3話
全く、あの女……警戒心ってものがないのか?
女の子なんだから、こんな雨にずぶ濡れになってたらどうなるか分かるだろうに。
とはいえ、背は小さいけど、なんというか……出るところは出てる。いわゆる――ロリ体型ってやつか?
……って俺は何を考えてるんだ。今の状況でそんなこと考えてたら通報案件だぞ。
せっかく真面目に生き直して、おじさんにも迷惑かけずやってきたのに、これで台無しにしてどうする。
バカなことを考えてないで、まずは風呂を沸かしてやらなきゃな。ついでに最低限掃除して、あったかいスープでも作ってやろう。
「今お湯を張ってる。溜まるまでの間、先にシャワーでも浴びて体を温めておけ。
洗濯機は乾燥機能付きだから、濡れた制服とかもそのまま乾かしておくといい」
俺は新しいバスタオルを手に取り、彼女の肩にかけた。
驚いたように目を瞬かせる少女の手をそっと取って立たせ、半ば押し込むように浴室の方へ導く。
――さて、と。
特製スープでも作るか。風呂で体を温めつつ、温かいスープで中からも温めてやれば、少しは元気になるだろう。
冷凍庫を開けると、ストックしておいたスープがいくつか並んでいた。
一週間ごとにまとめて作っておくのが、俺の中での生活リズムになっている。時短にもなるし、何より安心できる。
確か、今のストックはコンソメベースだったな。
よし、これにベーコンと人参、ブロッコリー、玉ねぎを加えて――簡単ポトフにしよう。
冷凍野菜を使えば手間も少ないし、こういうとき本当に助かるよな。
……それにしても、あの子、どうしてあんなところにいたんだ?
制服姿ってことは学生だろうに。
考えながら包丁を動かしていると、浴室の方から水の音が微かに聞こえてきた。
生きてる音って、案外こういうささいなものなんだな、とふと思う。
あの子が無事でよかった。それだけで、なんだか肩の力が抜けていくようだった。
―――
温かい。
理由も分からず、流れでシャワーを浴びてしまったけど……これから、どうすればいいんだろう。
体が温まると同時に、頭も少しずつ冴えてきて、状況が現実味を帯びてくる。
あの人――変な人じゃない……よね?
もしそうなら、最初から私のことを襲おうと思えば出来たはずだ。
でも、そうしなかった。むしろ必死に気を遣ってくれてた気がする。
それに……背は小さいけど、胸ばっかり成長してきて、ちょっと気にしてたのに……。
ああ、もう、何考えてるの私! 下着まで洗濯しちゃったのに、着替えどうしよう。
まさか、それをわかってて洗濯させたんじゃ――。
「おーい、悪いがちょっといいか? そのままでいいから聞いてほしいんだが」
――びくっ。
浴室の外から声がして、思わず変な声が出てしまう。
「ひゃいっ!」
「制服とか洗濯の間、着替えないだろうからな。
男物で悪いけど、新品のやつある。使ってくれ。
……下着に関しては、上は悪いけど無い。
下はボクサーパンツで我慢してくれ。多分、女でも履けると思う。
今スープ作ってるから、ゆっくり入って温まってから出てこいよ。それだけだ」
静かな声だった。
優しくて、でもどこか不器用で。
……やっぱり、悪い人じゃないのかもしれない。
ううん、ダメダメ。男の人は、いつ“狼”になるかわからないんだから。
でも――もし、この人が本当に私を助けてくれたなら。
少しくらい……信じてみても、いいのかな。
――ゆい、お姉ちゃん頑張るから




