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還光の月  作者: 卵掛 小保下
町の終わり
2/13

夢で見たことを小説っぽく書いてみたやつ。たぶん書き直すかも。



 かつて人類は世界の支配者だったらしい。宝石の絨毯を敷き詰め、空に色とりどりの絵を描き、月に行ってダンスをしていたとか。


 だが結局、支配者の座から転落した。なぜ落ちたかは知らない。だがそれが今の自分たち。昔々にあったといわれるおとぎ話。


 なんとまあ。


 「くだんねー」


 名はフイ。


 月のない夜なのにやけに明るい街の、その光が届かない薄暗い路地裏で、壁へもたれかかり、地面に座り込んでつぶやく青年の名はフイ。


 どこかを見るのでもなく、ただぼんやりとしていた。



 何かされた訳ではない。いつも通りにその日暮らしの労働をし、労働に見合った金をもらい、そのとき周りにいた人間に交じって流れで酒を飲んで、気分が乗らなくなったので抜け出して今に至る。


 別に酒が嫌いなわけではない。酒好きでもないが、この胸が嫌に空っぽなのに頭の中だけモヤが渦巻いている感じがどうにも我慢ならなかった。場の空気を乱したいわけでもなし。これでは馬鹿騒ぎすることもできない。


 こんな気分になったのも、飲んでる最中に出てきたおとぎ話が悪い。何が支配者だ。ほら話を真に受けて、すがって、さも今の自分たちも世界の支配者であるかのような口ぶり。


 「本当に支配者だったんなら、もっとましな落ちぶれ方をしろよ……」


 夜でも街が明るいのは妖精という名の空飛ぶ光の玉のおかげだ。(かつての支配者の遺産らしい)

 これらが光っているから夜も遊べるし、夜獣という恐ろしい怪物は街に入ることもなく此方を遠巻きに見るだけ。家畜が襲われる心配もしなくていい。


 だがそれもずっと光っているわけではない。郊外にある複数の採掘場には特殊な鉱石があり、それを精製したコクーという物質を食わせる必要がある。


 コクーを切らした街からは妖精が飛び立ち、空へ消え去る。


 絶対に切らしてはならない。金よりも、誰かの命よりも大事なコクー。


 妖精がいるこの街は仕事に困らず、夜獣に襲われる心配もない。治安もよく、食うにも困らず、『生きること』には何も困らない。


 妖精がいない、またはいなくなった街は多く、それらの場所では人は滅ぶまで毎日おびえながら暮らしている。


 ぼんやりしていると騒がしい声が聞こえてきた。いくつかの建物の屋上で楽しそうに酒を飲みながら街の外を指さしている。


「……今日もかよ」


 屋上の連中が何を見ているのかといえば、端的に言えば処刑だ。


 いくらこの街が周辺よりも栄えているとはいえ、そこまで余裕があるわけではない。皆が皆、また新たに滅んだ町の話を聞くたびに明日は我が身と嘆くのだ。


 ゆえに、その鬱憤の晴らし方が処刑。罪状は何だっていい。処刑というのは別に街の人間が手を下すわけではない。もっとおあつらえ向きな存在がいる。


 ――夜獣


 元はただの動物だったらしいが、ある日突然に肉食・草食関係なく生きとし生けるものすべてを捕食対象にしたのだという。

 昼にはどこかへ姿を消すが、夜にはごらんのとおり。生きている街の周りをずぅっとうろついている。あとはもうわかるだろう。


 

 突如、怒号の叫び声が降ってくる。


「いまだ!食い殺せ!」


「まだ死ぬなよ!今日の酒代かけてんだからな!」


 要するに、あえて夜に罪人を出すことが処刑。そしてその死にざまがこの街の数少ない娯楽なのだ。


「見せ物じゃねえんだぞ……」


 こんな場所に居続けても余計に気分が悪くなる。


 「あー、やだやだ。食われる心配のない場所なんてあるのかねえ」


 処刑場の反対側に足を進めていると、空できらりと、何かが光の筋を描いている。


「あれ、流れ星か…………いや、ちがう!」


 遠目からでもわかった。あれは妖精だ。いくらいい印象を持っていないとはいえ、奴らがいないと生きていけないのも事実。なぜ落ちているのかまでは知らないが。


「くそ!くそ!」


 この街の妖精の数は他都市とは比べものにならないほど多い。なら一匹程度死んでもいいだろう。


 そもそも自分が孤児になったのも、故郷がなくなったのも妖精がいなくなったからだというのに。


「……っはぁ、確か、このあたりか?」


 息を切らして、おそらく落下地点であろう水辺にたどり着く。住人どころか、水辺の管理をするやつらも全員処刑を観に行ったようで誰もいない。

 落ちた妖精の場所は見てすぐわかった。夜の暗闇の中、水中でひとつだけ灯りが揺れているからだ。


 水をざぶざぶとかき分けて妖精を救い上げる。気に食わず、あまり見ないようにしていたが、なるほど。こうやって間近で見るとクラゲのような見た目をしている。


「なんだ、クラゲならそのままでもよかったな」


 なんだか急に馬鹿らしくなって抱きかかえた妖精を水中に戻そうとする。だが……。


「おい、てめっ、離せコラ!」


 妖精の触手のような部位が腕に、体に巻き付いて離れない。無理に引っ張っても取れる気配がない。


 ――ぶっ壊してやる!


 その思いで思い切り拳を触手に向けて振り下ろすと、あろうことか、するりと避けた。

 そうなると当然、拳の行き先は決まってくるわけで。


「この、クソボケ……!」


 あまりの痛さにそう言うのが精いっぱいで、うずくまって苦痛に耐える。そうしている間に何故か妖精は背中に乗ったり髪を引っ張ったりとやりたい放題する。


 じろりとにらみつけてもどこ吹く風。そもそもこいつらは今までただ空中を揺蕩っては少量のコクーを捕食し、光っているだけの存在のはずだ。なのに目の前のこの妖精はどこか人間味があって、実にムカつく。


「おまえ、マジで目的は何なんだよ」


 期待していないとはいえ、質問に答えることも無く、ただぷわぷわ浮いている様は見ていて気が抜ける。


 いや、よく見ると街にいる妖精よりも光が強い。というよりは、中身が通常の倍以上大きいというべきか。


「なんだよ!もしかしてコクーの食い過ぎで飛べなくなったのか?」


 そうだとわかったらなんだか笑えてくる。フイは目の前の妖精が幼子のように思えて頭をガシガシと撫でてやると、妖精は手をつついて抗議のような動作をした。


 そのとき、街の中心部から歓声が響き渡った。


 とうとう罪人が食い殺されたのだろう。街の明かりが多くなり、花火を打ち上げる奴もいる。


「……化け物はどっちだよ」


 舌打ちをして水の中に座り込む。せっかくまぎれていた気もまた嫌な感じになり、隣の妖精を遠くへと押しやろうとする。


 すると押し出した腕を妖精がするりとつかみ取り、そのまま引っ張って何処かへ連れて行こうとした。


「は、なんだ!?」


 抵抗として振り払うが、グイグイと引っ張る姿についに観念してついて行く。


「いいけどよ、俺を騙して利用しようとしやがったらタダじゃおかねえぞ。」


 そう言うと、触手が2本動き、◯のマークを作る。


「……おい、なんで通じるんだよ。聞いたことねぇぞ」


 そうやって腕を引かれるままついて行くと、そこは街の外だった。



「は、な、んで…」


 時刻はまだ真夜中。外は夜獣の群れがひしめいており、先ほど処刑がなされたばかりだ。


 今でこそ夜獣どもはあの処刑場に屯っているが、いつこちらに気づいて来るかわからない。


「ふざけんな!ってめぇ!俺を餌にしようとしてんな!」


 必死になって外そうとするが、なすすべもなく引きずられて行く。助けを求めようにも、周囲に人の姿はない。処刑見物に街の連中が総出で出払っているからだ。


「なんで!こんなところで!」


 まあ妖精に暴力を振るった時点で街の奴らに見つかったら罪人になるが、少なくとも今すぐ死ぬのは回避できただろうに。


 とうとう。街の柵を越えてしまった。すると、途端に掴んだままのフイと一緒にフワリと空へ浮き上がる。


 フイはもう言葉が出てこずに、街を見下ろしながら呆然としていた。


 そして次の瞬間。


 街からワッと光が立ち昇った。幻想的な光景で、先ほどとは別の意味で言葉が出なかった。こんなに美しい景色は生まれて初めて見たからだ。

 だが同時に、それは街の終わりも意味していた。


 妖精の光が消えた街。散り散りになっていた黒い影が一つの群れとなり、街を飲み込んだ。

 黒い影が街を覆ったところから、街の光が消えて行く。


「は、マジ、かよ……」


 処刑を祭りとして楽しんでたあいつらに、いつか天罰が降りろと思ったことは一度や二度ではない。

 だが仮にこれが天罰だったとして、こんな死に方はしてほしくなかった。夜獣に食われるのが天罰なのは何か違うと思ったからだ。

 

 気がつけば、振り払おうと必死に振っていた腕が、縋るように妖精を抱きしめていた。


 他の妖精達はすでに空の彼方へと姿を消していた。

 今視界にある光はこの妖精のみ。なぜ助けてくれたのかがわからず不気味だったが、今はただ、揺蕩いながら耐えることしかできなかった。





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