第7話
待たせちゃったな。とりあえず俺の信頼できる人に相談してみたから、何か進展があったら教えるよ。だから――信じて、待っててほしい」
「ここまで来て嘘をつくなんて思っていませんよ。不安な気持ちはありますが……」
彼女は握った拳にぎゅっと力を込めていた。爪が食い込みそうなほど強く。それだけ追い詰められていたのだと思うと、胸が締めつけられる。
俺は迷った末に、そっとその手に触れ、包み込むように握った。
「えっ、あっ……あぅ。だっ、大丈夫ですよ。あっ、そっ、そうだ、そろそろ妹を迎えに行かなきゃ」
顔を真っ赤にして視線を泳がせると、逃げるように立ち上がった。
……やっぱり急に触れたのはまずかったか。相手を気遣ったつもりが、逆に驚かせてしまった。人との距離感なんて、料理以外は本当に何も知らないな、俺。
「そっ、そうだな。そろそろ洗濯も乾く頃だろうし、雨も止んできたみたいだし……ちょうどいいかもな」
「それじゃ、ちょっと確かめてきますね」
ぱたぱたと小走りで部屋を出ていく。
取り残された俺は、情けなく息を吐いた。
……ったく、やっちまった。あんな状況で手なんて握ったら警戒するに決まってるだろ。
料理だけで生きてきたから、こういうの慣れてなさすぎる。
考え込んでいるところへ、彼女が戻ってきた。
「敬斗さん、洗濯終わってました。ありがとうございました。それで……えっと……これからも連絡取れるように、Limeの交換しませんか?」
少し緊張した声。でも、どこか期待も混じっている。
「Limeなら持ってるから、交換しておくか。今後連絡は必要だしな。あ、それと……俺が相談した人が、後で詳しく話を聞くかもしれないから。その時は頼むって言ってた」
「そうですよね。状況を細かく話さないと、その人も困りますもんね。その時は、私もしっかり説明します。よろしくお願いします」
「こちらこそ、だ。……それじゃ妹さん、早く迎えに行ってやりな。親戚のおじさんの方は大丈夫か?」
「はい。まだ保護者になったわけではないので、一緒に住んでいるわけではないんです。それも……いつまで保つか分かりませんけど」
その言葉には、不安と諦めが混ざっていた。
何度も一人で抱えてきた悩みなのだろう。
「……そっか。早く進展するよう、俺からも言っておくよ」
「ありがとうございます。それじゃ行きますね。今日は本当にありがとうございました」
そう言ったあと、彼女はふと思い出したように顔を上げ、優しく微笑む。
「それと……今日いただいたスープですけど、薄味なのにコクがあって、とても優しい味でした。妹にも飲ませてあげたいって思ったくらいです。こんな幸せな気持ちになるスープ、初めてでした」
胸の奥が熱くなる。
まさか、そんなふうに言ってもらえるなんて。
「それではまた、スープ飲ませてくださいね。妹の分も……その時はお願いします」
来た時の影を背負った表情ではなく、晴れた空みたいな笑顔で彼女は帰っていった。
扉が閉まったあと、俺はゆっくりと息を吐く。
――料理で誰かが笑ってくれる。
たった一人でも、自分の作った味で人を幸せにできる。
こんな感覚、覚えてしまったら……もう料理をやめるなんて、できないよな。




