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第七話 覇者、殴り鬼をする

おだやかな春風、小鳥のさえずり、そして、木々のせせらぎ。

今日もエピネスの町の果てにある森では、静かな美しいオーケストラが奏でられていた。

――この瞬間までは。


なんと、今日はそこに賑やかな楽器が4つも加え入れられたそうで。

ひとつ目は……土煙とともにのバーン。

そう、この既視感(デジャヴ)満載のドラム(一撃)


そして、あとの3つは――


「ちょ、エミレ!タンマタンマ、どう考えてもこれ普通じゃないよね!?」


死に物狂いで走る美少年の叫び。


「キャェエエエ」


(アニキ)の悲鳴のような金属音。


「キャハハハハ!!シルア!!案ずるでない!!これは命を懸けたじっけ……いや、特訓だよ!!」


背後から彼らに拳と剣と爆弾を浴びせまくる、見るからに不審な(キマった)美少女の声。


――そんな生と死を分かつような三重奏(トリオ)であった。


「今実験って、言ったよね!?リュドエルール!?」


「ちがうううううう、その生意気な剣の名前はキラッッぴこーんZ(ゼヱター)なのおおおお!!!!!!!」


「バケャアアノォ」


……本日の森のコンサートがお送りする曲名は、『イッツアカオースワールド』だそうだ。



――時は遡り、2時間前。



ドアのすぐそばにあるキッチン。

シルアは黙々と料理を作っていた。


そこへ森の探検から帰ってきたエミレが興味津々と言わん顔でシルアの手元を覗き見る。


「……わぁお!何作ってるの?」


「カルボナーラっていうパスタ料理の予定。あ、エミレ、それとって。」


ほいほーいと返事をしながらエミレは塩の入った瓶を渡す。

が、それと同時に喜ばしいような少し寂しいような事実にエミレは直面する。


「シルア……」


「なに?」


「身長が異様に伸びてない!?この何日間かで!?」


「ああ、確かに。エミレが小さく見える……違和感がなさ過ぎて気づかなかったけど」


小さいは余計だよといいつつ、エミレは成長もショタの魅力だからと心の中で涙を流す。


そう、シルアの身長はエミレと出会ってから10㎝近くこの短期間の間で伸びていた。

対してエミレはその間まったくと言っていいほど成長していないため、今この瞬間エミレはシルアを見上げざる得なかったのである。


それだけではなく――


「私も何か手伝おうか?」

「いや、エミレは絶対に絶対に何があっても!たとえ今ここが吹き飛ぼうとも!!料理に手を加えてはダメ。」

「そこまで!?」

「うん、そこまで。やっと、料理も作れるようになってきたし、任せて。」


ご察しの通り、この美少年は、エミレの代わりにとレシピ本を片手に料理をし始めたのだ。

しかも、本人曰く、やり始めたらハマってしまったらしく、最近では3食とは別に3時のおやつも作っていた。


そのクオリティはエミレとは天国と地獄ほどの差で、むしろお店を出してもおかしくない絶品。

そんな料理に、エミレはしっかりと胃袋を掴まされていた。


そんなこんなでまさに、シルアは料理の腕も身体も空前絶後の成長期を迎えている。


だが、まったくと言っていいほど成長していないものがひとつ。


「シルア、今日お昼終わったら、そろそろ特訓しようか。」


小屋中にバターとブラックペッパーの香りが漂った頃、エミレはふと思いついたようにシルアに放ち、続ける。


「だって世界の覇者と言ったら、武力!でしょう!

 その点でいうと、君は呪印(シジル)に目覚めてから10日間近くも鍛えていない!!」

「たしかに。」


そう、今のシルアに圧倒的に足りないものは黯光残星リュミエール・ド・レグジルを扱うための剣術、

そしてまた黯光残星リュミエール・ド・レグジルの能力についての理解であった。


その指摘に刺さるところがあったシルアは気づかない。

そろり、そろりと、料理に手を伸ばすエミレに。


「まぁ、といっても、大変だと思うのでね。

 まずは軽くホギング(ジョギング)はら(から)で。ごくん。

 ……おいしい!!!卵のぐじゅぐじゅ感がまた最高!!」


「こら、エミレ!

 隙をついてつまみ食いをしない。

 ……まぁ、おいしいならいいけど。」


「さすが、シルアコック!!ではではおかわりを……」


「いいって許したわけじゃない。

 ――でも、特訓はよろしくお願いします。」


うむうむと満足そうに頷きながら、エミレは窓へと移動する。

そうして、窓越しにエピネスの町を眺めながら、


「そろそろ、潮時か」


とつぶやいた。

どこか、寂寥感に満ちた声には、焦りがなく、吐息のようであった。


が、その声は。


やっと自分が活躍できる機会を察した剣による、歓喜の声にかき消されていった。


****


そして、エミレの提案通り、小屋を少し出た森では特訓が始まろうとしていた。


「胃袋よーし、武器よーし、天候よーし、テンションよーし!!

 さぁ、これから特訓始めるよ!!返事!!」


「はい!!」「キャキ!!」


「声が小さい!!返事が違う!!もう一回!!」


いつもより少しだけ胸を張ったエミレは軍人のような面持ちで、2人にダメ出しをする。


「アイアイサー!!」「キャピン!!」


それに対して、シルアと剣は敬礼(もどきも含む)をして、エミレに再度返事をする。


「よろしい!!

 ……では、本日の特訓内容を発表しよう!」


キラキラと目を輝かせたエミレをみたシルアは何かを察する。


(あ、これたぶん。ジョギングとかないパターンだわ。

 あっても森1000周とか頭おかしいこと言うパターンだ。)


その予想通り――


「私から逃げろ!!

 そして、一撃当ててみろ!!」


「題して……殴り鬼!!だっ!!」



(絶対殴りだけじゃすまない……でも、きっと、エミレなら大丈夫なはず。殺しはしないはずだもんね。)


黯光残星リュミエール・ド・レグジルを握りしめつつ、シルアは覚悟を決める。



――そして現在。


「ちょ、エミレ!タンマタンマ、どう考えてもこれ普通じゃないよね!?」

「キャェエエエ」


文字通り、シルアと黯光残星リュミエール・ド・レグジルは命の危機に立っていた。


エミレはその様子を実に楽しそうに見ながら、


「キャハハハハ!!シルア!!案ずるでない!!これは命を懸けたじっけ……いや、特訓だよ!!」


――容赦なく、次々と爆弾を投げる。


「今実験って、言ったよね!?リュドエルール!?」

「ちがうううううう、その生意気な剣の名前はキラッッぴこーんZ(ゼヱター)なのおおおお!!!!!!!」

「バケャアアノォ」


瞬間、シルアの真横に爆弾が落ちる。

(右に……いや、いったん斜め後ろに……)


――バコン!!!


シルアが、先ほどまで行こうと思っていた右、そして足を進めかけていた斜め後ろにまで爆弾が落ちる。


(ただ、適当に投げてるんじゃない……動きが読まれている!?

 どう1撃を入れればいい?……空を飛んでも的にされるだけだ。

 ってか、殺そうとしてるよね!?)


予想外のことに思わず立ち止まって考える。


「こらぁ、シルア、立ち止まっていると殴っちゃうぞ!!」


そんなシルアをみたエミレはジャンプをしながら、殴りかかる。

シルアは地面に転がってなんとか交わしつつも、さらに危機感を募らせる。


(近いうちに決着をつけないと火力で押し倒されるっ!!

 かといって、外したら、その隙をエミレは確実についてくる。

 ……だから、最強のひと振りをくり出すしかない!)


剣――もとい、リュドエルールはシルアの気持ちを汲み取ったのか、必死に刃を動かして何かを伝えようとしてくる。


「キャイス」


リュドエールルの姿が改めてキラキラと輝く。

それが、とても美しくて、シルアは、目を奪われる。


――氷のようだ


瞬間、閃く。


(エミレの『実験』って、あながち間違ってないのかも。)


「リュドエールル、いけるか?」


シルアは、脳内で『思いついたこと』を想像して、リュドエールルに伝える。

するとリュドエールルは「キュルル」と肯定の意を示す。


その様子を見ていたエミレは来いと言わんばかりに、にやつき、シルア目掛けて、大量の爆弾を投げて爆破する。

シルアは爆炎の中に封じ込まれるように見えたが……


「おりゃああああ」


爆風にのって、空を翔る少年がひとり。

手に持つは、そんな少年を導かんとする古剣。


だが、そんなふたりが紡ぐのはたった1輪。


紅雪龍牙(レ・スリズィエ)!」


突如、強く振り下ろした剣から竜の咆哮のように、木の幹のように、まっすぐとどっしりとした氷の奔流が迸る。

氷柱は枝分かれを始める。這うように、自然という意思をもつように。


龍牙が、春風のように速く、エミレの頬を裂く。


あふれた血はだんだんと氷筍に染み込み、桜色に染める。


――そうして空中に咲く、1輪の(レ・スリズィエ)





その姿をみたエミレは目を見開き、「桜!?……君は、やっぱり」と声にならない思いを胸に抱く。


だが、その思いは氷桜で隠して――

「合格。」

とほほ笑むのであった。

読んでいただき、目にとめていただきありがとうございます、ルアンです!!

いつも18時ごろの投稿を目指しているのですが……今回も間に合いませんでした!

毎度遅くてすみません!!

剣のあだ名、リュドエールルになりました……!

これは、シルアが決めたらしく……

今回はそのシーンを泣く泣くカットしましたが、いつか番外編で描けたらなと思っています!


そしてなんと、今日で小説初投稿から1週間!!

全話合計で36PVいただいております!!

「2日に1回更新だと減っちゃうかな……」と少し心配していましたが、

そんなことなく、今回もノリノリで執筆できました。

本当に嬉しいです。ありがとうございます!!!


それでは皆さま、また次のお話でお会いしましょう~

またねっ(@^^)/~~~

あとがき全文はこちら↓(もしくは上のシリーズ一覧から!!シクヨロ~)

https://ncode.syosetu.com/n9016kh/8/

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