表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
還光の月  作者: 卵掛 小保下
砂漠の墓標
10/13

9



 フイは施設内を見て回った。吹き抜けの砂だまり、手すりのちぎれた階段、天井の割れ目から見える底の様子。太陽が真上にある今のうちに、見ておけるところは全部見る。


 閉じた扉は手を触れず、覗ける隙間だけを覗く。施設の電源は生きているのに、非常灯だけが死んでいた。


 だが、さらに奥に行こうとなると、嫌な予感がする。夜獣の足跡だ。施設の至る所に、血を踏んだのであろう夜獣の足跡がある。奥に続く足跡はあれど、出てくる足跡が1つもない。


 ここから先は何も知らずに行くのは危険だ。施設の制御盤の返答を待つしかないだろう。

 

 施設の表層の確認を終え、さてどうしようか。

 フイは船の積載を思い出す。いまは荷を運べる。ならば——置いてきたものを取りに行く。


 施設を後にして向かった先、先日まで暮らしていた砂漠の町を見回す。

 前回は持ち運べずに諦めた物資が砂に半分埋もれて残っていた。


「おお!よーしよしよし!勿体ねえし俺が貰ってやるよ!」

 

 月日が経ったことで劣化したものは避け、使えそうなものをかき集めていく。


 そして前回は興味がなかったが、制御盤を見た今となってはなにかヒントがあるかもしれないと町のお偉いさんたちの家へ。

 

 敷居の高かった扉は外れて転がり、床の上では歩く度に砂が鳴る。以前もここに入ってはいたが、食料ぐらいしか興味がなく、確認しなかった部屋が多い。


 流れものどころか、町で生まれた人間さえ踏みつけにしてまで隠していたもの。捜索すると、二重壁の隙間にフイの身長より長い筒を発見する。


 蓋を抜くと、中身の紙は端から欠けており、文字もかすれて一部しか追えない。施設の設計図だろう。

 幸い、色と図は残っている。赤い線に青い矢印。太いのは配管だろうか……。

 

 かつてはこまめにチェックしていたようで、紙の裏には日付の数字がずらりと並んでいる。だが数十年も前に途中で止まっていた。誰も続けなかった。誰も学ばなかった。——自分さえ良ければよかったのだ。


 手に力が入り、紙がきしむ音を立てる。貴重な資料だ。ここに捨て置くのは忍びない。破れ目を避けるように丁寧に巻き直す。


「あー。こんぐらいか……」

 

 収穫はたくさんあった。食料や衣服、道具。そして施設の設計図。それらを詰め込んだ箱を抱え、何度も往復して船腹へ押し込む。



 最後の箱を積み上げ、息を吐く。空の色が変わりはじめている。もうすぐで四時間たつ。そろそろ計算も終わっている頃だ。ここからは時間の勝負だ。


 日干ししていたクラゲを、落とさないよう服の中へしっかり仕舞い込む。


「よし、行くぞクラゲ!」


 フイは走る。妖精分の重さが増えたはずなのに不思議と体は軽かった。


 施設の中央、精製場の制御盤前に行くと、ちょうど計算が終わったところだった。


「どれどれ……」


 ――これは


 ほぼ崩壊していると言っても過言ではないこの工場だが、それでも現状を正しく把握してマップが作られていた。どうやら船の声よりも、施設の声のほうが調査性能が優秀らしい。目的地までの最速ルートも表示されていて、ただ到着するだけなら何の問題もない。


 まずいのが、内部に潜む夜獣について。崩落に巻き込まれて、地上に出ることもできずに施設内を彷徨いているという。その数は三頭。


《お持ちのリングを、登録…れば、移動中もナビゲートできま…。登録を…ますか?》


「何だよ、リングって。そんなんがあんのかよ。知るわけねえだろ」


 そんな便利なもの初めて聞いた。精製を担当していた連中は持っていたかもしれないが、大多数の奴は今のフイみたいに何も知らないだろう。


「施設もボロボロ、直した形跡もねえ。マジで偉そーにする割には何もしてなかったのな」


 悪態をつくが、どうしようもない。


 地図と夜獣の存在、種類を頭に叩き込むと、フイはその場をすぐに走り出した。


 中に入れば走れなくなる場面が出てくる。ならば。


「数秒ぐらい、縮めねえとな」


 ちょっとしたことの積み重ねが大事だと昔聞いたことがある。あれは兄貴からだったか。

 

――あの時は馬鹿にしてごめん。俺、少しだけ兄貴の背中に追いつけた気がする。


 フイは暗闇の中、底へ行くための扉に手をかける。

 金属の扉が酷く軋み、フイの体に鳥肌を立てた。この音は内部の夜獣に届くかもしれない。……いや、確実に届いた。


「俺を散々虐げてくれてありがとよ。これで恨みはチャラにしてやるさ」


 碌な飯をフイには食わせなかった大人達はみんな立派な体格をしていた。一方で、栄養が摂れなかったフイの体はとても貧相だ。だからフイは制御盤が差し示した道――天井にある剥き出しの配管に登り、その上を進む事ができる。


 フイはチラリと下を見た。その先、地下の床に、折れて遥か下に落ちたであろう配管と血痕が、立派な体格の末路を物語っていた。


 あってはならない事だが、逃げ惑いながら食われるなんて嫌だ。自分は抗いたい。

 そのちっぽけな自尊心を守る手段。これだけが唯一の抵抗手段だ。物資を探す際に見つけた手頃な工具を手に持ち、深呼吸する。


 心臓は今にも破裂しそうで、鼓動のせいで周りの音が聞こえにくくなるように思えて不快に感じる。

 ならばと、体だけは音を立てないよう、しかし素早く足を動かす。

 

 フイはクラゲと共に暗闇へ向かうのであった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ