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第六話 覇者、まな板を見せたがる

1000文字ほど、加筆させていただきました!


SIDEショーン


シルアは、しばらくエミレが言っている意味が分からず、固まっていた。

が、しだいにその意味を飲み込み始めると強く握られた彼の小さな拳はプルプルと震え始める。


その様子を見たエミレはシルアの手に触れながら、優しい声色で諭す。もちろん、剣も心配そうにシルアを見つめる。


「まぁ、その反応も無理はないよ。

 いきなり『呪われています、僕たちは』なんて、寝耳に水だし、とても受け入れられる事実ではない。」


「ケンケン」


そんな言葉たちに背中を押されたのか、シルアはパンッと頬を叩いて気合を入れなおすと、再びエミレを見据える。

その目は決意に溢れていた。


「……続けて、エミレ。」


「そうこなくっちゃ!!んんっ。」


エミレはどこからともなく、伊達メガネを取り出し、教師のような口調で語り始める。


「まずこの世界の名前はドウア。そして、今私たちが暮らしているのもドウア国。

 つまり、この世界はひとつの国で世界が成り立っているんだ。

 一見すると平和でとてもつまらな……じゃなくて、楽しい国。」


いたずらっぽくほほ笑むのも束の間、

エミレは2本の指を立てながら、淡々と続ける。


「そして、この世界の人間は大きく2つに分類されているんだ。」


「ひとつは、十二歳の時に教会にいって才腕(ギフト)という特殊能力を得るひと。

 これには大半の人間が当てはまる。」


才腕(ギフト)にはいろいろな能力があるの。

 例えば、木を生やしたり、水を出したり、はたまた変な声を出せたり……と多種多様なんだ。

 しかも、才腕(ギフト)の所有者は、自分の能力が何なのかを自然と理解しているらしい。」


「そして、その中でも鍛錬を積み重ねて、

 物に才腕(ギフト)の能力を付与させることができる人は『専門家』と呼ばれている。」


例えば例えばとエミレは、先日シルアに使った傷薬を引き出しから取り出す。


「この傷薬は、怪我の治りを早くすることができる『専門家』が作ったものなんだ。

 この人、もともとはその才腕(ギフト)を使って、けが人を直接治すことしかできなかったんだけど、

 修行を重ね続けていたら、ある日その力を水に付与することができるようになったらしい。

 そして、その水が、この傷薬になったって訳だ。」


「ちなみに、めちゃこれ(お金)が稼げるらしいよ。デュフフ」


エミレは親指と人差し指で円を作り、悪人顔をする。


「まぁ、彼らの話は、今はあまり重要じゃない。本題はここから!」


彼女は声色を少し真剣なものにして、シルアを見つめた。


「もうひとつの人たち。

 それは、教会に行かずに特殊能力を解放させてしまった人。

 彼らについては、歴史書にもほとんど記述がない。

 故に、その存在を知る者はごく僅か。

 ――いわば、世界の影とも呼ばれる存在。」


「……そして、ご察しの通り。シルア。

 君は、こちら側に分類される人間だね。」


エミレは、傍らにある剣へと、視線を移す。


「君を含めたその人たちがもつ能力の名前は、呪印(シジル)。」


その響きは禍々しく、明らかに祝福されるようなものではなかった。


呪印(シジル)持ちの人には、才腕(ギフト)とは比べ物にならないほど強大な力を得る。

 が、当然その力には当然代償が支払われる。

 それがさっき言った――呪い。」


エミレはここで一息つくと、シルアの反応をちらりと伺う。

すると、彼はごくりと喉を鳴らし、頷いた。


それを確認するとエミレは、再び穏やかな口調のままで語り始める。


「呪いの内容は大きく分けて、3つ。」


「ひとつは、暴走しうる力――呪印(シジル)を持っていること。

 言い換えると呪われているからこそ、呪印(シジル)という能力を手にしてしまったってことだね。

 自分の意志とは無関係に発動することもあるし、当然少しでもコントロールを間違ってしまうと周囲を巻き込みかねない。

 つまり、呪印(シジル)という異物を抱え込んだまま、常に生きなければならない」


「そして、ふたつめ。

 これは大体察しがついていると思うけど、呪印(シジル)を体に宿したことによって、寿命が極端に短くなる。

 具体的には、平均して18歳から20歳まで。」


シルアの顔色がみるみる悪くなる。

が、エミレは容赦なく説明を続けた。


「最後に3つ目。

 呪印(シジル)を持ちには、八芒星オクターヴ・アンシエンヌっていう痣が生まれつき身体のどこかにあるんだ。

 まぁ、君の場合は、その痣が左眼に出ている。

 だから、『柄目』と呼ばれるものになっているのだけど。」


八芒星オクターヴ・アンシエンヌは、呪印(シジル)を持ちの証そのもの。

 だから、彼らは、本能的にその痣を隠そうとする。


「――最初に、私が君の左眼を見ようとした時、すごく嫌がっただろう?

 あれは、君の本能によるものだったんだよ。」


そう言うと、エミレはシルアの顔を手で包み、ぐっと顔の距離を近づけて、シルアの左眼を眺める。


そして――


「うん、すっごく綺麗。だから、いっか」


と意味深にほほ笑んだ。


「エミレ、今のはどうい――」


「以上が、ここまでが、呪印(シジル)による3つの呪いの説明でしたー!」


シルアの言葉をエミレが大声でかき消す。

彼女はおどけた口調で、楽しそうにシルアの反応を伺っていた。


「どう?なかなかに酷いものでしょ?」


「……正直、納得するところの方が大きいかも。

 多分、なんとなくだけど、記憶をなくす前にはそのことを知っていたんだと思う。」


「ふーん?

 『ひどい!』とか、『絶望した!』とか、

 『わざわざ知らせるなよそんなこと!』とか思わなかったの?」


エミレはおどけた口調で、でもどこか寂しそうな口調で放つ。


「絶望に近い感情はあるけど……知りたかったことを知れて、満足しているよ」


(……本当は、嘘だ。怖いし、死にたくない。

 ――だけど、受け入れないと始まらない気がするから。

 この日々を続けるためにも。)


シルアが、表情こそいつも通りだったが、小刻みに拳を震えさせていた。

エミレはそれを一瞥して、にやりと笑った。


「えーじゃあ、呪印(シジル)呪いを解くほーほー知ってるけど、話すのやーめた!」


「あるの!?いや、それは教えて!!」


食い気味に迫るシルアに、2人の額がごつんとぶつかる。


「……いてて」


頭をさする。

だが次の瞬間、エミレはぱっと立ち上がり、目を輝かせた。

……嫌な予感しかしない。


「それは至ってシンプル!!

 8つの異なる世界に行って、そこで世界の覇者になること!!だよ!!」


「え?なにそれ。異なる世界?覇者?……本当に?

 話が飛びすぎてない?エミレがしたいだけなんじゃないの!?」


シルアは、思わず、剣に尋ねる。

すると剣は、しぶしぶ……いや、どこかあきらめたようにコツリと肯定の意を示す。


「いや、そんなに、あっさりと呪いの解除方法って見つかっていいものなのか……?」


思わずつぶやいたその声は……自分でも驚くほど霞んでいた。


(――いや、違う。

 これしかないんだ。……呪いを解除する方法が。

 だから、受け入れるしか、ないんだ。)

 

エミレは、そんな彼の動揺を見透かしてか優しく手を伸ばす。


「だから、シルアよ!!

 私と共に――覇者になるのだ!!」


少女の姿は力強く、頼もしく、あたたかい――まさに希望の象徴とでも言うようで。


シルアはしばらくの間、その姿に見とれていたが、その手を取ろうとする。

刹那、シルアの頭に閃光が走る。


「待って、エミレ。

 ……つまり、エミレも呪印(シジル)持ちってこと?」


「うん!!

 そりゃあね、こんなにも強くてかわいいお姉さんが、特別な能力を持ってないわけがないよ。」


その声は、どこか切なく、けれど誇らしげだった。

それこそが、受け入れた者の姿なのかもしれない。


だが――


「でも、私は呪印(シジル)持ちであろうとなかろうと、世界の覇者を目指しているけどね!!

 だって私は『しがなき隠居中の覇者』ですから。」


彼女は、自分の意志で、どこまでも輝いていた。

笑顔で高らかに宣言するその姿は、太陽のようで。


エミレは、シルアの手を引く。

シルアが握るよりも、前に。


(――エミレらしいな)


そのことが、なによりもシルアの心をほぐす。

自分自身も驚くほどに。


けれど、そのことが、うれしくて――


シルアはぎゅっとエミレの手を優しく、包むように握り返したのだった。




そんな暖かい空気のなか、エミレは不思議そうな、そしてどこかふざけたような顔をする。


「ねぇ、シルアは気にならないわけ?」


「何を?エミレの能力とか?」


「あー、それは?気が向いたら?かっこよく見せたいし!

 そうじゃなくて、ほら――八芒星オクターヴ・アンシエンヌがどこにあるのか?とか?」


「当ててほしいの?」


「ふっふふ、当ててみたまえ」


「頭」


「ぶっぶー」


「眉間」


「ちがいまーす!」


「じゃあ、上半身」


「大雑把に来るね……まぁそれは合ってる」


「お腹か腕!!」


「あ、割と近い近い!」


「首?」


「そこも近いけど、その間だよ間!!」


「首とお腹の間?」


「そう!!」


「まさか……胸?」


せいかーいというと同時にエミレは胸ボタンを緩めようとする。

しかし、その手は顔を沸騰させたシルアによって阻まれる。


「ちょ、エミレいいから!見せなくていいから!」


「なぁ!?見たいって、言ったのはシルア君からじゃないか~まったく。照れちゃって~」


「言ってないって!!」


「あはは、真っ赤になってる~」


「絶対僕の反応見て楽しむためにしようとしてるよね!!」


「もちろん!!」


バタバタと一進一退の攻防戦が繰り広げられる。

エミレが、ボタンに手をかけると、シルアはすかさず彼女の手を押さえる。


エミレの腕力は、シルアよりもいつもは遥かに強いが、今日のシルアはひと味違う。


――絶対にとめてやる!


そんな確固たる意志が、彼の筋力を何倍にもビルドアップさせていた。


だが、そんな戦いにもついに決着がつく――その勝者は……


「ガビエーン」


突如、乾いた金属音と共に、エミレの脳天に衝撃が走る。


もちろん、このカッチョイイ金属音は(アニキ)!!!!!

どこまでもついていきやす!!まさにかっこよさの漁夫の利でした!!!


エミレは、ノーマークだった背後から攻撃を受けたので、当然。


――ガホッ


そう放ったのち、エミレは泡を吹いて倒れてしまう。


あ、やばと、剣が思うのもつかの間。

目の前には、満面の笑み(アルカイックスマイル)でベッドに収まる美少年――シルアがいた。


「……ねぇ。今、()がエミレと戦ってたの、わかってたよね?」


ガタリガタリと剣が震えだすころにはもう遅い。



その後、数日間は剣には縛り付けられたような跡が残っていたことも、

謎に剣がエミレへの態度を少し軟化させたことも、

また別の話。



****

その頃、エピネスの町では――


「なぁ、あの噂きいたか」


路地裏でしゃがれた声で男が、囁くように連れの男に声をかける。


「何の噂だ?」


「しらないのか!?エミレの噂だよ!

 ――どうやら、この間のドラゴンが3匹町に入り込んだ事件、犯人は彼女らしいって……相当出回っている話だぞ。」


「そうなのか!

 でも確かに......エミレはやっぱり町から追い出したことを恨んでいるのかもしれないな。」


「あー!確かに。その説すごいいいな!ちょっ、他の奴らにも伝えてくるぜ」


噂はまわるまわる。

星よりも短く、早く、そして、どこまでも理不尽に。

読んでいただき、目に留めていただきありがとうございます!

どうも、午前中ギリギリに世界観の説明を済ませたものの、納得がいかず加筆しまくった、筆の亀ルアンです!

ほんとに、剣も一緒に謝ろうね!あは

わかりづらかったら、ぜひ、世界観説明が13話あたりで出てるので!参考にしてくださいナ!


そしてそして!


タイトル変更のお知らせ!

物語の改稿後、タイトルを以下に変更します!


『世界の覇者』になれと、神に呪われた僕らは


それに合わせてあらすじも刷新予定です!お楽しみに!

PV感謝報告!

なんと昨日からで48PV!

合計も160PV突破!

エベレスト級にありがとうございますッ!!


これからもエミレ・シルア、そして仲間たちの冒険はどんどん広がっていきます!

ただ、新学期が始まった関係で更新は2日に1回になりますので、ご理解のほどよろしくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ


それではまた、次の話でお会いしましょ〜!

またねっヾ(≧▽≦*)o

あらすじ全文リンクはこちらから↓(もしくは上のシリーズ一覧から!)

https://ncode.syosetu.com/n9016kh/7/

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