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第三十八話 バカは、鳴れない歯車を搔き回す ーー歯車に映る、ふたつの沈黙

今日も5000文字近くあるから長い!!

まじでいつもながらに遅くてすまぬ...!!

SIDE シルア


――ザッ、ザッ。


刻まれていく足音が、少しずつ僕の思考を澄ましていく。

土に黙る水分が、弾けていくような神秘さを漂わせて。


目の前の影がぎこちなく揺らめいて、僕の影にぶつかる。

けれども、もうそこに、さっきまでの燻りはなくて。

少しずつ、重なって、同じ方向へと進む。


視線をはためかせながら、何度もレシャミリアの言葉を踏みなおす。


――エミレを助けに、プレミエールへ行く。


その実感が、霞まされていた遺詞を呼び寄せる。

まるで、雪の囁くような凛々しさを波立たせて。


『青き少年よ――西の地へ征け。』


『始まりが、そこにはある。

 ……淡き夢を呼び起こせ。』


『さもないと、また、エミレは……』


霧の降りしきる、あの世界で放たれた警告のような言葉たち。


あの時は突然のことで、深く受け止められなかったけど

――今なら、その言葉の意味が、解る気がする。


そんな、妙な確信が僕の心で渦巻いて、たったひとこと、穿つ。

蒼穹に飛び込むような、思い付きを纏って。


「ねぇ、エミレをプレミエールへ、連れて行っていい?

 ……連れて行かないと、ダメな気がするんだ。」


しゃぼん玉のように言葉が浮ついて、自分の心をざわめかせる。


挟んだ誓いが、少し虚空を囁く。

生まれる違和感を、巻き取りながら、そっと。


プレミエールに、行って何が起きるのか、わからない。

……眠ったままのエミレの身を守り切れるか、さえも。


わかっている。

連れて行かない方がいいだなんて。


でも、すこしでも。

そう、少しでも――


エミレの傍にいたいって思ってしまった。


言葉の先にいる奴が、

誰も完全じゃなかったなんていうから。


すべてを赦さない代わりに、

すべてを責めない代わりに。


――抱きかかえて、進む。


そんな張り裂けそうなほどの痛みと、覚悟が滲んでいたから。


……なら、僕だって。


僕だって、そうしたいと思ってしまった。


あんなふうに、誓ったのに。

「迎えに行くから」って、彼女の髪に触れたのに。


今ここで置いていくなんて、

――できるわけない。


たとえ、プレミエールで、何が待ち構えていようと。

この手で、彼女を守り切って、目覚めさせる。


それが、なによりも、誓いを深める気がして。

雪の奥に閉ざした温もりを、一瞬だけ、掴みかける。


「そんなの、お前の勝手にしろ。

 俺様は知らない。」


剥ぎ取れた鎧をなぞりながら、吐きつけられた言葉に。


僕はただ、頷く。

肯定の上に、願いを馳せるように。


これは、僕の勝手で。

僕の祈りで。

僕の最高に格好悪い、わがままなんだ。


でも、それでいい。

この願いが、切望(エゴ)の成り損ないのうちは。


たとえ、赦せなくても。

たとえ、間違っていても。


僕が、彼女の傍にいたいと思うことだけは、

――嘘じゃないから。


きっと、贖罪はもう、終わっているんだ。

自分の弱さを認めて、前を進む。

それだけで、十分なんだ。


だから、誓いの解れを直す様に。

拭き忘れていた、感情の澱を――

そっと、抱きしめる。


また溢れ出してきた雫が、地面を肥やす。

次に芽吹く種へと、そっと希望を込めて。


「そうと決まれば、早く支度しろよ。

 ……エミレの分も。」


ふと。

レシャミリアの視線が、雫を弄ぶ。

相変わらずの曖昧さを瞬かせながら、一途に。


「ここからプレミエールは、馬車で3日はかかるぞ。」


堰を切るように、レシャミリアが早口でまくし立てる。

俺様を待たせるな、と言わんばかりの勢いで。

微かに、風を蹴り上げる。


「うん、そうする。」


たとえ、何度、涙がこぼれようと。

小石を握るように、脚を進め続けた。


彼女を――本当の意味で、迎えに行くために。


****


車輪がぬかるんだ土を踏みつけ、緩やかに揺れながら、馬車は前へと進む。

馬車の中には、ほんのりと青臭い藁の匂いと、ぎこちない沈黙が漂っていた。


目の前には、レシャミリアが。

虚ろに空を眺め、ただ時を移ろわせる。


視線の先に広がっている蒼穹は、ひどく透明で。

隣にいる気配を、隠しているように感じさせる。


静かな、寝息とも、吐息とも取れない、

小さな音色が、沈黙を、控えめに誤魔化す。


その誤魔化しを繋ぎとめるように、

肩の上に圧し掛かったままの質量が、一瞬、宙へと跳ねる。


――バゴッ。


道の段差に、車輪が唸り、肩を揺らす。


僕は、隣に視線を移して、そっと腕で引き戻した。

贈り物を包装紙に包むように、繊細さを添えて。


肩越しに伝ってくる体温が、春風のようで。

僕の意識は、少しずつ微睡へと誘われていく。


けれど、栞が紐解かれるように。

勢いで流していた、疑問を手繰り寄せる。


噴き出してきた違和感に耐え切れなくて、

唐突に、沈黙を打ち破る。


「そういえば」


ほんの少し、目の前の影が揺らめく。

驚きと、あっけなさをまぶして。


「……なんで、いきなり。

 プレミエールに行こうって言ってきたんだ?」


いつかの意外さに霞まされた、純粋な問いかけ。

その問いが、一滴の火薬を垂らす。


僕が夢で見たあの言葉のすべてを、レシャミリアは知らないはずなのに。

なぜか、プレミエールを選んできたことは、偶然じゃない気がして

――その謎が、ずっと心の中で染みついていた。


「それは……なんとなくだ、なんとなく。」


空を眺めたままの言葉が、空気に澱みを落とす。


ふと、見上げると。

レシャミリアは、頬杖をついて、口を結んでいた。

硬く、秘宝を守るように、重責をちらつかせて。


その佇まいが、星屑と擦れ合って、拳に熱を残す。


「なんとなくって……濁しすぎだろ。

 最低限、理由ぐらい教えろよ。」


無意識に、語気を強める。

視線をすれ違わせたまま、声だけをぶつけた。


「……前に言ってただろ。

 お前が、夢で『西の地に呼ばれた』って」


「そこに――なんとなく、心当たりがあるだけだ。」


渋々と言わんばかりに、レシャミリアは言葉を切る。

言葉の先を昇華するように、視線を僕の隣へと移しながら。


また……『なんとなく』って。

掘り進めても、かさ張る疑念が、心をさらに掻き鳴らした。


でも、あと一歩で、鍵がつかめる気がして――

反射的にその先へと、手を伸ばす。

その先に、防壁が張り巡らされているのを知らずに。


「その心当たりって?」


刹那。

レシャミリアの視線が、鋭く僕の目を射貫く。

聖域を踏み滲ってきたとでも言いたげに。

ひやりとした緊張が、肌を撫でる。


その勢いのまま、口をゆがめて――


「誰が、俺の専属冒険者になってないやつに言うか。」


鋭く、言葉をはたきつける。

役職という仮面をかぶるような、よそよそしさを嗅ぐわせて。


「は?それとこれとは別だろ。

 っていうか、お前的にはもう僕とエミレは専属って……」


呼応するかのように、言葉を投げつける。

星を綴じた砂が手をすり抜けていくような、空しさを嘆きながら。


「ふん、そんなもん。ただの口約束だ。

 これだから、ガキは……」


虚しさを嘲るような、鼻笑い。

その言葉の温度差が、肌の奥にじわじわ沁みる。


……()()、これ。


わかってるくせに、わざと突き放すような言い方をする。

本当は、そんなこと思ってないなんて。

もう、僕はわかっているのに。


胸の奥が、ひしゃげる。

なのに、もう拳も額も疼かなくて。


これ以上、藻掻いても無駄だって、知ってるのに。

それでも、わかるようになってことを、証明したくなる。


――僕たちは変わったんだって。


その寂しさを際立たせるように。

肩越しに伝わる質量が、心なしか重くなる。

質量の奥に眠る、存在を仄めかしながら。


だから、余計に示したくなる。

君がいなかった間に、結び直した誓いを。


だけど。


言葉が、見つからなくて。

わかりあえたはずだったのに。

感じあえたはずだったのに。


なんで……。


「ガキガキガキガキ、いつもうるさいんだよ!!」


ガキって言葉しか、出ないんだよ。


口約束の奥にある影が、深まっていること。

知っているのに、歩み寄れたはずなのに。


もう少しで、手が握れる気がしていたのに。

ほんの少しだけ、言い方を間違えただけなのに。


そんな僕の気持ちに呼応するように――

レシャミリアの瞳が、一瞬曇る。


だが、すぐに。

その瞳も、藍色へと沈んでいく。


荒波が砂の奥に潜む、星屑を呑み奪うように。

崩れ落ちていく虚しさを塗りたくりながら。


「事実だからしょうがねぇだろ?

 旅に出る直前も、ピーピー泣きながら、強がってたくせに」


――バキッ!!


罵声を飛ばした瞬間、またもや馬車が弾ける。

春風の余韻を描き消して、鉄線に火花を孕ませるように。


その弾みに合わせるように。

肩に沈んでいた温もりが、ゆっくりと、

でもはっきりと――離れていく。


包んでいたはずの重みが、静かに抜け落ちる。

指の隙間から、さらさらと砂がこぼれるように。


無機質に、鉄槌を下すように、線を引きながら。

その境界線は、僕の中のなかの何かを容赦なく、断ち切っていた。


やわらかな質量は、言葉を交わせないまま。

荒波の向こうへと、沈殿していく。


……あ。


声にならない後悔が、胸の奥で泡立つ。

けれど、その泡沫は捉える前に、霧散してしまって。


やっと、認める。


……もう、届かない。

あの日の繰り返しだ、って。


「……ああ、そうだった。

 やっと、思い出せたよ。

 お前はそういうやつだったよな。」


額に、痛みが再び過ぎる。

烙印のように、ゆっくりと重さを刻みながら。


レシャミリアだけじゃない。

僕も、だ。


僕らはきっと――まだ変わっていない。


拾いかけていた絆も、温もりも。

簡単にほどけて、すり抜けて、消えてゆく。


そのなによりの、証明に。


「は?シルア、お前いまなんて言った?

 また、やんのかよ?」


レシャミリアが、拳を構える。

座ったまま……けれども、底知れぬ威圧感を纏わせて。

握られた拳が空気を貫くように、じり……と威嚇する。


その眼は、ひたすら静かで。

けれど、それすらも恐れているようで。


僕も、その脅しに応じようとする。

拳を握り締めようと――した。


けれど、もう。

拳は動かなくて。


力を入れても。

風船のように、しぼんでいくだけで。

腕に、力が入らない。


――これ以上は、拳を交えても、何も変わらないって。

悟ってしまっているから。


それでも。


指先に、僅かに力を込めようとしたその時。


「カキェカカカカッ!!!

 キャピッケ!」


背中で、リュドエールルが暴れる。

激しく、姿勢を崩させるように。


羽音と共に、服を引き裂くような一撃が、僕の肩甲骨を掠めた。

『もうやめろ』という、呆れをまき散らして。


「「っち」」


お互いに、血のにじんだ舌打ち。


口にしかけた文句が、唇で途切れる。

怒りじゃない、情けなさでもない。


そこにあったのは、

どうしようもない……安堵で。


お互いに、感じあっていた。

もう少しで、また、間違えるところだったって。


緩んだ拳が、だらりと膝の上に落ちる。

無力さを強調するように、空気を逃しながら。


視線を、伏せる。

もう、この先の感情に、名前なんて付けたくない。


「……もういい。」


どこか、吐き出すような声。

けれども、その芯には確かに、ひとつの区切りがあって。


その終わりを告げる言葉の奥に、

これ以上傷つけ合わないように、という無様な理性が蔓延っていて。


一瞬の静寂が、息を詰める。

音も光も遠ざかっていくように、時だけが流れる。


お互いに、何かを言おうとした。

けれど、言葉にならなくて。


出しかけた本音が、未熟な意地に嚙み砕かれる。

ほんの少しの後悔と、擦り付け合うような期待を背負って。


そこに――


「……それは、こっちの台詞だ。」


レシャミリアの声が、静かに垂れ落ちて、重なる。

わずかな心の緩みと、痛みを交じらせながら。


わずかに、視線が交差して、

どちらからともなく、視線が逸れる。


わざとらしくない速度で。

お互いの心のせせらぎに、間を置くように。


もう、これ以上は掘り返さない。

けれど、完全に閉ざすわけでもない。


小さく開いたその隙間が、

なぜか、すこしだけ救いに感じられた。


歯車が、噛み合いそうで、噛み合わない。

けれど、まだ、完全には壊れてない。


僕たちの間に、再び沈黙が戻る。

……でも、戻ったのは、それだけで。


風の音だけが、草を揺らめかせる。

交じり合わない季節どうしを、惜しむように。


そうして、視界の先に――見えてくる。


城壁。

高く、草原で、雲に届くほどの存在感。

空を切り取るその姿は、神話のように輝いていて。


予感の先で、鳴り響く『再出発』の鐘が、無気力に。

けれど、突き抜けるように、心を抉る。


「……ついたぞ」


「プレミエールに。」

読んでくださり、ご覧くださりありがとうございます。

どうも、ルアンです。


えとね...全然深めたいところ深まってなくて...明日か明後日までに1話出して、そこであとがき書くね!!


ほうろこうはできてるんだけど...違うんだ!!

時が満を持していない....くそぉルアンの筆!!


ちょと今日は夜更かしできないので、心に優しくいきさせて!!


あとひと言だけ!!

こいつら、バカだけど!

同じことまた繰り返してるけど!

ほうろこうだから、大丈夫!!((謎

ちゃんと違うから大丈夫!!


ちょと限界だ...何言いたいか忘れちゃったな...

まぁバカどもに託したから大丈夫なはずദ്ദി ˉ͈̀꒳ˉ͈́ )


大丈夫星人になっててごめんwww


けふはもうここまでで...プレミエールへの思いを馳せといてくれ( ; ; )


じゃ、今日も読んでくれてありがとう!!

またねっ(*ˊᵕˋ*)੭ ੈ


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