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第三十八話 バカは、鳴れない歯車を掻き回す ーー名を綴った、星屑たちへ

SIDE シルア


――まだ、『始まり』を知るには、早すぎる。


落ちていく――。

その自覚が腑に浸るより、遥か先に。

根元を掘り廻すように、静かに、深く深く。

重力も質量もない暗闇に、意識が沈んでいく。


視界は無い。なのに、何かが視えていて。

風もない。けれど、空間は揺れていて。

感覚が、不調和を唸り続ける。


……エミレの手を、掴んだはずだった。

指先に、誓いが、あの温度が残っているはずだった。


なのに――


あれは夢か、現実か。

言葉も、温度も、すでにどこか遠くて。


瞼がぼやけて、頬に影が落ちる。

霧が、徐々に覚めていく。

思考の膜を千切るような、横暴さを奮って。


「エミレ……?」


掴んでいたはずの手が、ない。

霧にまみれた中で――その『不在』だけが鮮明で。


胸に、衝撃を撃ちつけてくる。

名前の歪みを孕んで、冷たく。


彼女の名前に、触れられなくて。

声を紡ごうとするたびに、喉の奥が灼けるように乾く。


周囲に、何もない。

ただ、孤独の残骸だけが転がり墜ちていて。

立っているのか、漂っているのかもわからない。

境界がない。足場がない。


それでも――


()()()()()()()


その事実だけが、脈をじらして。

巡る血液を、破片へと変えていく。


……どうして?

つい、さっきまで。確かに。絶対に。


そこに、いた。

触れていた。

存在していた。


それが――もう、いない。


意識だけじゃなくて、身体も。気配すらも。

すべてが、蔽っているようで。


でも。

そんな現実、認めたくなくて。


虚空を、搔き毟る。

無知を侍らせて、混乱を握りつぶしながら。


このままじゃ、エミレが行ってしまう。

どこか遠く、扉の向こう側へ。

手の届かない場所へ。


それだけは。

絶対に。


「……嫌。」


言葉が、唇から垂れたその時。

全身に、砕けるような感覚が下る。


呼吸も。心音も。意識も。

全部、自分から剥がれて、溶けていく。


それなのに。

足が縺れて、手が宙を掠り続ける。

音符に宝石を着せるような、皮肉をこしらえて。


――そして。


そんな僕の姿を嘲笑うように。


風が、逆巻いた。

天地を癒着させるように。

空間が拉げて、耳元へ、それが忍び込む。


音を持たない。

なのに確かに『聴こえる』。

耳ではなく、心の内壁に憑りつく声。


――汝は、淡き夢を醒ましに来たのだろう?

  ならば、試してやろう、汝のその覚悟を。


切り取られた意志が、空間を引き裂いて、滑り込む。

意識を馴らしたような、ぬるみを交えて。


次の瞬間。


空間の一点が、沼のようにぬかるんで。

『何か』が、重く押し込まれるようにして現れる。


白装束。

なびく袖。

深々と被ったフード。


けれど――その肉体は、(ない)


面影も、闇も、すべてが撒布していているのに。

一面の猶予が……広がる。


この世の理を模ったような姿に。

思わず、息を呑む。

辞儀を促すような、畏怖を貼り付けたまま。


歩いてくる。

けれど、足元が浮いていて。


空間が、狂う。

近づいているのに、遠ざかっているようで。

見えているのに、観てはいけない気がして。


それでも、確かに迫ってくる。


向き合った刹那。

存在が、何かに蝕まれる。


空気が、衰える。

重力が、跪く。


風など吹いていないのに――

白装束の裾が、ゆらりと舞う。

存在を移ろわせるような、余裕を掃いて。


――我が化身を倒してみよ、青き少年よ。

  その先に、夢の真髄は眠っている。


白装束のそれは、ゆっくりと空間に融け込む。

此方を測ってくるような、警戒を尖らせて。


……夢の真髄。

もしかして、エミレがこの先に――?


憶測が、泡沫をふためく。

希望を孕んで、織目を示すように。


考えるよりも早く、胸が跳ねた。

息を呑む暇もなく、拳が震える。


そして。

想いに呼応するかのように――空間が、裂けた。


金属が研ぎ澄まされて。

空間の狭間に、純黑の閃光が走る。

雹を轟かせるように、みずみずしく。


そのまま軌跡を描いて……

刃が、現れる。

記憶を降り積もらせるような、暖かさを巻いて。


「……リュドエールル」


感覚を導くように、呼ぶと。

頬が緩んで、心に芯が透き通る。


そのまま。

その呼びかけに、応えるように。


「キャルペッキ!!」


霧が、刈り取られる。

気配にたじろわせるような、威圧を捺して。


――柄に、触れる。

呼び起こした誓いを、流し込むように強く。


すると。

柄ごしに、体温がさざめく。

意識の根元へと、覚悟に応えてくれるように。


「やろう、リュドエールル。」


沈黙が、空気を縛る。

獲物を捕らえるように、糸を張り巡らせて。


息を軽く吐いて、

……前を、睨みつける。

不気味さを祓うように、鋭敏に。


心の中で、切望(エゴ)が願いと交錯する。

剣先と定めるように、決意を固める。


この手で。

エミレを――掬いたいから。


「……その試練、受けて立つ。」


直後。

白装束が、空気を蹴る。

気配を誤魔化すように、宙をがならせて。


そこにいるのに。

そこにいなくて。


目を細めて、見極める。

張り詰めた意識を押し上げるように、細やかに。


反射的に、半歩踏み出す。

感覚で嵌めるように――太刀を振るう。

面影を踏むがごとく、確信を込めて。


けれど。


「……ッ!?」


刃は、空虚に外れる。

弧に充てられた空気が、低く唸る。


動きを記録するかのような、余力をなぞらせたまま。

白装束は、微動だにしない。


そこに、微睡が深まる気配がして。

心に、霧が流れ込む。

一太刀を煽るような、湿気をこびり付けながら。


なら――


「一か八か、やるしかない。」


リュドエールルを、強く握りしめる。

剣先に、汗が滴って、跳ねる。

つららを捲し立てるように、麗らかに。


そうして。


「……紅雪竜牙(レ・スリズィエ)!」


声と共に、氷柱が()いでる。

空間を斡旋するように、重圧を懐柔しながら。


氷柱が、霧に反射して、昇り――

蒼穹を睨みつける。

霧を照らすような、発芽を滾らせて。


そのまま、一直線に白装束を貫く――


……はずだった。


直後、氷瀑が、瓦解する。

包帯を巻くような、損傷を匂わせて。


霧に、霞が混じる。

目の前の白装束が、薄くほどけていく。

外套だけを、風に梳かすように。


そうして、一体、二体、三体と――

気配を、増やす。


――分身した!?


転瞬。

視界が、ブレる。

目の焦点が、追いつかない。


音もなく、存在を仄めかしたまま、

白装束たちが――同時に、駆ける。


瞬きよりも早く、速度を重ねて、

意識の断片すらも、取り残すような動き。


一体が突く。

もう一体が、横を薙ぐ。

三体目が、背後から気迫だけを縮めてくる。


太刀筋が、間に合わない。

防御も、回避も――無へと葬られていく。


「――ッく。」


剣で一撃を受け流すのも一苦労で。

反動で、肩が喚く。


意識が錯乱して――

身体がこんがらがっているのに。


さらに、もう一撃。


足を払われた弾みで――地面に叩きつけられる。


ただ、堕ちるという感覚だけが、

脳を渦巻いて。

諦めを、過ぎらせる。


……このまま、じゃ。

  本当に。


力を興すたびに、意識が霧へと誘われていく。

すべてを同化させるような、混沌を手びいて。


何が本物なのか。

どこが死角なのか。

それすらも、わからない。


ひとりひとりが、明らかに同じじゃない。

似ているのに、動きの癖も重心も、違っていて。

模倣かどうかも、疑ってしまうほどで。


息が、荒くなる。

肺が、悲鳴を上げている。


一太刀振るうごとに、体力が削られていって。

だんだんと、死の連鎖へと巻き取られていく。

隙を見せたら、付け込まれるような毒気を帯びて。


「ハッ、ハッ……ッ!」


膝が、戦慄く。

剣を握る手が、ぬるくて。

それが血なのか、汗なのかも、見分けがつかない。


それでも――

歯を食いしばる。


ここで倒れたら……

もう、二度と、エミレは目覚めない。


そんな予感だけが、気力を迸らせて。

剣を、振わせつづける。


けれど。

応じるごとに、どんどん間合いが詰まっていって。


――囲われる。


その光景が、全身に……

正義という名の絶望感を灯す。


限界が、皮膚の内側から這い寄ってくる。

鼓動の模様を綻ばせるように、通告を催して。


……ごめん、エミレ。

  ぼく――。


声にすらならない想いが、喉の奥で腐っていく。

制裁に跪くような、従属を掠めながら。


逃げ場もなくて。

希望も砕けて。

リュドエールルも、もう、重すぎて。


もうここで、終わってしまえたら。

そんな考えがよぎった――その瞬間だった。


――グガッ!!!


破裂するような足蹴。

星を穿つように、霧を散りばめていく。


白装束たちが、轟音とともに吹き飛ぶ。

雷電のごとく、火花を興しながら――


「……ッ!?何が!?」


唐突な轟き。圧倒的な衝撃。

空間を克ち割るような足音が響く。

濃い重低音。嵩張った怒号。


「ああ、もう!!」


「ったく、なんで俺様が、甘ったれたガキのおもりなんか――!」


そこには、明らかな親しみが滲んでいて――

心臓が跳ねる。


霧が両断された先。

佇んでいたのは――


「……レシャミリア!?」


その名を呼んだ途端。

身体が綻んで――誓いが浮かび。

硬直していた感情が、一気に流れ出す。


ずっと、どこかで祈っていた。

――来てくれるんじゃないかって。

信じてた。


その願いが、いま、目の前で起きていて。


心の皺が、整えられていく。

水が流れ始めたような、初々しさを弾けさせて。


「……お前さ、ほんっとにバカだな。」


「ほんっとに、バカ、クソバカすぎる。

 アホ、頓珍漢、脳足りん。」


呆れるような、刺々しい罵倒。

でも、それすらも――

このときだけは、心に熔けこんでいく。

歯車が微かに動いて、熱を熾すように。


「――あーもう、くそっ。

 ……腹立ちすぎて、帰れなかったじゃねぇか。」


「自分だけケジメを付けたところで、誰が納得するかっつーの」


罵倒を崩すような、叫び。

そこには、鳥かごを蹴り潰すような悔しさが滾っていて。

鎧が、剥がれていく。


「ああ、もう本当にクソ。

 ……なんで認めねぇといけねーんだよ。」


レシャミリアの手が、宙をぶらつく。

霧に照らされた、星屑を掴むように。


握りしめていた拳を、

――抱き留めるように。


「……仲間だろ。

 俺様と――お前は、よ。」


その詞に、思考が咬みあう。


――仲間。


その時が、やっと満ちたと告げるように。

星屑に、名前が、繋げられる。

ずっと欲しかったと告げるように、喜びを零して。


「おま、仲間って――」


吐息越しに、驚きが漏れ出る。

その響きが、あいつの心をくすぐって――。


「黙れ。

 文句があんのかよ!?」


「は?

 うるさ。」


「……文句なんて、あるわけねーし」


くだらないやり取りが、瞬く。

でも、そこにちゃんと、確かなつながりがあって。


そのすべてが、何度も何度も、歯車を掻き鳴らしてくる。

想いを交わしながら、時に、恥ずかしさを尖らせて。


「いいから、やるぞ。

 ……シルア」


「当たり前だ。

 ……レシャミリア」


歯車の響きが、背中越しに、名前を呼ぶ。

共鳴した鐘が、星屑を結んだまま。

たしかに、僕たちは、ここにいた。

読んでいただきご覧下さり、ありがとうございます♪

どうも、ルアンです٩(๑˃ ᵕ ˂ )و


へへへへ美味しいよね

まぞでてぇてぇ


....んだけどww

ごめw

あとがき明日で

テストがあるんだべ(*ノ>ᴗ<)テヘッ(((危機感w


今日はほうろこうを読み込んでくれええええ!!!

あとがき出しておくけんな!!

それで予想するんやあぁあー!!

ルアンのいうことをぉお!!


てなわけで、リンクから飛んでみてくださいよ( ̄▽ ̄)

楽しく語っておりますのでネ...ふふふ

このバカどもを踏まえて

君たちへの想いも込めて綴ってるからさ

→ https://ncode.syosetu.com/n9016kh/47/



3100PV達成してるし、リアクションも続々とついてて...!!

本当にありがとうだよ君たち!!

てなわけでお暇するぜよ( ̄^ ̄)ゞ

次回は8/1かな!!遅くてすまぬな

じゃぁ、またね((ヾ(⁎•ᴗ‹。)フリフリ♪

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