逃げろ」
リョスケは部屋を飛び出し廊下を駆け出した。
獲物が逃げるのを試作品は見逃さなかった。
仁王立ちをしていた試作品は走り出した。足音は重く、禍々しいオーラを放っていた。
このままだと試作品はリョスケを捕らえる前にまず、健斗を吹き飛ばそうとしていた。
「ここはどいてたまるか」
健斗はトンファーを構え試作品の動きを止めようとしたが、試作品の体重は健斗では止めきれぬ程重かった。健斗は反射的に身を翻した。
「お前はリョスケと一緒に武器庫を探せ」
こうちゃんは警棒を取り出して、試作品の背中に飛び乗った。
こうちゃんはすぐに警棒で試作品の腕を思い切り強打した。すると、試作品はバランスを失いそのまま滑りこみ倒れた。こうちゃんは試作品の背中から降り、試作品は立ち上がった。
「この怪物は俺が足止めしとくからリョスケと一緒に行け」
健斗はトンファーを肩に背負いリョスケの後を追った。