第五話 シルア、素晴らしい剣に振り回される
SIDEシルアandショーン
「――黯光残星。往くぞ。」
僕の声を聞くや否や、クローブは震えながらも、短剣を握る。
その眼には、まだエミレに抱く並々ならぬ狂気が宿っていた。
僕はその様子を淡々と見ながらも、この剣の扱い方を考えていた。
なにせ、剣を使った初めての戦い。
まずは、ものは試しよう、ともいうし、軽く振ってみるか。
剣を構え、形だけの素振りをする。
すると、剣はスッと上から下へきれいな弧を描く。
荘厳な剣の面持ちに対して、剣は空気のように軽い。
思ったよりも、この剣は扱いやすそうだ。
反面、剣からは僕の素振りに見合わないようなすさまじい風切り音を奏でられる。
その風圧に耐え切れず、クローブは吹き飛ばされる。
……もしかして、この剣、扱いやすそうって言葉に怒って、クローブにやつ当たりをした??
剣はそれに応えるように、「カキン」と金属音を鳴らす。
どうやら、主張が強めな……んんっん。
立派な大剣であらせられるようだ!!
この剣、本気出したら、強そうだな。
でも、これではっきりとわかった。
――間違いなくこの瞬間、剣と僕は繋がっている。
いわば、この僕の意志がそのまま剣に反映されるといっても過言でないだろう。
ということは――
僕は目を閉じ、身体の力を抜く。
そして、剣に任せたぞと念じる。
刹那、足と地面の間に空間が生じる。
――浮いている……?
と認識するよりも先に、僕の身体は上へ上へと引っ張られる。
僕を天へと導かんとするのは、黯光残星。
その速度は音をも置いていくほどだった。
もちろん、頭や背中にかかってくる風圧も重力も尋常のものではない。
「おいおいおいおい」
叫びつつも、目を閉じる。
目だけはせめて、すべての圧に屈しよう。
僕の身体自体は状況に追いつけたとしても、僕の心は追いつかないのだ。
だが、剣の行動の意図を把握するまでにそう時間はかからなかった。
剣は対象を見つけると、即座に上昇をやめる。
その反動で僕の身体は軽く浮くものの、ピタリと上空で止まる。
ゆっくりと目を開けると、目線の遥か先には――エミレがいた。
彼女は焦燥感に満ち溢れた顔で、森の中を駆けていた。
時には視界を邪魔する木々を激しく両断する姿も見受けられる。
彼女の体に傷はないし、見る限り軽々とドラゴンを倒せたようだ。
その姿を見ると僕自然に頬が緩んでいた。
僕のこと心配してくれているのかな……。
そう思うと、先ほどのセンチメンタルな気持ちと打って変わって、安心感が胸を覆った。
すると、剣は僕の気持ちを察したかのように優しく金属音をゴンと奏でる。
それがとてもこそばゆくて、僕は思わず声を出して笑ってしまった。
剣は最初、僕の反応に怒るような素振りを見せていたが、しばらくすると悟ったように静かになる。
よし、エミレの無事も確認できたし、あとやることと言えば……クローブの退治。
あいつはどこだろうと思っていると、剣があっちだと剣先をクローブのいる方向に向ける。
彼はこちらが上空から見下ろしているのに気づくと、逃げ出す素振りを見せた。
その様子からは、明らかに戦意がないことがうかがえる。
が、彼がしたことは消えない。
――誰も僕らの邪魔はさせない。
小さな願いが風に溶ける。
瞬時、空間が一閃に裂けるような錯覚が走った。
目の前には、クローブ。
シルアの左眼が彼を捉える。
「……美しい」
言葉があふれ出した後――
それはもう二度と動くことはなかった。
ただ、ひと突き。
雪のような一撃の後に残っているのは――静かに佇むシルアの背中だけであった。
「やった……のか?」
僕は掠れるように言葉を紡ぐ。
刹那、雪崩のように身体には疲労がのしかかった。このままでは、重力に逆らえなくなる。
――これからのこと、この世界のこと、エミレから訊かないと。
僕のそんな想いに応えるように聞きなれた声が、ひとつ。
「おつかれさま、シルア」
その声はどこまでも優しく、暖かく、でもちょっぴり呆れを帯びていた。
ふわりと身体が浮き上がる。
その確かな感触が身体に響き渡るころには、僕の意識は遠のいていた。
「まったく……無茶をして。といっても、私のせいか。」
エミレはそれで、とあたりを見渡す。
といっても、そこに残るのは窓やドアが盛大に破壊された小屋と、すこし荒れた地面と木々だけ。
クローブの姿はきれいさっぱり消えてしまっていたのだ。
「分身か」
エミレはクローブがいたであろう位置を睨みながら、冷たく放つ。
だが、すぐにまぁいっかとエミレは呟き、シルアを眺める。
彼の手はところどころ傷つき、マメのようなものができていた。
そしてその手の中には――大切そうに握られた剣が一振。
(――町を優先したせいで、さぞかし怖い思いをさせただろうな。
でも、これが、必要だったのも事実。
それでも……)
「次からは君を最優先で守るよ。」
そう誓ったエミレの表情は赤子を抱く母のようにやわらかかった。
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SIDEショーン
シルアとクローブの戦いから、2日。
エミレの小屋は一時的な応急処置を施し、なんとか小屋としての形を保っていた。
そんなおんぼろな小屋から、突如大きな声が響き渡る。
「おい、ふざけるな!!
君の名前は、キラッッぴこーんZなんだ!!
おい、しがなき覇者である私がつけたんだぞ!!
光栄に思いたまえ。って、みぞおちめがけて体当たりしてくるな!!
剣の身分をわきまえろ!!」
もちろん、声の発信源はエミレ。今日も五月蠅い。
対するは、そこはかとない怒りをギャリイと身の毛のよだつ金属音で表す剣――黯光残星。
「じゃあ、しょうがないな。キッッぴーはどうだ。」
「ギョイン」
「なに、まだわがままを言うのかい……まったく。あ、そうかZが気に入っていたのか?」
「ギョエエエン」
「あ、そうなのか。うんうん。ごめんよ、理解してあげれなくて……」
「カキェン?」(キラリ)
「悟ったぞ……君の名前は」
「コンコン」(ピカリ)
しばし、期待と緊張を帯びた空気が流れる。
そこには、言葉では表せない、ひとりの少女と、一振の剣の間に確かな通ずるものがあるように感じられた。
目を閉じて、ゴクリとエミレは唾を飲み込む。
瞬間、時が満ちたとでも言わんように、開眼し、高らかに宣言する。
「やはり、キラッッぴこーんZが良かったのだな♪」
瞬間、一振の剣は裏切られたとでもいわんばかりにからりと床に落ちる。
反対に、エミレは決まったぜとでも言わんばかりに、くるりと後ろを向き、宣い始める。
「いやぁ、うれしいよ。
なかなか、私の芸術性を理解してくれる人はいなくてね。
すばらしいよ、キラッッぴ――」
瞬間、剣は立ち上がり、エミレの鳩尾を容赦なく殴る。
その動きからはこれ以上その汚名前をいわせないという確かな意志を感じた。
「グッ」
恨めしそうにエミレは剣を見つめる。
すると剣は勝ちを確信したかのように「ガギョギイイイン」とけたたましい咆哮をあげる。
よくやったな!!
さすが、黯光残星!!いいや、兄貴!!
「ん……」
未だ熱気の冷めぬ、格闘場と化した小屋に似つかわしくないふんわりとした声がこだまする。
すると、先ほどまで唸り声をあげていた少女と雄たけびを上げていた剣は静かに顔を見合わせる。
そして、ふたりはテクテクと、ベッドに歩みを進める。
「おはよ、今回も永い眠りでしたね……英雄さん」
「カカクルル」
その声の先に居るのは、まだ夢から解き放たれて間もない少年。
「うん、おはよう。エミレと……」
そろりそろりとその視線が、見慣れた者から見慣れないモノへと移ってゆく。
そして――
「剣!?」
と叫ぶと同時にシルアは思い出す。
(そうだ、僕はあの剣で、えっと、クローブを倒して……それで、僕は――!)
まるで、自分の使命を思い出したかのように、そのままの勢いで、「エミレ!!」と呼びかける。
エミレは、誇らしげに胸を張ると、エスコートをするかのように、水の入ったコップを指さす。
「まずは、そこにおいてある水を飲んでから」
その口調は、とても穏やかで、優しげである。
それに対して、シルアはそわそわしながらも、ごくりと水を飲む。
そして、彼は、緊張した面持ちで、今度はエミレに尋ねたいことをはっきりと告げる。
「それで、この世界について教えてほしいんだ。エミレ。」
「うん、ちょうどいい頃合いだもんね。
まぁ、うーん、どこから話せばいいのかな……長くなりそうだしな。
じゃあ、まずは簡潔に結論から。」
エミレはしばらく沈黙する。
その静けさは、まるで辺獄に咲く一輪の花のように、これから地獄へ行くのか、はたまた天国にいくのか彷徨うようであった。
「簡潔に言おうか。君は……いいや。僕たちは神に呪われている。」
少女の声はどこまでも残酷に、そして可憐に、冥界へといざなうように咲いていた。
どうも、「世界の覇者は遅れて登場する」を地で行く遅刻魔、ルアンです!
……ええ、聞こえてます。「早く世界観説明しろ!」って声が。
その件、ほんっとうに申し訳ございません(30度イナバウアー)。
でもご安心を!明日午前中にはエミレちゃんが語ります。世界観!
その後は二日に一回更新予定です!ただしテスト期間などは活動報告で遅れの告知をします、シクヨロ!
そしてなんと、25PVありがとうございます!!
ちょっとずつ増えてて、本当にうれしいし筆がノリまくってます( ´∀`)bグッ!
最後にちょこっと予告!
実はタイトルを変更する予定です。
「サイコーな世界の覇者になる方法」も気に入ってますが、今後の物語にもっと寄り添ったものに……でもこのタイトルもどこかで使いますのでご安心を!
ちなみに、今日の更新には次回のタイトルのヒントがちょこっと入ってます!ぜひ探してみてね!
それではまた次回、お会いしましょ~!
またねっヾ(≧▽≦*)o
あとがき全文はこちら↓(もしくは、上のシリーズ一覧から!)
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