第八話 覇者、堕ちる
昨日から体調が悪く、小説が書けていないため、更新を明日に遅らせてもらうかいつもより短めの投稿になってしまうと思いますm(_ _)m
申し訳ございません!
あと、第8話の修正をさせてもらいました。
シルアの心情描写をより詳細にいたしましたので、見ていただければ!
SIDEシルア
「合格」
エミレがぽつりとつぶやいた瞬間、美しく咲いた氷桜は花火のように弾ける。
透明なようで薄く桃色に染まった氷の花弁ははらりと舞っては青空へ、すうっと溶けていく。
そんな幻想的な風景に思わず僕は呆然とする。
……やっと見れた。
なぜだろうか、この時をずっと待っていたような、そんな気がする。
いや、もっと言うと、リュドエールル――黯光残星が、この景色を見せたかったのかもしれない。
僕はそんなことを考えつつも、エミレに視線を移す。
氷桜の残響を背に、彼女は舞うように地面に着地する。
そして、エミレはゆっくりと僕に近づき……
「おめでとう、シルア。殴り鬼は――君の勝ちだよ。」
エミレの頬からはまだ血が流れている――つまり、そう。
僕はエミレに一撃を入れることができたんだ。
彼女はそのまま続ける。
「少しは、自分の呪印の能力について、わかった?」
自分の能力――呪印は、黯光残星という『魔法剣』を扱うことができる……というものなのではないだろうか。
「うん、少しだけどわかった。」
僕の返答を聞くとエミレは嬉しそうに目を細めて、
「よくできました」と僕の頭に手を添えてくる。
彼女の手のひらの温もりは僕の頭から身体へ心へと染みわたっていく。
それがものすごくくすぐったくって、恥ずかしくて、うれしくて――
だからこそ、認めたくなかった。
いつまでも子供じゃない
そうやって、言おうと思った。
けれど、その言葉が、僕の口からでてくることはなかった。
――どこか寂しそうな、でも嬉しそうなそんな表情をしたエミレが目に焼き付いて、離れなかったから。
「……なんで、そんな表情をするんだよ。」
代わりに出してしまった言葉はどこまでも小さくて、頼りなかった。
勝ったのに悔しくて、寂しくて、でも、なぜか胸の奥には込み上げてくる暖かさがあって。
もう何が何だかわからなかった。
エミレは僕の問いかけに応えることはなく、
ただ優しく僕の頭をなで続けた。
まるで、母親に「行かないで」と袖をつかむ子供のように。
僕の存在を確かめるかのように。
彼女の手は暖かくて、切なかった。
だからだろうか、少しずつでも、根を這うように芽生えていく感情があった。
――エミレ、君を守りたい。
そんな、どこか言葉を失うような空気を……
「キャッコオオオ!!!」
リュドエールルがぶち壊した。
どうやらエミレに一撃入れられたことがたまらなく快感だったらしい。
そんなリュドエールルの様子にエミレはすかさず突っかかる。
「おい、剣よろこぶな!!
いいか?私は、負けて『くださったんだ』!シルアのために!
まっったくといっていいほど、お前のためじゃない。」
「ケケ~ン?」
「なんだその態度!私は覇者だぞ!!
おい、態度を毎度毎度改めろと言っているのにぃ!」
「ケッケケケ」
「笑うな!いいか?
覇者はしゅごいんだぞ!
……噛んだ。」
「キャケケケケ~ン」
「キラッッぴこーんZのくせに!
言葉もしゃべれない分際で、噛んだことを指摘するんじゃないよ!」
周りのことなどつゆほども気にせず1人と1振は言い合いを続ける。
さっきまで、あんなにもしんみりとした空気だったのに。
……でも、悪くない。
こんな日常がいつまでもつづけばいいな、なんて。
そんな僕の願いが、
次の日には打ち砕かれるなんて、
その時はまったく気づきもしなかった。
****
SIDEシルア
星はきらめき、それに呼応するかのように空はより暗さを増していく夜――
僕は眠ることができずにいた。
ぼおっと天井を見つめていると不意に、横からリュドエールルの寝言が聞こえる。
「ケビィンド……ギャ!?」
エミレに追われている夢でも見ているのだろうか。
――エミレ。
明るくて元気で飄々とした太陽みたいな少女。でも、どこか世界を達観している不思議な少女。
あの後、クローブについて聞いても、ただわからないと答えるだけだったし……
「エミレ、君は一体誰なんだ?」
孤独が夜の空気に溶け込んでいく。
――でも、きっと、そう問いかけても彼女は笑って「しがなき隠居中の覇者だよ」とさらりと流してしまうのだろう。
たとえ、いくら重く、残酷なものを背負っていようと。
だからこそ僕は……
エミレを守りたいと思わせたあの不思議な『感情』へと思いをはせる。
きっとこの気持ちはまぎれもない本物だ。
けれど、この感情の名前は、夜の星に託して……僕は静かに目を閉じた。
次の日。
焼けたバターと生地の甘い匂いが漂い、僕は頃間だとパンケーキをひっくり返す。
すると、その匂いにつられたエミレは、のそのそと現れる。
「おはよお、シルシル」
「おはよう、エミレ。朝から変なあだ名付けないで。」
「つれないなぁ、シルシル~。
こう、なんというか、きゅるるんみたいな要素を感じないのかね?」
「まったくもって感じないね」
むうとふくれっ面をエミレはしながらも、ホットケーキをみてすぐさま機嫌を直す。
いつも通りのエミレ……それが、何よりもうれしくて、安心した。
「あ、そうだ!今日は町に行かない?買い出しついでにさ」
「町?」
「そう、エピネスの町!はじめてのお出かけってやつよ」
「……行ってみたい」
「よし、そうと決まれば町へ行くための準備体操!!ほら、いくよ!!」
「まずは朝食を食べてからだ、エミレ。」
「ほーい」
そんなやり取りをしながら、僕らはエピネスの町へ行くことになった。
****
SIDEシルア
エピネスの町はエミレの小屋から歩いて半刻ほどにある場所らしく、エミレと話しながら道中を進める。
「シルア、左目、カラーコンタクトしてるから違和感あると思うけど大丈夫?」
「うん、可能性は低いとしても、呪印持ちって気づかれないためだし、仕方ないよ。」
「あ、あとキラッッぴこーんZ。あんまり町では、話さない!そして動かないこと!エピネスの町の人、さすがに驚いちゃうからさ。」
「ケィン……」
リュドエールルも初めてのお出かけを楽しみたかったようだが、エミレの指摘は珍しく的を得ていたので、残念ながら、僕の背中でステイだ。
リュドエールルのあまりの落ち込みように、エミレは若干申し訳なさそうな顔をしながらも、町の説明を続ける。
どうやら、エピネスの町はドウア国の果てにある、こじんまりとした集落ながらも、人とモノが行きかう活気あふれる町だそうだ。
町の話をするエミレはどこか誇らしげで、目をきらきらとさせていた。
そんな話をしているうちに、僕たちは町につく。
「あ、そうそう。
町に入ったときに、町人たちによる、私が本物かどうか見極める無言タイム?っていう儀式があると思うんだけど……あれ。
――今日はない?」
不思議そうに首をかしげながらも、エミレはそのまま足を進める。
僕も彼女の背中についていき、町の中へと入る。
確かにそこはにぎやかな町が広がっていた。
しかし、壊れた道路、つぶれた家――この間のドラゴン襲撃事件の爪痕が町には色濃く残っていた。
だが、それ以上に目につくのは……
「パンひとつちょうだい」
「あっ、ああ、はい、どうぞ。」
町の人たちの様子がおかしい。
彼らは、エミレをみると目をそらしたり、距離を取ったりと明らかに怯えている。
だがそんな態度とは裏腹に、好奇心が抑えられないのか、こちらをうかがってくる。
今日初めてこの場所に来た僕でもわかるような異様な光景。
エミレは、何ひとつ気にしないような態度で、楽し気にあれこれ物を買っているように見えたが――
「……やっぱり、こうなるんだ。」
小さな声だったが、僕の耳には確実に届いた。
思わず僕は彼女を見つめる。
エミレの横顔は鋭く、何かを見定め、決意するかのように町を観ていた。
が、次の瞬間には、いつも通りの笑顔に戻っていて、僕は踏み込むことができなかった。
そんな中、
「わっ!」
ひとりの幼い少年が走ってきて、不意にエミレとぶつかる。
エミレが声をかけようとした刹那――
少年は顔を青ざめさせ、膝をついて土下座をする。
その小さな体は震え、まるで命乞いをするかのようだった。
「ごっ、ごめんなさい。本当にごめんなさい。僕にできることなら何でもしますから、だからどうか……」
「……っと、気にすることはないよ?落ち着いて。怪我してない?」
あまりの剣幕にエミレは呆気にとられつつも、すぐさまフォローをしようとするが――
「僕の家にドラゴンは呼ばないでください!」
その発言が、場を凍らせる。
思わず、僕は耳を疑う。
……は?
ドラゴンを……呼ばないでください?
冗談じゃない。こいつ、何を言ってるんだ。
……まさか、エミレがドラゴンを呼んだって勘違いされている!?
いやいやいや、そんなのありえない。
ドラゴンが出た時、エミレと僕は小屋にいたし、
そのあと、エミレがドラゴンを倒したし、
何より、彼女はエピネスの町をあんなに楽しそうに話していたのに?
けれど、僕が感じていた『違和感』とそこから、浮かび上がる最悪の事態の点がつながる。
いつもあるという無言タイムがなかったこと、
エミレ対して、町の人たちがぎこちなく、どこか遠ざけるようにしていたこと、
そして、エミレが少し悲しそうにしていたこと。
それはなぜか――
そう、エミレがドラゴンを町におびき寄せたと疑われているから。
認めたくない。そんなの、理不尽すぎる。気づきたくなんてなかった。
騒ぎが大きくなる前に僕はエミレと町からいったん離れようと決意する。
だが、そんな僕の気持ちとは裏腹に騒ぎを聞きつけた町の人々がつぎつぎと集まる。
そして、
「おい、なんてことしてくれてるんだ!」
「また、あいつに目を付けられたら、今度は町が一瞬にして破壊されるかもしれないんだぞ!」
集団の内の誰かが、少年の母親らしき女性に怒鳴る。
「そうだそうだ!」と彼女を責める声がだんだんと強くなっていく。
中には、彼らを止める声もあったが、それは遥かに虚しく――届かない。
その勢いに、彼女は、へたりとしゃがみ込み、顔を伏せて、わなわなと震え始める。
しかし、しばらくすると、女性はゆっくりと顔をあげ、少年の元へと駆けていき、抱き寄せる。
その表情は怒りと憎悪、そしてなにより母親としての責任が感じられた。
「……っ、もとはと言えば……この子じゃないの。
ドラゴンをおびき寄せて町を、壊そうとしていたんでしょう……?」
すがるように、ゆっくりと、でも確実にその声は発せられる。
落ち葉が擦れて、そこから炎が出るように。
人々の視線が一気にエミレへと集まる。
空気が鉛のように重くのしかかる。うまく呼吸ができない。
彼女は、何も言わず、ただまっすぐと少年と彼をかばう母親を見据えていた。
だが、彼女はだんだんと口元に狂気的な笑みを浮かべ始め――
「大正解だよ、ご婦人。」
さらりと、冗談を言うかのように吐く。でも、その声は何よりも重く、残酷だった。
「そう、私がこの町にドラゴンをおびき寄せたんだ。――だって、憎かったんだもん、君たちが。」
ただ、そこに広がるのは、一面の沈黙。
まるで、町全体が、海の中に沈められたかのように、ひびの入った薄い氷の膜が張られているかのように、僕たちは動くことができなかった。
読んでいただき、目にとめていただきありがとうございます!
どうも、ルアンです(^^ゞ
なんとか、目標時間圏内に投稿することができました……( ´Д`)=3 フゥ
今回の話では、シルアくんの成長と内面の変化。そして、少しづつはっきりとなるエミレの多面性が見れた回だったかなと思います!!
シルアくん、将来絶対スパダリだよ。料理もできて、戦闘もできて、身長も絶賛伸びてて、それで、なに、顔もいい?
くぁぁあ、その時エミレちゃん、どんな表情するんだろうなぁ。そこもまたドキドキわくわくですね。
そして、シルアくん、エミレちゃんへ守りたいという気持ちが少しずつ芽生え始めます。
ただ、この気持ちに名前を付けるのはまだあとになりそうです。
なんていう気持ちなんだろう……ネ?
エミレちゃんはエミレちゃんで最後になんと衝撃の発言。
果たして、その真偽とは!?という感じになりましたね。
いやぁ、どうなるんだろう、、ルアンもドキドキしながら、皆様にまたお届けしていこうと思います。
さらに、リュドエールル、実は空気読めるのでは説が、でてきました。
リュドエールルはいつも、お調子者ですが、しっかりするときはピシっと決めるエミレタイプですね。
だからこそ、エミレと言い合いをかましているのかしら?
なんだかんだ言って、話す剣、いいかんじのムードメーカーになっているので今後の活躍に乞うご期待を!!です
そうそう、あらすじ、長すぎたかな?ということで少し変更させていただきました。(あと、2話もすこし諄い一文があったので、そこを多少修正。内容には支障ないですのでご安心を(*- -)(*_ _)ペコリ)
最期にいつもの感謝コーナーをさせてください!!
前の話から今回までで、40PVいただき、ついに、200PV超えました!
本当にありがとうございます、毎日おかげさまでエネルギーをいただいております!!
次回の話もテストに殴り鬼され中なので、投稿やや、遅い時間になってしまったらすみません。
ですが、また次の話にて、皆様にまたお会いすることを楽しみにしております~!
ではでは、またねっっ(*´︶`*)ノ"