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 フィギュアスケート。多くの人を熱狂させる競技。

「フィギュア女王‼ 織田信良‼」

 そんな競技で女王と称される織田信良。彼女の電撃引退から物語は変化を見せる。


「で、ウチに来たと」

 というのは、UFCというフィギュリップクラブのコーチ、東三条悟さんだ。五条ではない。断じて五条ではない。東三条だ。三条でもない。三条の東だ。

「はい、『フィギュリップ』なら……」

「正解だ。減点ではなく加点だからな」

 フィギュアスケートが減点方式なのに対し、フィギュリップは加点方式。そして、フィギュリップとは何か、何故加点だと都合が良いのか、小説版だからきちんと説明しておこう。まず、フィギュリップとはフィギュアスケートとストリップショーを掛け合わせた新競技だ。要は脱ぐフィギュアであり、要は滑るストリップ。そして、加点だと都合が良い理由は、

「私のアクセル・ワールドは、失敗前提の技だから」

 そう、アクセル・ワールドという信良が編み出したアクセル技術は、確かに強い効果を発揮するが、反面成功率が低い。

「だがフィギュリップなら、エロければ加点される」

「はい。だから来ました」

「うん。お前はF型だな」

「いえ、Oですけど……」

「いや、血液ではなく」

「あ、M寄りかもです♡」

「性癖でもなく」

 F型とS型。フィギュア型とストリップ型だ。元フィギュアスケーターでアクセル・ワールドを持つ信良は、まさにF型の極致といえるだろう。極Fだ。氷織みたいになった。アイスだけに。

「そしてウチのS型には……」

「織田信良選手⁉」

 金髪ショートで巨乳の全裸の女性が、高い声を出し嬉々として二人の傍に寄る。

「そう、こいつだ。明智光月」

「まさか貴女ほどの方がフィギュリップなんて……」

「えへへー、よろしくー」

「よろしくしたいとこですが、一度戦ってみて貰えますか? もし貴女がフィギュリップを軽んじてこんなとこに天下りしてきた性悪なら……」

 一拍置く。この一拍が怖い。

「殺します♥」


「ギュリトルで行くか。二人共リンクに上がれ」

 悟に言われるがまま、信良と光月はリンクに上がる。

「服を剥ぐだけなのだから、スケート技術は関係ありませんよ」

「それはどうかな? スピードはスケーターの命だよ」

 光月の考えを浅いと信良は切り捨てる。果たしてこの勝負、一体どちらに軍配が上がるのだろうか。ちなみにギュリトルとは、フィギュリップバトルの略称だ。ロボットバトル略してロボトルみたいなイメージだ。

「出し惜しみはしない。一撃で終わらせる」

 信良は高い跳躍と共に、全く見切れない速度での回転を始めた。回転により浮力が生まれ、地獄のような滞空時間が光月を蝕む。光月の衣服は一気に剥がれていく。ギュリトルとは、相手の衣服を剥ぐことが勝利条件とされる。ゆえにこの勝負は

「信良の勝ち。と言いたいとこだが、引き分けか」

 信良の衣服も同時に吹き飛んだ。ゆえにこの勝負は引き分けということになる。はずだったが、

「引き分けかあ……」

「いや信良、案外お前の負けかもな」

「え?」

「光月を見てみろ」

 信良が光月の方を向くと、その様子に驚愕した。頬を紅潮させ、涙を湛え、軽く失禁している。

「恥じらい。失態。これらはフィギュリッパーにとっては加点対象だ。しかし、信良のアクセル・ワールドも見事だった。本来はFP100の信良の勝ちだが、SPを加味すると光月は恐らく120といったところか。ゆえに光月の辛勝ということにしておくか」

「アクセル・ワールドを成功させても勝てない……⁉」

「これがフィギュリップだ、信良。百の技を成功させようと、一のエロに敵わないこともある」

「分かりました、私はエロくなります」

 光月に負けた信良は、悟に諭されさらに精進することを誓うのだった。最強のフィギュリッパーになるために。フィギュアスケートを辞めたのは間違いではなかったと証明するために。フィギュアスケーター織田信良はもう要らない。ファイヤーフィギュリッパー織田信良の快進撃が始まる。氷を解かして出てくるのは、巨人か、恐竜か。ハチャメチャが押し寄せてくるようなワクワク感に、織田信良の胸はパチパチするばかりだった。


「UFCさん! 私を入れて下さい!」

「ええと、君は……」

「私は最速滑走娘スベリ! 織田信良の妹です!」


「あれ? スベリ……」

「姉さん!」

「どうしてこんなとこにスベリが?」

「姉さんと同じとこに入りたくて……」

「あらまあ!」

 健気な妹に惚れ惚れする信良は、悟からの了解を得ようとする。

「良いですか、先生⁉」

「まあ、構わんが……一つ条件を出そうか」


 スベリは悟のマンコを舐める。悟のテンションと作品のレイティングが盛り上がっていく。何という童貞レベルアップ打法だろうか。いや、この場にはメスしかいないし、しばらくはメスだけで物語を展開するのだろうが。

「気持ち良かったぞ、スベリ♥」

 ご満悦な悟はスベリを撫でる。マンコを舐めた女を撫でるのは汚い気がするが、マンコを出した女の方が汚い気もする。


「姉さん、ギュリトルしようよ!」

「え、ギュリトル? 私とスベリが?」

「面白そうだな、やってみろ信良」

「楽しそうですね、見学させてもらいます」

 スベリと信良のギュリトルに野次馬が駆け付ける。


「どう見る、光月?」

「信良さんはアクセル、スベリさんはスピード。同じF型でもまた異なるタイプですが……」

 一拍置く。この一拍が怖い。

「楽勝でしょう♨」


(まずはスピードで翻弄し、徐々に服を剥いでいく!)

(速い! 服が剥がれていく!)

 スベリのスピードワゴンに、信良のジョナサンは追い詰められていく。しかし、信良にはまだアレがある。

「やるねスベリ。出すか、アクセル・ワールド‼」

 綺麗に跳躍した信良は、凄まじい回転によりスベリへの反撃を開始する。空気の筋が一本一本切り裂かれるような錯覚に苛まれる。しかし、

(姉さんのアクセル・ワールド‼ 何度も見てきた‼ 私も出す‼)

 スベリには当然対抗策があった。それは、

「ソードアート・オンライン‼」

 アクセル・ワールドの威力を軽減させる逆アクセルだ。二つの回転が衝突し、空間が捻じ曲がるような錯覚を皆が覚える。これにより、

 スベリ半裸‼

 信良全裸‼

 という感じになった。これはつまり、

「私の勝ち⁉」

 スベリは自身の勝利を確信し、歓喜を声音に乗せる。しかし、

「いや、信良の勝ちかな」

「えー⁉ 何でー⁉」

 やだー‼ と駄々を捏ねるスベリだが、駄々で勝敗が変わる世界はない。

「信良の演技のが煽情的だった」

「それだけ⁉」

「そう、それだけ。具体的に説明すると、確かに信良はアクセル・ワールドにより全裸により、ソードアート・オンラインで対抗したお前は半裸に留まった」

「じゃあ私の勝ちじゃん」

「そこの結果だけならな。しかしその後、信良は尻餅を搗き、失禁して頬を紅潮させるという荒業を成功させた」

「いや、尻餅とか失禁とか駄目じゃん! むしろ失敗じゃん!」

「いや、それがいいんだ。フィギュリップは失敗ですら加点に成り得る競技だ。ゆえに、如何に煽情的に表現するかが鍵となる」

 悟の説明に何か言いたそうなスベリだったが、納得したのか俯き静かになる。

「分かりました、私はエロくなります」


「信良‼ スベリ‼」

「「はい?」」

「フィギュリッパー試験を受けろ‼」

「「フィギュリッパー試験?」」

 何のことだろうか。ハンター試験のようなものだろうか。などと二人は顔を見合わせる。

「何です、それ?」

「受けると何か良いことあるんですか?」

「というより受けた方が得という話だ。それに受かればプロになれるんだから」

 悟の言葉を聞き、二人のテンションは爆上がりする。

「受ける?」

「受ける受ける」

「てか、光月ちゃんは? 私とスベリだけ?」

「ふっふっふ」

 信良の素朴な疑問に、光月は不敵に微笑む。

「私、もう受かってんですよね♨」


「え? 光月ちゃんプロだったの? サイン貰っていい?」

「お前もプロになるんだよ、信良」

 信良の間抜けな回答に呆れる悟は、しかしプロになるには必要なものがあるという。そういうと、悟の身体に変化が現れる。変身というものだろうか。モノクロ漫画からカラー漫画に変わったような、爆発的な色気の移り変わりだ。

「これはフィギュリズムという。スベリにはまずこれを出来るようになってもらう」

「えー‼ むずー‼ てか、お姉ちゃんは?」

 スベリは首を傾げるが、それに答えるのは悟ではなく信良だった。信良の身体も先程の悟のような現象に包まれる。

「お姉ちゃんも出来たの‼ バカリズム‼」

「フィギュリズムだ。しかし」

 信良のフィギュリズムは数十秒ほどで終わり、物凄く疲弊している。

「問題は持続時間だな。信良はその状態をせめて一分耐えられるようにしろ。スベリはまず色気の放出からだな」


「58、59、60‼」

「よし、一分耐えたな。スベリはまだ二十、三十といったところか。スベリはそのままで、信良は次の段階へ行くぞ」

「次?」

「フィギュアーツ‼」

 悟の身体は先程のような状態に加え、風の鎧を纏っているようなエフェクトが追加された。風の呼吸だろうか。

「か、かっけー‼ 風の鎧‼」

「風着という風を切る初歩の技だ」

「わ、私もこんな感じのこと出来るようになるんですかー⁉」

「ああ、出来るさ。だからフィギュリップって競技は、ワクワクして辞められないんだ‼」

 悟の誘い文句に、信良の胸は高鳴る。魂がフィギュリップに吸い取られていくような感覚を覚え、恐らくこの高揚からは一生逃れられないと信良は悟る。人は皆ロマンを求めて生きているのだ。ロマンのない人生など人生ではない。織田信良の小さなロマンスは大きくドーンしていく。ありったけの夢を掻き集めて。


「炎着‼」

「雷着‼」

 信良が炎を着て、スベリが雷を着る。

「二人共大分フィギュアーツに慣れてきたな。合格だ。フィギュリッパー試験を受けてこい‼」

 悟に言われるがまま、二人は試験会場へ向かう。


 試験は一次でフィギュリズム、二次でフィギュアーツを各一分でどこまで修練しているかを示すもの。二分で終わるスピード審査‼

 織田信良合格‼

 織田統理合格‼

 二人はプロのフィギュリッパーとして、ギュリクイン決定戦に向け腕を磨いていく。


「ギュリクイン決定戦? ギュリクインって何ですか?」

「フィギュリップクイーンだよ。お前もフィギュア女王だったろ? あんな感じだ」

「へえ……」

「ギュリクインになれば金も名声も手に入るぞ。燃えるだろ?」

「まあ……」

 焚きつける悟だが、信良には今一つ実感がない。少し前までフィギュアスケートに熱を上げていたのに、フィギュリップを始め、フィギュリズムやフィギュアーツを覚えた。目まぐるしく状況が変わりすぎて、信良の小さい脳では一個一個の処理が遅れる。

「ギュリクインかあ……よし!」

 次の目標へ向け、信良は発進する。


「アクセル・ワールド×閃熱大炎……アクセル・ワールド インフィニット・バースト‼」

 50人いた参加者の内、40人以上演技不能‼

「織田信良‼ FP10000到達‼ ギュリクイン確定‼」


 ギュリクインとなった織田信良は……

 金と名声と権力を得て……

 フィギュリップを……辞めた‼

 これにて彼女の物語は終わる。

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