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「京平くん……今年も来てくれなかったなあ……」
シモザメは村上の海でしょげている。あれから何年、何十年経っただろうか。シモザメには人間界の時間感覚は分からない。そしてシモザメはもうかつてのモンスターではない。下半身の鮫を食らい返して、人間下宮ザメヒとなったのだ。今はスイミングスクールの講師をしていて、京平くんと結婚することを夢見て日々オナニーを繰り返しているのだ。
「京平くん、京平くん、はあはあ」
シモザメの純情な感情は爆発していく。しかしシモザメには京平がどこにいて、何をしているのか分からない。いや、全く分からない訳ではない。『原京平』をスマホで検索したら、ある程度特定できたのだ。そしてシモザメは京平くんの家に行き、インターフォンを押してみた。これが所謂家凸というものだろうか。
「お、シモザメじゃん」
「京平くん!」
京平くんはイケメンだから、虎杖の如くすぐにシモザメだと分かった。もう下半身が鮫ではないのに。もう何十年も経って忘却の彼方だったのに。その思考力で下宮ザメヒとなったシモザメをあの時のシモザメだと見破ったのだ。さすが天才、神、原京平だ。
「上がれよ、セックスでもしようぜ」
「うん!」
相変わらずの京平くんのイケメン振りに、シモザメのシモザメは盛り上がっていく。しかし、セックスというのは冗談だ。何故なら
「俺、三次元の女性に興味ないんだ。てか、欲情できないんだ。インデックスさんとかミリンダ姫じゃないと」
「え」
そう、原京平は二次元沼に浸かりすぎて、二次元の美少女でないと可愛い、抜けると思えなくなってきていてしまっていたのだ。
「俺、昔はシモザメエロいなあ、可愛いなあ、結婚したいなあとか思っていたけど」
「今は」
「ああ、まあ『過去の友達』程度にしか思えないな。ごめん、シモザメ」
「いや、ううん。良いんだ。京平くんはイケメンだし、賢いし、才能ある人だから」
「シモザメ」
「もう帰るね。久し振りに会えて嬉しかったよ。さよなら」
「待てよ、シモザメ」
京平くんは帰ろうとするシモザメを抱き締める。それだけでシモザメのシモザメは爆発しそうなくらいに絶頂してしまう。
「ちょ、京平くん⁉ 今、三次元の女性に興味ないって」
「ああ。でもお前は違うだろ。これは小説なんだから、お前は二次元の住人じゃないか」
一休さんのようなとんちを披露する京平くんだが、言われてみれば確かにそれはそうではないか。シモザメは盲点を突かれ、唖然としてしまう。
「あはは、京平くんは変わらないね。昔のまま、格好良い、逞しい少年のまま」
「ああ、最近は家に籠もって漫画ばっか描いてるけどな」
「それでも、変わらない。私京平くんの作品大好きだし」
「ああ、じゃあ『シモザメ2』でも書いてなろうやカクヨムに上げるよ!」
「うん、絶対読む‼」
シモザメは京平くんの作品の愛読者だった。愛は世界を救う。京平くんの愛がシモザメの心を救ったように。