5
3-A シノブ 千両
2-A 平 聖頑宮
1-A サクマヒメ ウラララ‼ 佐々木
「転校生が来たぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
御供先生が手を招くと、一人の男子生徒が教室に足を踏み入れる。紫系の髪をツンツンに逆立てている中肉中背の少年だ。
「まぼ……だい……です……」
「何⁉」
転校生は皆に伝わらなかったようなので、黒板に書く。しかし
「薄い‼ 読めん‼」
辛うじて糸と口と人と士だけ見えた。糸口人士くんだろうか。
「みんな、ぜってえ仲良くしてくれよな‼」
「いや、御供先生。全く伝わりませんよ」
「オラとクリリンみたいな」
「友情の熱量ではなく」
平は御供先生に耳打ちする。
「ああ、なあんだ! そういうことか!」
「早く教えて下さいよ」
「イモガイだ!」
「いや、ガイモイの由来なんて聞いてませんよ!」
「違ったぞ平!」
次は聖頑宮さんが御供先生に耳打ちする。
「実は原作ではピラフんとこまでなんだ」
「いや、おちんちん出していた時期っていつでしたっけ? とか重度の悟空ファン以外興味ないですよ!」
「12歳までで15歳になったら出してないんだ」
「いや鳥山先生の絶妙な配慮は今どうでもいいですよ!」
「じゃ、嬉野大喜くん、席に着いてくれ」
「それを聞きたかったんだよ!」
「幻野大地です……」
「違うじゃねえか!」
転校生の名前は幻野大地だった。御供先生と生徒達の漫才は摩訶不思議に限界突破していく。
「俺は平京崩! よろしく!」
「タイラ……ケイホー……」
「私は聖頑宮槍子です!」
「セイガングウ……ヤリ……う」
幻野くんは頭を押さえる。
「幻野くん⁉ 大丈夫か⁉」
「ああ、すまない。ただ『ヤリ』という言葉が」
「ヤリ? ヤリたいんですか?」
聖頑宮さんは制服を脱ぎ出すが、
「いや、違うんだ。ラ、ランス?」
「ああ、そっちか」
つまり『槍』を想起したのか。しかし何故『槍』に反応したのだろうか。前世は石神村で門番でもしていたのだろうか。
「ドクターストーン好きなの?」
「ストーン……石化……う」
槍に続き『石化』にも反応してしまう。一体彼は過去に何があったのだろうか。
「君、記憶が」
「ああ、実はそうなんだ」
「じゃあちょい付いて来てくれ」
「?」
平は幻野くんを連れ、保健室へ向かう。
「記憶を戻す方法だとお? いや、無理だろ」
「そこを何とか」
貴央先生は指を三本立てる。
「三十万⁉」
「アホ。生徒からそんなに取れるか」
「じゃありんご三個?」
「それはさすがに安すぎるだろ。そこの幻野くんに三つ質問させろ」
「ああ、そういう」
「まず一つ。どんな女性が好みだ?」
いや、どこかで見た遣り取りだ。
「バーバラ?」
「成る程。では二つ。ドランゴというモンスターに心当たりは?」
「ドランゴは……友達……」
「うん、大体分かった。恐らく彼はドラクエ6の主人公だ。ドランゴに会わせれば何か起こるかもしれない。平、ドランゴは?」
「ああ、サクマヒメファームにいるよ。ウラララ‼ ん家の」
「今すぐ連れて来てくれ。御供先生には私が言っておく」
「はい‼」
平は保健室を飛び出す。
「さて、幻野くん」
「はい……」
「大人の女性は好みかな?」
「え……」
「ふふ、存分に可愛がってやろう」
「あ……」
幻野くんは貴央先生の魔手に襲われる。早く来てくれ、平‼
「サクマヒメ‼ ウラララ‼ ‼」
「平先輩⁉」
「今からウラララ‼ ん家に行くぞ‼」
「え?」
「事情は後で話す‼ 早く行こう‼」
「は、はい。サクマヒメちゃん!」
「んえ~、おお、平先輩!」
サクマヒメは寝ていた。平は二人を連れ春麗邸へ向かう。
しかし、そこまで急ぐような話でもない気がする。
「ジヌシィ‼」
「おお、平じゃないか!」
「ドランゴは?」
「いるよ。おーい、ラナー!」
「貴央先生! ドランゴ連れて来ました!」
「ん? おお、来たぞ幻野くん」
「ドラ、ンゴ?」
いや、そんなフレ、ンダみたいな。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ‼」
幻野くんは急に発狂する。いや、そんな夜神月みたいな。
「計画通り」
「いや、どういう計画だよ」
「暗闇の五月計画」
「いや、どういう計画だよ」
「人類補完計画」
「いや、どういう計画だよ」
しかし、どうやらドランゴにより
幻野くんの記憶は戻ったようだ。
「ありがとう、みんな」
「いや、誰も祝福してなかったけどね」
「父にありがとう」
「誰だよ‼」
「母にさようなら」
「何があったんだよ‼」
「そして全ての勇者に」
「勇者だったのかよ!」
「おめでとう」
「全く刺さらない演出だな!」
「ねえ平くん、サッカーに大切なものって何だと思う?」
「あれだろ。友情、努力、勝利だろ?」
「惜しい! 視力とIQだよ」
「いや、掠りもしねえじゃねえか」
シノブの天然に平は辟易する。
原京平 50 50000
サカ神シノブ 30 30000
平京崩 20 20000
サクマヒメ 18 18000
ウラララ‼ 16 16000
千両勘吉 14 14000
佐々木貴志 12 12000
「いや何の数字だよ!」
「視力とIQだよ?」
「全くピンと来ねえよ! 化物かよ!」
「確かに原さんヤバいよね」
「お前も俺もやべえよ! 佐々木くんまで漏れなくやべえよ!」
「まあねえ」
「何が⁉」
「まあ私サッカーの神様だからねえ」
「確かにこの数字なら神様だけど。お前そんな賢いの?」
「私の好きな漫画ワンアウツとライヤーゲームだからね」
「ワンナウツとライアーゲームな」
「甲斐谷透作品には名作が多いからね」
「透じゃなく忍な。何でシノブがシノブで間違うんだよ」
「まあ私の賢さ表現はこれくらいにして、窓から外を見て」
ちなみにここは図書館で、ここから見えるのは
「反対校舎?」
「うん、そこからほぼ全クラスがショートケーキの断面図みたいに見えるでしょ?」
「見えるが、譬えが独特だな。うお!」
平の視界に何か見てはいけない肌色のモザイクのようなものが飛び込んだ。
「これ、犯罪にならねえ? 俺、捕まらねえ?」
「いや、まあ生徒が窓から外見てるだけだし、いくらでも言い逃れできるよ」
「言い逃れって。まあそうか」
「平くん、私は君を変態の道に引きずり込もうとしている訳ではなく」
「違うのか⁉」
「視力訓練の一環だよ。私達は基本視力高いけど、人間だから使わないと衰えるんだ」
「俺達妖怪人間だろ⁉」
「早くアニメになりたい!」
「無理だろ! 無理、無駄、邪魔!」
「ベム、ベラ、ベロみたいに言わないで!」
「ベムビーム!」
「ベムにそんな必殺技ないから!」
「ベムって、ベムって」
「君って、君ってみたいに! フリーター、家を買う。は今全く関係ないでしょ!」
「いや、妖怪人間ベムのドラマやってたの大体その時期じゃん。亀梨は嵐と仲良いし」
「いや、それ加味しても関連性薄くない?」
「薄目にすると見えるんだよな。見えないはずのものが」
「城之内くん⁉ 友情、あ」
「伏線回収」
「いや、努力、勝利は?」
「あ」
そして平とシノブは視力を上げる努力をし、勝利へと突き進むのだった。いや、まあ無理矢理な気もするが。
「幻野くんは私の左乳房と右乳房ならどっちが好きだ?」
「左……」
「じゃあ左乳首と右乳首なら?」
「左……」
「適当に答えていないか⁉」
やる気のない幻野くんに貴央先生は嘆息する。まあ貴央先生がヤる気マンマンすぎる気もするが。一応は教師と生徒なのだから、ある程度の節度は必要かもしれない。と貴央先生
は心中で自身を諫める。と、そこで
「幻野くん‼」
とサクマヒメが保健室に駆け込んできた。
「放課後になったからグラウンドへ行こう‼ サッカー部じゃあああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
「おいおい、幻野くんは保健委員だぞ」
「保健委員は部活じゃないんじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
「いや、私の助手だぞ‼」
「何の⁉」
「え、モンスターズ?」
「その役はワシで足りていないか?」
「いや、ゲームボーイ三台あるし……」
「ああ、ワシ、貴央先生、幻野くんか!」
「そういうことだ!」
よく分からない理屈でサクマヒメは丸め込まされる。コントロールしやすい田舎娘だ。重宝するぜ。と貴央先生は心中でほくそ笑む。
「僕、サッカーやりたいです。グラウンドへ行きましょう、サクマヒメさん」
「うん、行こう、幻野くん!」
「えー、じゃあ私も行こうかなー」
「何で貴央先生が⁉」
「いや、サッカー部の顧問だし」
「そんな設定あったか⁉」
「今生えた」
「生やすな!」
新設定を生やした貴央先生にサクマヒメは呆れる。しかし、まあその他の教師キャラといったら御供先生くらいしかいないため、別に貴央先生が顧問でも特に問題はないか。
「サッカーって球を蹴り合って目的地へ到着させる、桃太郎電鉄みたいなゲームだろ?」
理解がサーロイン・フルバーストと同じレベルだが、そのネタを理解できるのは作者と読者の君達だけだ。
「まあ、大体そんな感じじゃな」
サクマヒメもよく分かっていないため、大体合っているように思えてしまう。しかし、貴央先生はテレビゲームが好きなようだ。そして知識が古い。平成中期止まりだ。
「よおし、私と幻野くんがサッカー部に入れば、もう最強じゃないか! 無双しよう無双! 甲子園行くぞ!」
「いや、甲子園は野球じゃ」
「ああ、インターハイ? 全国大会? よく分からんが、まあ取り敢えず雑魚共を蹴散らして最強目指そうぜ☆★ という話さ♨♨」
しかし、貴央先生が顧問でさらに新入部員幻野くんが加入というのは、確かに大幅な戦力増強といえる。もしかしたら、ここから一気に練習試合や大会編が勃発するかもしれない。基本的にサザエさんのような一年ループ的な進行状態ではあったが。しかし、季節的なネタは特になかったため、何となく春か夏くらいかな? と大分ぼんやりとさせていたが。
「やるんなら全国制覇っしょ! 日本代表っしょ!」
「いや、何でそのネタ分かるんじゃ⁉」
「ああ、ブルーロック観たから大体サッカーのことは任せてくれ」
「いや、ブルーロック観た程度でサッカー分かるとか言われても!」
「ブルーロックを舐めるな!」
「貴央先生が舐めてるんじゃ! サッカーを!」
「つまり幻野くんの玉を足で……」
「何を言っとるんじゃ⁉」
貴央先生の性欲がスパーキングしてしまったため、サクマヒメは狼狽する。しかし、幻野くんは話を聞いているのか? と思うくらい涼しげな顔で、窓から入ってきたトンボの目を指で器用に回していた。この指捌きから、恐らく得意なポジションは
「いや~、楽しみじゃのう。幻野くん」
「はい!」
サクマヒメと幻野くんとほらげっちゅーげっちゅーにーゆーにーゆー
「待ってー!」
カードキャプター貴央も付いてくる。この三人でグラウンドへ足を踏み入れると
「何しとるんじゃあああああああああああああああああああああああああああ‼」
サクマヒメの目に、そう叫ぶしかないような惨状が広がっていた。
そう、千両くんが蹴った球を
誰か分からない少年が軽々と
「これがパンチングか」
などと素人丸出しの言葉と共に
難なく防いでいたのだ。
「くそ、何だよこいつ」
千両くんも何発撃ったのか分からないが
疲労で今にも倒れそうだ。
単純に体力だけではなく、
精神力も大幅に消耗したようだ。
「千両くん!」
「サクマヒメ! こいつやべえぞ!」
「俺の名は枷格子牢。最低最悪のGKさ」
「GKはウラララ‼ で間に合ってるんじゃ」
「じゃあそのウラララ‼ さんは今日から性欲処理係だ」
枷という男はニヒルに口角を上げる。格好良いようで格好悪い台詞の応酬だ。枷くんは中二病なのだろうか。
「俺は枷。中二だ」
「見れば分かる!」
「いや、見た目で学年まで分からんだろ」
「え、あ」
「あ、え」
サクマヒメはああそっちかと気付き、
枷くんはええそういう意味だったのと勘付く。
「いや、まあ、そんなのはどうでもいい。それより、千両、出せよ。金の玉」
「あ、ああ」
千両はズボンの中から金の玉を出す。金のお年玉を。つまり小遣いを。
「金を賭けとったんか!」
「ああ、俺が防げば俺に100円入り、千両が決めれば俺が千両に1000円渡す」
「ワンナウツ契約のスモールバージョン⁉」
「はい、2700円」
「27回も防がれている‼」
「いや、次こそはイケそうって思うんだけど、なかなか難しいな」
「UFOキャッチャーやる人の心理じゃないか!」
アホな千両にサクマヒメは呆れる。そこで枷くんは
「アンタらもやるか?」
サクマヒメは基本パサーであり、千両ほどシュートは上手くない。貴央先生は逆上がりすらろくに出来ないレベルだ。そして幻野くんは
「僕、やりたいです」
「幻野くん⁉ 自信があるのか⁉」
「いや、ないですけど。何となくここは退いてはいけない気がして。勇者として」
幻野くんの勇気が燃え上がる。
幻野くんはシュートポジションに着く。
PKとフリーキックの中間くらいの位置だ。
ここで千両は攻めあぐねていた。
「幻野くん頑張れー」
と応援する貴央先生だが
しかしサッカー初心者であるはずの幻野くんに
サッカー熟練者の千両ですら奪えなかったゴールが
奪えるのだろうか。
しかし幻野くんは緊張している様子もなく
涼し気な表情でゴールを見据える。
「来いよ、幻野くん」
「行きます、枷さん」
サクマヒメは固唾を吞む。
貴央先生は手を重ね祈る。
千両くんは静かに見守る。
三者三様のギャラリーに見届けられ
幻野くんの闘志は燃え盛る。
炎。というよりは雷だ。電流のようなものが迸る。
そこで枷は何か不穏な気配を感じ取る。
幻野くんは少しボールから離れて助走を付ける。
そしてインパクトの瞬間
「ライデイン砲‼」
という必殺技名と共に
纏っていた電流がボールに伝播する。
ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼
と雷鳴のような轟音と共にボールが凄まじい勢いで
ゴール目掛けて飛来していくがしかし
「ど真ん中だぜ‼ 捕れる‼」
「どうかな?」
珍しく強気な幻野くんだが
その威勢は虚勢ではなく
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉」
枷はシュートラインを確実に捉えており
ボールも手元に収めたものの
全身に電流が流れる衝撃で両手が痺れてしまい
「がああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
堪らず、というよりも無意識的にボールを離してしまい
後ろに零れたボールはゴールラインを
「僕の勝ちだ、枷くん」
割る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
ギャラリーは歓声を上げる。
「さすが私の推し!」
「俺の1000円をありがとう‼」
「勇者爆誕なんじゃあああああああああああああああああああああああああ‼」
三人は幻野くんの下へ駆け寄る。
「ライデイン砲って、何だよ。くそ、かっけえな」
枷くんは悪態を吐きつつ、曲がりなりに褒める。
「ああ、いや、君も凄かったよ、枷くん。一緒に」
「誰がお前らなんかと」
枷くんは余程悔しかったのか、いじけて帰ってしまう。
「僕、余計なことしましたかね?」
「いや、幻野くんは悪くない。アイツも思春期だからな。色々悩んでいるのだろう。アイツが本当にサッカー好きなら」
きっと戻って来るだろう。
「ふう、漏る漏る。ん?」
平が男子トイレの小便器で用を足していたら、隣に
サクマヒメがいた。彼女もまた同様に小便をしている。
「いや、お前女子だろ‼」
「ん?」
サクマヒメはよく分かっていない様子で
そのままトイレを出てしまった。
「いや、手を洗えよ‼」
「一不思議だ」
「え?」
「牛尾中学校の一不思議だ」
「不思議な単位ですね」
2-Aで聖頑宮さんは平の不思議な話を聞かされていた。
「いやでも、サクマヒメちゃんって普通に女の子のはずですが」
「いやでも、生えてたんだよ」
「んー、じゃあ本人から確認取りますか?」
平と聖頑宮は1-Aへ向かう。
「はあ? てか、ワシは一年じゃぞ? 二年のトイレ使う訳ないじゃろ」
「いや、そりゃあお前が同級生にバレたくないとか」
「いや、仮にそうだとしても二年にもバレたくはないがな」
「まあそりゃあまあそうか」
サクマヒメの理論には説得性があり、嘘を吐いているような素振りもない。
平が見た幻想だったのだろうか。だとしたらめちゃくちゃ情けないな、と平は自戒する。
「あれじゃな。ゲンガーかもしれん」
「ゲンガー?」
「ほれ、世界には似た奴が二人三人はいるという」
ドッペルゲンガーのことだろうか。確か三人見たら死ぬとかよく言われているな。
「まあワシは割とよくいるタイプの美少女じゃから、気にしなくていいと思うぞ」
いや、全くよくいるタイプではない気がする。美少女か否かは疑問だが。
しかし平もこういうことを深く考えるのは苦手なため、そろそろ思考を切り替える。
「ありがとう、サクマヒメ。戻ろうか、聖頑宮さん」
「あ、今一年の子に弄ばれているので、お先に」
「ああ、うん」
聖頑宮さんは相変わらずサービスが良すぎる。その中に佐々木くんが紛れているのを確認してから、平は自身の教室へ戻る。
LFW サカ神シノブ
RFW 平京崩
CMF サクマヒメ
LMF 千両勘吉
RMF 幻野大地
CDF 佐々木貴志
LDF 羽葉堂綾乃
RDF 七瀬虹子
GK1 春麗ウラララ‼
GK2 枷格子牢
「タイラーインパクト‼」
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああ‼」
タイラーインパクトを受け、枷くんは吹っ飛ばされる。
ゴールネットに巻き込まされ、平は手を貸す。
平の手を引っ張り、枷くんはすっくと立ち上がる。
「今の何割くらいすか?」
「二、三割かな」
「うわー、マジかー」
落胆する枷くんだが、
「ああでも、大分筋良いよ。ウラララ‼ がここまで来るには大分時間掛かったから」
「やっぱ今の時点だと」
「ああ。ウラララ‼ のが上だな」
「マジかー」
落胆する枷くんだが、その目は闘志に燃えている。
こういうタイプは伸びる、と平は枷くんを再評価する。
「こんな休み時間の、じゃなくて、ちゃんと部活来いよ」
「あ、はい」
意外と素直な枷くんに、平は少し安心する。
ホイッスルの不破大地のようなタイプかと勘繰っていたからだ。
「君は取り敢えず第二キーパーだ」
「はい」
「君は男子だし、お嬢様気質のウラララ‼ よりはポテンシャルがあるはずなんだ」
「はい」
「つまり第一と第二に大した違いはないから、いつでも出番があると思っていてくれ」
「は、はい! ありがとうございます!」
本当に素直だな、と平は再び安堵する。
「しかし、幻野くんってそんな凄かったの?」
「はい。ライデイン砲なる必殺技が。全身痺れてきつかったっす」
ライデイン砲。何か
「あ、タイラーインパクトのが重くてきついっす!」
「いや、無理に持ち上げてくれなくても」
「無理じゃないっす!」
枷くんはこんな舎弟キャラでいいのだろうか。一応は同級生だというのに。
「あー、平くん! 枷くんと一緒だ!」
「シノブ先輩‼」
シノブが近寄ってくると、枷くんのテンションが爆上がる。
何というか、枷くんは案外
「おう、よしよし」
「へっへっ」
枷くんはシノブに頭を撫でられる。
「いや、犬かよ‼」
「シノブ先輩の左腕になりたい」
「トトかよ‼ 気持ち悪い願望だな‼」
「いやあ、腹痛え」
平はサクマヒメのサクマチップスに当たり、
腹を抱えてトイレの個室へ向かう。
「おお、そこの者!」
「ん?」
「すまんが、そっちに紙あるか?」
「あるけど」
「分けてくれんか?」
「ああ、予備が一個あったからそっちに渡すよ」
「かたじけない」
平は隣の個室にトイレットペーパーを投げ
ようとしたが少し留まる。
「お前って二年何組?」
「Bじゃな」
2-B。ニーアオートマタの女主人公のようだが、それは今関係ない。
「お前って妹とかいる?」
「おお、いるぞ。可愛い奴がな」
「俺サッカー部なんだけど」
「奇遇じゃな。妹もそうじゃ」
何か少しずつ裏が取れてきた。
サクマヒメの兄貴か?
同じクラスならともかく、
B組の生徒までは全把握していない。
しかし、それなら何故サクマヒメは
前に聞いた時に兄貴がいることを隠していたのだろうか。
隠すようなことではないだろうし
隠すようなキャラクターではないだろう。
「なあ、そろそろトイレットペーパーをくれんか?
お尻がカピカピになってしまう」
「ああ、悪い」
平はさすがに悪いと思い、
素直にトイレットペーパーを投げ渡す。
「ありがとうな! 後でお尻を舐めさせてやるぞ!」
「いや、どんなご褒美だよ!」
こういう遣り取りが自然に出来るのも
彼がサクマヒメの兄貴だからだろう。
「お主、名前は?」
「ん? 平京崩」
「ワシはサツマヒメじゃ! よろしくな平くん!」
「ああ!」
もうこの名前なら確定といっていいだろう。
ほぼ確実にサクマヒメの兄貴だ。
3-A シノブ 千両
2-A 平 聖頑宮 B サツマヒメ 枷
1-A サクマヒメ ウラララ‼ 佐々木
CFW サツマヒメ
LFW サカ神シノブ
RFW 平京崩
CMF サクマヒメ
LMF 千両勘吉
RMF 幻野大地
CDF 佐々木貴志
LDF 羽葉堂綾乃
RDF 七瀬虹子
GK1 春麗ウラララ‼
GK2 枷格子牢
ズリネ田くんはOBであり、サッカー部には所属しておりません。
「よお、サクマヒメ。久し振りだな」
「お兄ちゃん⁉ うわあああああああああああああああああああああああああ‼ まるで夢みたいなああああああああああああああああああああああ、愛情のガトリングうううううううううううううううううううううう‼」
「大袈裟だな、うお」
サクマヒメは嬉しさ余ってサツマヒメに抱き着く。
「はは、可愛いなあ。お前は」
「うううう、寂しかったんじゃああああ」
「悪かったな。もう離れない」
佐久間兄妹の再会を目の当たりにして、
「いやあ、ガチで泣けるわ」
「お前こういうの弱いよな」
意外と涙腺が脆いシノブを平は冷静に分析する。
しかし、平もなかなか熱い男であるため、全く響かない訳でもない。
しかし、佐久間兄妹の場合は何となくギャグみたいに見えてしまう。
いや、それは彼らに失礼かもしれないが。
「選抜どうじゃったんじゃ? 勝ったか?」
「ああ、いやレベル高かったな。俺より上の奴なんてゴロゴロいたよ」
「そ、そんな」
「でも、そのお陰で大分レベルアップできた。
これからはこの中学でサッカー部を強くしたいんだ」
「お兄ちゃんが入れば最強なんじゃ‼」
こうして選抜帰りの最強のFWが合流したことにより
牛尾中学校サッカー部は大幅にパワーアップするのだった。
「やあやあ、おめでとう。才能の原石共」
2-Aに眼鏡を掛けたおかっぱ頭の青年が入ってきた。
不思議とどこかで見たような気がする。
「俺はこのピンクルームで、お前ら30人の中から
一人の変態を産み出す実験をする」
どういう実験だろうか。
聖頑宮さんの一人相撲ではないか。
聖頑宮槍子 1位
平京崩 29位
イガラシ 30位
「俺最下位かよ! 寺継ぎたくねえよ!」
よく分からんが継げよ。
「平くん、分からないことは私に聞いて下さい‼」
聖頑宮さんは1位になって調子に乗る。
腹が立つので少し乳房を揉む。
「え、ちょ、平くん!」
「そのエロが欲しかった、平京崩‼」
聖頑宮槍子 1位
平京崩 2位
イガラシ 30位
「はあ⁉ 平、お前もかよ‼」
早くも仲間意識を抱いていたイガラシを突き放した。
嬉しいような嬉しくないような。
いや、絶対に喜ぶようなことではない。
「ふふ、一位と二位の壁は厚いですよ」
「まあ、それは確かにそうだと思う」
「ネオエゴ終了時の凛と潔くらいの差だな」
つまり、そこまでの開きはないようだ。
聖頑宮槍子 3億
平京崩 2億5000万
イガラシ 500万
何か早くも年俸が付いてしまった。
何でサッカーと関係ないようなところで
ただの生徒に年俸が付くのだろうか。
イガラシは泣く。お前の情緒はどうなっているのだろうか。
「てか、俺と聖頑宮さん結構開いてね?」
「俺を足せば追い付けるな!」
イガラシは感情がバグり、単純な足し算すら出来なくなってしまった。
「ピンクルームの魔王です♡♡」
聖頑宮さんは調子に乗る。
「お前が水をあげすぎたんだ」
「誰に⁉」
「サッカー辞めんな‼」
「誰に言ってんの⁉」
そして柳の目に
エロの炎が燃え上がる。
「いや、誰なんだよ‼」