プロローグ:戦いの始まり
「くそっ暑い」
額の汗を腕でぬぐいながら、康太がそう呟いた。
サハラ砂漠を三年三組は徒歩で旅をしていた。
照りつける太陽が康太達の体力を削っていく。
車のガソリンが旅の途中で切れてしまい、徒歩で移動せざるを得なかった。
「おい誰か水」
純が枯れた声でそういうと、亮太がリュックの中からペットボトルを取り出す。
「大事に飲んでよ」
亮太がそう言うと純は軽く頷き一口分、口に含んだ。
「あれっ」
和司は何かあったのかいきなり声を出した。
「どうかしたか」
こうちゃんが尋ねる。
「何か地面が急に上がったような気がしたんだよね」
「へぇ~」
尚人が興味なさげに呟いた。
「暑さで頭やられっちゃったんじゃね」
香港での戦闘の後、全世界に急激なスピードでRウイルスの被害は広がっていった。
その黒幕は、三年三組の担任、得一。
得一は、Rウイルスの被害が広がると同時に世界の大国とも渡り合える力をつけていた。
Rウイルスの恐怖から逃れるために自ら得一の下に集まる人々も大勢いる。
そして得一は、各大陸ごとにブロック分けし、今も着々と勢力を伸ばしつつあった。
しばらく歩いていると村落らしきものを発見した。どうやら人がいるらしい。村落の近くでは子ども達が元気に遊んでいた。もう日は大分傾いていた。
「おい、こんなところに子供がいるぜ」
「さすが地元の子、元気だな~」
またどうでもよさそうに尚人がつぶやく。
「今夜はこの村に泊まろう。村長に話をつけてくる」
康太がそう言いかけたが一瞬の悲鳴によって、かき消された。
全員が悲鳴が聞こえる方を振り向く。
さっきの子供が地面に引きずり込まれていた。
「おい、助けるぞ」
和磨がヌンチャクを取り出すと、すぐに子供の方へ向かう。
「待て」
和司が大声をあげて、和磨の動きを止めようとする。
「うるせぇ」
和磨は無視しそのままさらにスピードを上げた、が後ろから投げられた警棒に足をとられその場に転倒してしまった。
「なにすんだよ」
和磨は、すぐに立ち上がり和司たちを睨みつけた。
その時、悲鳴が叫び声に変わった。
地面が盛り上がり、その下からRウイルスに感染した巨大サソリが姿を現した。
「ライスコーピオンだ」
康太がそう言うと同時に8人は戦闘態勢をとる。
「死ねや」
尚人が早速引き金を引き弾丸を撃ち込む。しかし体を覆っている冑に軽く跳ね返された。
「バカか、こういうのはな、覆われていない関節部分を狙うんだよ」
和司が狙いを定め、撃った。
狙い通り関節部分に命中させるが傷すらつけることができなかった。
「ウソだろ」
「テメェもバカじゃねーか」
尚人が笑いながらそう言った。
「でもちょっとマズイな」
こうちゃんが苦笑いしながら距離を取る。ライスコーピオンは狙いをこちらに付けている。
頭を狙うにも大きなハサミによって全て防がれてしまう。かなり手詰まりだ。
「誰か囮になれよ」
純がそう言うとみんな和磨の方に視線を送る。
「ちょおっと待てや」
和磨が反論しようとするが、
「さっきの子供の敵打ちしてこい」
「大丈夫、見た所スピードはなさそうだ」
と簡単に言い負かされてしまい、囮になることが決まった。
「くそ、しっかり頼むぜ」
和磨は勢いよく突っ込む。しかし、ライスコーピオンは予想以上に素早かった。
「ヤバい」
大きく右に飛ぶが、それとほぼ同時にライスコーピオンはハサミを振り落とした。
一瞬にして砂煙が高くまで舞い上がる。
「大丈夫か」
康太が大声で安否を確認する。
「なんとか」
思ったより普通に返事が返ってきたことに安堵の息を出す。
砂煙が薄くなり、和磨の居場所を確認することができたが、その後ろでライスコーピオンが鋏を構えていた。
「しまった、気づいていない」
この大事な時に声が出ない。
再びライスコーピオンがハサミを振り落とす。砂煙が舞い上がり、和磨が見えなくなる。
「カズマァーー」
誰かの叫び声が砂漠にむなしく残る。
「ウソだろ、おい返事しろ」
尚人が大声を出すも返事は聞こえてこない。ライスコーピオンは砂に潜った。
だがどこからかエンジン音が耳に聞こえてくる。
エンジン音の聞こえる方に目を向ける。
そこには、バイクに乗った男とその男の右腕に掴まれている和磨の姿があった。