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餌付けしてしまった  作者: けんたん


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3/5

3話

全く、あの女……警戒心ってものがないのか?

 女の子なんだから、こんな雨にずぶ濡れになってたらどうなるか分かるだろうに。


 とはいえ、背は小さいけど、なんというか……出るところは出てる。いわゆる――ロリ体型ってやつか?

 ……って俺は何を考えてるんだ。今の状況でそんなこと考えてたら通報案件だぞ。

 せっかく真面目に生き直して、おじさんにも迷惑かけずやってきたのに、これで台無しにしてどうする。

 バカなことを考えてないで、まずは風呂を沸かしてやらなきゃな。ついでに最低限掃除して、あったかいスープでも作ってやろう。


「今お湯を張ってる。溜まるまでの間、先にシャワーでも浴びて体を温めておけ。

 洗濯機は乾燥機能付きだから、濡れた制服とかもそのまま乾かしておくといい」


 俺は新しいバスタオルを手に取り、彼女の肩にかけた。

 驚いたように目を瞬かせる少女の手をそっと取って立たせ、半ば押し込むように浴室の方へ導く。


 ――さて、と。

 特製スープでも作るか。風呂で体を温めつつ、温かいスープで中からも温めてやれば、少しは元気になるだろう。


 冷凍庫を開けると、ストックしておいたスープがいくつか並んでいた。

 一週間ごとにまとめて作っておくのが、俺の中での生活リズムになっている。時短にもなるし、何より安心できる。


 確か、今のストックはコンソメベースだったな。

 よし、これにベーコンと人参、ブロッコリー、玉ねぎを加えて――簡単ポトフにしよう。

 冷凍野菜を使えば手間も少ないし、こういうとき本当に助かるよな。


 ……それにしても、あの子、どうしてあんなところにいたんだ?

 制服姿ってことは学生だろうに。


 考えながら包丁を動かしていると、浴室の方から水の音が微かに聞こえてきた。

 生きてる音って、案外こういうささいなものなんだな、とふと思う。

 あの子が無事でよかった。それだけで、なんだか肩の力が抜けていくようだった。


 ―――


 温かい。

 理由も分からず、流れでシャワーを浴びてしまったけど……これから、どうすればいいんだろう。

 体が温まると同時に、頭も少しずつ冴えてきて、状況が現実味を帯びてくる。


 あの人――変な人じゃない……よね?

 もしそうなら、最初から私のことを襲おうと思えば出来たはずだ。

 でも、そうしなかった。むしろ必死に気を遣ってくれてた気がする。


 それに……背は小さいけど、胸ばっかり成長してきて、ちょっと気にしてたのに……。

 ああ、もう、何考えてるの私! 下着まで洗濯しちゃったのに、着替えどうしよう。

 まさか、それをわかってて洗濯させたんじゃ――。


「おーい、悪いがちょっといいか? そのままでいいから聞いてほしいんだが」


 ――びくっ。

 浴室の外から声がして、思わず変な声が出てしまう。


「ひゃいっ!」


「制服とか洗濯の間、着替えないだろうからな。

 男物で悪いけど、新品のやつある。使ってくれ。

 ……下着に関しては、上は悪いけど無い。

 下はボクサーパンツで我慢してくれ。多分、女でも履けると思う。

 今スープ作ってるから、ゆっくり入って温まってから出てこいよ。それだけだ」


 静かな声だった。

 優しくて、でもどこか不器用で。

 ……やっぱり、悪い人じゃないのかもしれない。


 ううん、ダメダメ。男の人は、いつ“狼”になるかわからないんだから。

 でも――もし、この人が本当に私を助けてくれたなら。

 少しくらい……信じてみても、いいのかな。


 ――ゆい、お姉ちゃん頑張るから

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