第2話 地下の反逆者達
「こんなところに拠点が……」
ノクティスへの加入をドグマに認められた後、カイルはノクティスの本拠地に案内されていた。
地下へと続く長い石段を降りきった瞬間、湿り気を帯びた空気がカイルの頬を撫でた。
狭い通路の先に広がっていたのは、聖教会の荘厳な大聖堂とは正反対の光景だった。
粗末な石壁には苔が張り付き、天井から滴る水滴が一定のリズムで床を打っている。
中央の広間には粗末な机や椅子が並び、兵たちが地図を広げて作戦を話している。
大聖堂の白い大理石よりも、この陰鬱な石壁の方が、人の温度を感じる。カイルはふとそんな感想を抱き、口元に柔らかな笑みを浮かべた。
肩の上でユユが小さく息を吐く。
「湿っぽいし狭っ苦しいし、オレは大嫌いだな。……でもまあ、居心地は悪くねぇか。」
先を行くドグマは振り返らず、豪快に笑う。
「お前の新しい居場所だ、カイル。まぁ、気に入るかは保証しねぇがな。おい、新入りを紹介するぞ!」
ドグマの掛け声に、話し合いをしていたノクティスのメンバー達が振り返った。彼らの視線が一斉にカイルへ突き刺さる。
最初に口を開いたのは、長い金髪を揺らす女、イレーネだった。赤色の瞳が冷たく光り、カイルを射抜く。
「ドグマから知らせを受けているわ。あなたが教会から寝返った籠絡士?」
皮肉を含んだ声だった。
「よくここに入る気になったわね。裏切り者の匂いがまだ残ってるわ。」
「……残ってるかもしれないね。」
カイルは微笑んで返す。
「でも、俺は教会を壊すためにここに来た。きっと君は俺が言葉で何を言っても否定するだろう。だから俺はそれを行動で示していくつもりだよ。」
イレーネの眉がわずかに動いた。
「……ふん。せいぜい励むことね。」
次に前へ出たのは、赤毛を振り乱した剣士、ライネル。炎を宿す剣を腰に下げ、目を剥いてカイルを睨みつける。その目の奥には警戒心と、妙な敵意が宿っていた。
「……なんだよその顔立ち。イケメンじゃねぇか……!」
小さく毒づき、剣の柄を握りしめる。
「絶対モテるタイプだろ……気に食わねぇ!」
「モテるかどうかは分からないけど、君とは仲良くしたいと思ってるよ。」
カイルの言葉にライネルの目が一瞬丸くなる。次の瞬間、ぶつぶつ呟き始めた。
「……ま、まぁ……悪い奴じゃねぇのかもな。うん。いやでもムカつくけどな……」
ライネルの横で、一人の眼鏡をかけた少女が小さく顔を上げた。灰色がかった青色の髪と同じ色の瞳を持つ少女、ノア。
カイルと視線が合った瞬間、ノアの頬が一気に朱に染まった。
(……っ、か、かっこいい……! 優しそう……!)
ノアの心臓が早鐘を打ち、口が開きかけては閉じる。
「……ぁ、あの、わ、わた……よろ……」
ノアの声は小鳥のさえずりほどか細く、最後まで言葉にならなかった。
「よろしく、ノア。」
カイルが微笑むと、ノアはさらに真っ赤になって俯き、資料を抱え込むように縮こまった。
(やだ……挨拶もできなかった……嫌われたかな……)
沈黙を破るように、ドグマが大声で笑った。
「ガハハッ! いいじゃねぇか! こいつがどんなもんか、これから見りゃ分かる! 少なくとも、俺は気に入ったぜ!」
ドグマが笑う中、イレーネの視線は冷たく、ライネルは複雑な顔で、ノアは俯いたまま真っ赤になっていた。
カイルはいつもの穏やかな笑顔を浮かべ、全員を見渡した。
「……改めて、俺はカイル。教会に大切な人を奪われた一人だ。これからは、ここで共に戦わせてもらうよ。」
警戒、興味、恐怖、期待、様々な感情が向けられているのをカイルは感じる。
「……なんだよここ戦場か?初日からこれじゃ先が思いやられるな。」
カイルの肩の上のユユが尻尾を揺らし、ぼそっと呟いた。




