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第三十八話 バカは、鳴れない歯車を掻き回す ーーまだ褪せていく、その理。

SIDE シルア


「ここが、宮殿。

 ……プレミエールの中枢、ってとこだな」


レシャミリアの声が、空気の層に溶けていく。


目の前には――

陽光を受けて、緩やかに煌めく、鈍色の壁が。

こびり付いた年月から、既視感を滲ませて、佇んでいた。


けれど、その鈍色は、決して無機質ではなくて、

ただ静かに、何かを見つめていた。


色褪せかけた苔の匂い。

削られてもなお残る紋様。

そのひとつひとつに、心の奥がざわめく。

なにかが芽吹くような、未熟さを駆け巡らせて。


でも、この鼓動の感覚を、言葉にするには早すぎて。

黙ったまま、少女を抱きしめる。

溶けた空気に共鳴を託すような、暖かさを込めて。


ふと、目線をあげると――

思ったよりも、屋根は低くて。


天を穿つほどの威厳はなく、

届きそうな距離で、ただ静かに、息をしていた。


その不完全さが、妙に心地よくて。

……なんとなく、心の皺が整えられる。


そして――


「前にも言ったろ。

 この扉が開いたのは、一回だけだ。」


背中をなぞるような声が、鼓動に重なる。

星屑に水玉が絡まった、瑞々しさを溢れさせたまま。


そこに、微かな呼応が生まれた気がして……

思わず、頬が緩む。


この胸の弾みが、自分だけじゃないような気がして。

確かめるように、拳に力を入れる。

額が疼いたときの、しなやかさを揺らめかせたまま。


けれど、その余韻を霞ませるように……

レシャミリアの視線が、僕を射貫いてくる。

繋ぎ止めた鎧を、再び纏うような、冷徹さを振り絞って。


「――で、お前が言っていた『西の地』ってのは、ここ。

 ……まぁ、勘だけどな。」


ここが……西の地。


その響きに、疾風が巻き起こる。

少女の微睡を、さらに深くへと堕としていくような、残酷さを帯びて。


鼓動が、褪めて、早まる。


誰にも触れられたくなかった追憶の襞に、

急に指を入れて、穿られたような感覚。


見える景色が、ふっとぼやけて、

重厚感が、肺を蝕み続ける。


……でも、それだけだった。


心の底で、何かが微かに鳴り響く。

名のない空白が、背中を押してくれるようで。


目を伏せるでもなく、逸らすでもなく。

ただ――見据える。


弓のように、引き絞って、透明なまま。

栞を噛みしめるように。


「……んじゃ、俺様の役目はここまでだ。

 ギルド長としての、な。」


レシャミリアが、片腕をあげて、手を振った。

鳥かごを愛でるような、虚しさを募らせて。


けれども、その奥には――

しがらみを取り払うように。

檻をほどくように。


自由が、湧き上がっていた。


だから。


「ああ、ありがとう。助かったよ。

 ……ギルド長さん。」


余白に、そっと詞を滑らせる。

向日葵の面影を、彩りながら。


もう、その手を握り締めない。

もう、手招かれた謎も熾さない。


握った拳越しに、麗らかな水が結びついていたから。


それだけで――今は、充分だ。


「じゃ」


ゆっくりと、歩んでいく背中に。

ことばを、手向ける。


滲んでいた本音を、抱きしめて

――踵を返す。


掌に掛かった歯車は、きっと、疼いていた。

けれど、その感触を確かめないように。

ただ静かに、前へと歩を進める。


一歩、また一歩と。

足音が、揺らめいて響く。

深海の底のような、さざ波をはためかせて。


風が音を吸い込んでいく。

空気の輪郭を、ひとつ、またひとつと剝がすように、乱雑に。


風に呼応するように、汗が服に這い寄る。

生気を奪い取るような、不可解さを醸し出して。


やがて、眼前に――扉。


金属とも石とも似つかないその質感が、表面をなぶる。

語られなかった歴史の皮膜のように、ざらざらと。


濡れたような鈍い光。

人知の届かぬ静寂さ。

周りに溶け込む荘厳さ。


そのすべてが、『異端』で。

……神々しかった。


そこに在るだけで、あらゆるものを選別するような、

――傲慢さがお辞儀をしていて。


青い残滓を、弄んでいた。

煙でもなく、光でもなく。

ただ、霞がかって、聳え立つだけ。


それでも――呼ばれている。


そんな、気がした。


レシャミリアの言葉が、過ぎる。


『この扉が開いたのは、一回だけだ。』


それは、『開かれた』というより、

『許された』というような響き。


視界の端で、少女の睫毛が微かに舞う。

……まるで、問いかけに応えるような、鍵を揺らめかせて。


僕は、手を伸ばす。

祈るように。

確認するように。


静かに、取っ手に触れる。


指先に伝う、扉の静けさ。

まるで心の奥に、異物が差し込まれたようで――。


「……あか、ない。」


終止符を掠めるような呟き。

唇に残った言葉の温度が、風の中で渇いていく。


掌に残ったのは、拒絶ではなく――応答のない虚ろ。

押し返されることも、拒まれることもなく。

手を伸ばしたことすらも、なかったかのように――。


取っ手を掴んだままの手が、所在なく(から)を仰ぐ。

握った感触さえ、夢のように剝ぎ落とされていく。


……その先には、何もなかった。

名前も、誓いも、存在も、白くほろ失せてゆく。


胸の奥で、なにかがひとつ、波紋を垂らす。

直観を穿つような、やるせなさを悼んで。


呼ばれていた気がした。

なのに。

扉は応えなかった。


静寂が、耳の底を塞いでいく。

霞の中で沈んでいくのは、自分か、扉か。

それすらも、不透明で。


何も起こらないという出来事が――

あまりにも重たくて、恐ろしくて。


本当にこれで終わりなのかと、何度も自分に問いかける。

縋るように、悔しさを滲ませて。


エミレを、ひたすらに、抱きしめる。

身体中から、願いを搾り出す様に。

世界に揺さぶり届けるように。


――君を、掬えますように、と。


息が、詰まる。

胸の奥が、嘆く。

願いが、どこにも響かないまま――

古びた絵の具へと、黒く澱んでいく。


……時間が、わからなくなるほど待った。

それでも、何も、変わらなかった。


その時。


理が、切り替わったように。

耳元でも、足元でもない。

遠くも近くもない、ただそこに『在る』。

存在をすらも持たない『声』が、吹き抜ける。


扉でも、歯車でもない。

記憶も外形もない、けれど――決定的な、音。

けれど、紛れもなく、否応ない――通告。


――まだ、『始まり』を知るには、早すぎる。


その言葉に包まれたとたん。

取っ手が、ふっと影へと透ける。

触れていた指先が、虚空をすり抜ける。


視界の輪郭が、ゆっくりと朧げになっていく。

日常がひしゃげて、色が、音が、褪せていく。


まるで、聖画の中に這いずり込まれるように。

まるで、導線の意図に陥れられるように。


足元が崩れ落ちるように、重力が裏返った。

気付けば、足が宙を浮いていた。


温もりが、こぼれる。

このままだと――また、離れていく。

だから、手を――。


「――エミレっ!?」


「カキェイ!?」


けれど。

声が届くより早く、

少女の名が、霞へと歪んでいく。


次の瞬間――

僕は、闇へと吸い込まれていった。

ご覧いただき、読んでくださりありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

どうも、ルアンです!!


まずは!!

ほうこう次の話だよぉわっひょい!!

って、喜ばれていた皆様....!!!(ルアン含め((

ごめんねっ、一旦今話はここで区切らせてもらっちゃったから!!

本編に合わせて、ほうろこうで振り返ってほしいからさぁ...もうちょい待ってておくれ( ; ; )


そして、今話はええ

錦の色付けの間と間の余白です


...と考えると

謎に落ちていったシルア&リュドエールル!!

そして、エミレはどうなるのかというね( ̄∀ ̄)


そわり回デス


んー言いたいことは、全部ひとまとめにして後書でいうつもりだけど...

前話のレシャミリアを深掘りすぎて、シルアに気持ち寄せるのに、めちゃくちゃ話し合った。

特に1番最初の感情のゆらめきとかは特にね..!!


んーあとは後半の落ちるところとか

落ちる?!え!?やばゆ

って表現したかったから、結構比喩削ったかも...??

って思っておりまする!!


ま、明日はね、ほうろこうまで綴りますんで、皆様また明日ってことでお暇しますかな\(//∇//)\


本編にブクマ、リアクション、評価が入ってて!!

本当にめちゃ大感謝です...これからも頑張りぜよ(๑و•̀ω•́)و

しかもさ!!

あとがきにも!!

ブクマが!!

ありがとおおおおおうううう!!


ほうろこうを楽しみにしてくれてるの伝わったよ!!((ルアンが語りたいだけだろ


いやびっくりしちゃって

今日は昇天しながら1日過ごしたわよんww


本当にいつもありがとうね...!!

っていうか日付超えてる!?

寝ないと吾輩!?

げなわけて!?

おやすみ!!

休日、休むんだぞ

じゃまたねっ( *´꒳`*)੭⁾⁾

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