第四話 シルア、問答無用の殺害予告を受ける
SIDEシルア(ところどころショーン味あるかもm(_ _)m)
エミレが無事に帰ってくるのを心配するのもつかの間
――バリンと窓ガラスが割れる音がした。
嘘だろう、と思うの暇もなく。
黒ずくめのローブを纏った人間が、ぬるりと小屋に入ってくる。
背丈はかなり高い、大人の男性ほどある。
……だが、顔はフードで顔を見ることができなかった。
この見た目、そして、侵入方法からかなりヤバいやつだと直感した。
「お前がシルアだな」
声は中性的で、冷たく、無機質だった――生きているのかを疑うほどに。
「そうだけど、なに?」
刺激をしないように、精一杯考えた末の言葉だった。
「要件はただひとつ、死ね」
その瞬間、黒ずくめのローブをかぶった人間――通称クローブとでも呼ぼう、は短剣を取り出す。
……あ、これは刺激してもしなくても殺す気だったんだ。
一旦、情報を整理しよう。
▼敵
クローブ→なんかよくわかんないけど殺気マシマシ。いつでも殺してきそう。
▼味方
エミレ→いない(ドラゴン3匹ってたぶん倒すのむずそうだから長時間いないかも)
シルア(僕)→ケガ治りかけ(しかも重症から。あと片目包帯してるから見えづらいし)
▼もちもの
武器→エミレが全部持って行った(あるのはさつまいもとその他食材もろもろ)
……うん、これは詰みかも。
思考を巡らせているうちに、クローブが走ってくる。
僕は、反射的にベッドから飛び起き、台所へと逃げる。
とっさに取ったのは、さつまいもと……トマト。
とにかく、投げる。
すると、さつまいもは見事に交わされたものの、トマトは見事にローブに命中。
「おい、ふざけるなクソガキ。
……ただでさえも、巫女様に気に入られて……あろうことか、慈悲まで受けやがって!!」
震えた声で怒鳴りながら、クローブは歯を食いしばる。
その音声は、怒りというより、癇癪に近い。
まるで、お気に入りのおもちゃを取られたかのような幼稚な苛立ち。
「巫女様って誰のこと?」
「とぼけるな、ガキが。
名を申し上げるのも、恐れ多い……巫女様とはエミレ様のことだ。」
――やっぱりか。認めたくなかった。
エミレが可愛いのは認める。
が、病人にペガサスとイノシシの焼き串を平然と差し出すようなど変人だ。
……なのに、熱狂的なファン?ストーカー?がいるんだ。
世界って、広いな。
だが、そんなことを思うのも束の間。
クローブは、またもや怒鳴りながら探検を振りかざしてくる。
明らかに狂気を増して。
まずい、このままじゃ――殺される。逃げよう。
逃げるしかない。
けど、クローブをエミレに会わせちゃいけない。
絶対、ろくなことにならない。
だから、森の奥深くへ……そうすれば、木々に紛れて、なんとか逃れられるかもしれない。
そう判断して、ドアへ向かい、体当たりでぶち破る。
が、外から出た瞬間――足が止まった。
動かない。
……なんで?
いや、違う。わかってる。
僕は重傷を負って、ベッドに寝ていたんだ。
――むしろ、今までよく動けていた方だった。
その事実に気づいた途端、恐怖が這い上がってきた。
まるで海の波のようにとめどなく、何度も何度も。
嫌だ。怖い。死にたくない。
クローブが僕の前で笑っていた。
「可哀想になぁ?
さっきまでのイキりはどこ行ったんだ、んっ?」
近づいてくるたびに、僕の身体は震える。
クローブの手が、僕の胸倉を掴んだ。
身長差のせいで、僕の足は宙に浮く。
もがいても、意味がない。
けれど、僕は足を動かし続ける。
まるで、ぬかるみの中でもがく子犬のように。
無様に。
命乞いをするように。
――それが、悔しかった。
「そんな抵抗をしても、誰も見てないし、誰も助けない。
――ただお前は死ぬ。それだけなんだよ。」
そして、クローブの乾いたような嘲りが、陶酔した狂気へと変わる。
「……お前の死体を見た時、巫女様はどんな顔をするんだろうな?
想像しただけで、ゾクゾクするなぁ」
――こいつは、エミレのことなぞ微塵も大切だと思っていないのだ。
その瞬間、僕の中で、何かが弾けた。
「……ふざっ、けるな。」
最初は、震える声で、雫のように。
けれど、次の時には、滝のように。
「――お前の都合で、お前のエゴで、エミレは傷つけられていい存在なんかじゃない!」
堰き止めても抑えきれない感情の渦が、僕をうねらせる。
……僕は、シルアは!
鼻の奥がツンとして、喉が、魂が震えるのを感じた。
この後の言葉が、うまくつむげない。
でも、あふれる。
暖かくて、くすぐったくて、何よりも大切にしているような不思議な気持ちが、じんわりと。
そんな僕の感情に呼応するかのように、涙がぽろぽろと激しく、けれども、優しく、目からあふれる。
左目に巻かれた包帯が涙で、だんだんと肌に張り付いて、重みを帯びる。
そして、結び目が、緩む。
しゅるり――
ひと巻き、またひと巻き。
始めは、ゆっくりと、扉をノックするように、
でも、だんだんと鼓動と共に扉さえも飛び越えて速く翔るように、包帯がほどける。
そのたびに、僕の中から眠っていたものがあふれる。
様々な感情を、理性を、――そして記憶を孕んだ何か。
懐かしくて、どこか新鮮さを感じさせるそれは、丸ごと僕の中に溶け込む。
そして、僕自身もそれを受け入れる。
――はじめまして。
――そして、おかえり。シルア。
最期のひと巻きが、トンと落ちる。
まるで役目を終えたといわんばかりに。
左目を拓く。
「おい、まさか、お前……その眼はっ」
クローブの手から力が抜け、僕は地面に落ちる。
だが、そんなこと、心底どうでもよかった。
僕の目に映る――空も、森も、そして世界も。
そのなにもかもが綺麗で、暖かくて……空っぽだった。
――これが、エミレの見ている景色なのかな。
しばらくは、心地よく世界を観ていた。
けれど――思い出してしまう。
戦わないと、いけない。
クローブを止めないと。
どうやって、こいつを倒すか――そんなことを考える暇もなかった。
僕の両手が、勝手に胸を突き刺す。
容赦なく。
まるでクローブが僕にとどめを刺すように。
しかし、そこから血は出ない。
その代わりに……僕の手は『それ』掴む。
触れた瞬間、確信する。
――これは、僕のものだ。
そしてこの感触は、間違いない。剣だ。
そう思った途端、剣はまるで意思を持つかのように、僕の胸から解き放たれる。
それは、太刀に入っていた。
見るからに『普通の剣』。
この極限状況に似つかわしくない、異質な存在。
だからこそ、わかった。
確かめているのだろう、この剣は。
――己の意志で最期まで太刀を振るい続ける覚悟はあるのか?と。
僕は、ああと答えて、剣を静かに引き抜く。
瞬間、至ってシンプルだった剣が、激しく白と黒の光を纏う。
だんだんと、光と影が溶け合い、混ざる。
まるでこの世の理を体現するかのように。
完全に2つの光が完全に一体になった時、その剣は圧倒的な威圧を放つ。
その重圧に耐えきれず、思わず目を閉じた。
恐る恐る目を開けると、剣はもはや、別物になっていた。
それは左右非対称の意匠に彩られるひと太刀。
右のガードには、純白の羽根。
その羽根はまるで、天から舞い落ちた祝福を体現するかのように美しく儚い。
下部のグリップとポンメルは、その羽根をより際立たせるかのように深紅に煌めき、細やかな金の装飾が施されていた。
金の装飾は、僕の中に流れる血のように、剣の芯を巡り、力強く輝き、影を落としている。
対して、左のガード部分には漆黒の羽根。
その羽根は、鋭く裂けて尖っており、まるでこの世の全ての闇を体現するかのように悍ましく、禍々しかった。
続く、左のグリップとポンメルは、異形の羽根をより地に堕さんと言わんばかりに深い蒼に染まり、同じく金の装飾が巡っていた。
まるで、堕ちた翼の悲哀を語るように。
そして、肝心の刃は――透き通っていた。
まるで氷で造られたかのように冷たく、美しく、触れれば溶けてしまうかのように繊細であった。
しかし、その繊細さと相反するように刃はところどころ欠け、この剣が歴戦の猛者であることがうかがえる。
刃の脊椎には、赫焉と蒼劫とでも呼ぶべき2つの紅蓮と青藍の光が通っていた。
だが、目を凝らすとその刃は完全には透き通っていなかった。
――その間を縫うように黒い光が蠢いていたのだ。
しかし、その墨染には、漆黒の羽根に込められた禍々しさとは似ても似つかないものを感じた。
それはきっと、名もなき祈り、名もなき嘆きといった感情に込められた人の魂。
そのような相反する力が、この光を、この剣を紡いでいるのだろう。
僕はこの剣を強く握る。
そして、この剣の名前を口にした。
「――黯光残星。往くぞ。」
剣越しに見た自分の左眼は透き通るように碧かった。
そして、中心には赫黒い八芒星が刻まれていた。
読んでいただき、ご覧くださりありがとうございます!
どうも、ルアンです!
更新、めちゃくちゃ遅れてごめんなさい!!(*- -)(*_ _)ペコリ
とにかく今回、剣の描写長いので、わかりにくかったら、あとがき全文でざっとまとめているのでみてネ!
そしてそして……
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