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第三十二話 覇者よ、雪の溶けた濁流いかならむ

SIDE ショーン


……ドクンッ。


ひとつ、脈が打たれる。


……ドクンッ。


またひとつ、確かに。


世界を揺るがすように、鳴り響く鼓動。

そのたびに、空気に狂気が堕ちる。


海月のようにゆらめく大気は、静かに肺へと忍び込む。

吸い込んだ瞬間、痺れるような痛みを体内へ広げる。

まるで、命を削り取るために編まれた蜘蛛の巣のように。


シルアは、拍動を始めた()()の前に立ち尽くしていた。

霧に包まれたように茫然とする意識の中、それでも懸命に途切れそうな思考を繋いで。


――そのとき。


「キャレ。」


静かな金属音が――リュドエールルが、混乱の中に道を示す。

落ち着きを纏い、ひんやりと、はっきりと。


「そうだ」


シルアは、顔をあげた。


視線の先には――金属で造られた球体。

まるで何かを誘うように、脈を打ち続ける『装置』。


(これが、魔物巨大化装置なら――)


早く壊さなければ。

焦燥と重圧が、指を力ませ――


「おりゃあああああ!!」


叫びとともに剣を振るう。


残像が空気を裂き、凄まじいほどの旋風を巻き起こす。

その一撃に、リュドエールルが乗った。


風を背に、球体へと突進する。

矢のように、鋭く、勢いよく。


――刹那。


ギュニュッ。


生々しい湿度を掴んで、響く。


まるで、血を吸った肉片が擦れ合い――絡み合ったような不快音。


……否。

『ような』ではない。


それは、まさに――現実だった。


血の香りと肉の熱が、空間に充ちる。


「ッ!?」


息を呑み、目を見開く。

体内に入り込んだ空気は、どこか濁っていた。

湿り気を帯びた正気が、肺の奥まで染み込むような感覚。


リュドエールルと、球体の間に――


何かが、立ちはだかっていた。


それは、壁。

けれど、建造物のような硬質なものではなく――

まるで、生まれかけの皮膚。


再生しかけた肉が、ずるりとむき出しのまま脈打っていた。

所々に点在する青い鱗が、皮を這いずり回っているようで。


赤黒い肉片が、意思を持つかのように蠢きながら――

必死に、球体と、その奥にある『心前(しんぞう)』を庇う。

伸びて、縮んで、ぐちゅぐちゅとぬめりながら。


「再生……した?」


シルアの声が、自然と掠れる。

その震えには、地震でも制御できない本能の怯えが滲んでいた。


「シルア、危ないでごわす!!」


叫びと同時に、ぽわタンがシルアの背後に回り、抱きかかえる。


瞬間。


――ギャビリイイ!!


灼熱の閃光が、ドラゴンの喉奥から放たれる。

濃縮された光の奔流が、空間を抉りながら一直線に走る。


すれすれで回避したその腕の中で、シルアはただ――

ぼんやりと、その光線を見つめていた。


まるで、魂を置いてきたかのように、ぶらぶらと紙のように四肢を垂らしたまま。


ぽわタンは、抱えたシルアの無事を横目で確かめながら、

その身に緊張を走らせ、急いで地上へと降下する。


(予想外でごわす……)


ぽわタンのこわばった額から、滲んだ汗が滴る。


「あのドラゴン、まさかでごわすが――」


地上に足を付けた途端、ぽわタンはミカレ達の方へと駆け寄る。

その影には、焦燥と驚愕が浮かび上がっていた。


「……再生持ち、だね。

 しかも、それだけじゃなくて。」


エミレは、低く抑えた声で告げる。


そうして、真っ直ぐと視線を向けた。

わなわなと手を震えながらも、事実を受け入れつつある少年へと。


「魔物を巨大化させる装置が、埋まってた……。」


シルアの口から、吐くようにあふれ出た言葉。

震えた声が、行き詰まった苦しみを咥え――


沈黙を落とす。

重い雰囲気が場を支配し、現実を噛みしめさせた。


「……レシャミリア様に、いったほうが、いい?」


ミカレの声が、か細く揺れる。

控えめに破られた沈黙は、床に沈殿した。


「いや、レシャミリア様はすぐに戻ってくると思うでごわす。

 あのお方、察知能力が……桁違いでごわすから。」


静かに、ぽわタンが応じる。

その声高には確信が宿っており、揺るぎがなかった。


エミレはわずかに頷き、視線を前へと戻す。

彼女の目には、決意が灯っていた。


「じゃあ、やるべきことは――変わらない。」


『あのドラゴンを倒す。』


握った残酷さに、真っ直ぐと突き付けられた事実。

そこには、希望の刃のようで、絶望の情景が浮かんでいた。


エミレの声がすべてを物語る。

諦めと、光を差し伸べるような余韻を残して。


「でも、どうやって倒せばいいんだよ!?」


だから、シルアは抗う。

怒りと混乱と、恐怖と絶望と――混沌を体現して。


その叫びに応えるように。


「ひとつだけ、ある。」


エミレが、沈黙を凝らす。

まるで、その声が深い淵から這い出したように重く澱む。


「まさか――」


悪寒が、シルアの背筋に沈む。

想像しただけで、臓物がつぶれるような――悪夢の可能性。


「そう。

 私が、ドラゴンの体内に入ればいい。」


エミレが、淡々と呟く。

そこには、明らかな冷酷さと覚悟が佇んでいた。


シルアの顔が、強張る。

それは感情の吹き出しというより、内側から込み上げる拒絶そのものだった。


彼の瞳に浮かぶのは、明確な『反対』の意思。


「そうすれば、創無花(クレア・ニイロ)でドラゴンを内部から破壊できちゃうでしょ?」


エミレが、軽やかに腕を広げた。

その冗談めいた動きが――歪さを帯びて反響する。

さらさらと、濁流で押し流すように。


「だけど……」


シルアの囁きが、転がり落ちる。

水を阻む小石のように、尖ったまま。


だが――その緊張を、ミカレは拾えない。


エミレの流れに乗るように、わざとらしく親指を立てる。


「だいじょぶ。

 そんな、気が、する。」


「そうよ、ミカレ!!よくわかってるじゃん!!」


エミレが、勢いよく指をさす。


「私は、天才美少女エミレ様だよっ!!」


「ドラゴンに入って、虚空に還すなんて、ちょちょいのちょいよ!!」


冗談交じりの軽さが、現実を上書きするように場を飲み込んでいく。

まるで、張りぼての堤防が、濁流にのまれて崩れる瞬間のようで。


それでも、シルアは拳を握る。


――(……エミレを信じよう)


その言葉だけを、胸の奥に強く彫り刻む。


「……わかった。

 でも、その代わり――僕にドラゴンまで送らせて。」


エミレが、いたずらっ子のように唇をゆるめた。


疾穿箒閃(セルヴヌ)で?」


「うん」


「ふふふ……じゃあ、頼んだ。」


エミレが、軽やかに告げる。


「シルア、私を連れてって!

 ――ドラゴンのもとへ!」


そう言い切った直後――


「……って、」


「え?え?」


「なんで、お姫様抱っこなの!?!?」


エミレの声がうわずる。

その顔には、抗議と混乱と自尊心の崩れる様が一気に噴き出す。


「え?だってそのほうが運びやすいし……?」


シルアは真面目な顔で、きょとんと返すが――


(運びやすいから、だけじゃない気もするけど。

 気のせいかな?)


「キキャリ……」


リュドエールルが、何かを憐れむように鳴く。

呆れと、ひとときの日常を込めて。


「運びやすいからも、何もないわよっ!!

 私は、シルアに――ショタに担がれるほど幼くない!!」


「ちょ、エミレ暴れないでってば!!

 ショタショタばっかり言うけど……僕の方が身長高いし。」


「なっ!?

 ていうか、なぜショタという単語をっ!?」


「んんっ……」


シルアは、短く咳ばらいをする。

エミレの抵抗と、心の奥に眠るこそばゆさを誤魔化すように。


彼が真顔になるや否や、空気が変わる。

さっきの軽口が嘘のように、

真剣な沈黙がふたりを包んだ。


「ほら、エミレ――もう行くよ。」


シルアの声が柔らかく、それでも芯が通っていた。


「むうう……」


エミレが小さく唇を尖らせる。


「旋風よ、空間を導け――疾穿箒閃(セルヴヌ)!」


詠唱が走ると同時に、風が唸り、世界がひずむ。

一陣の旋風が渦を巻き、リュドエールルの周囲に虚空が裂ける。


瞬間、景色が滲む。

空気が身体を貫いていく――疾走する魔法の奔流に抱かれながら、

シルアの思考だけは、妙に静かだった。


(……いじけさせちゃったかな)


視線は前を向いたまま。

けれど心だけは、腕に抱いた少女のもとへと引き寄せられていた。


(このまま、なにも言わないで行っちゃうのは――

 物足りない気がする。)


目的地の眼前。

漂う血と、焦げたにおいに、意識が引き戻されかけた、その瞬間。


「シルア」


小さく名前が呼ばれた。


「いってくるね」


奥行きのあるひとこと。

不安も迷いも、全部呑み込んで、それでも笑おうとする声音。


「うん――いってらっしゃい。

 エミレ」


「キャケッピ!!」


――ギャアアラアアッ!!


耳を裂くような咆哮が、前方から降りかかる。

ドラゴンの口が開く。

烈火と、瘴気が囂々と渦巻き、その奥――喉の奥の闇が、ぽっかりと開いていた。


エミレは、腕の中で、軽やかに身を捩る。


「お邪魔しちゃうね、ドラゴンくん。」


口角を上げて、軽く呟くと。

飛んだ。


束ねた白い髪が、後ろへとたなびき、尾を引く。

名残惜しそうな雰囲気を、押しつぶして


――滑り込む。


時空の割れ目のような口の中へ、まっすぐと。


粘膜が疼き、熱と共に唾液が押し寄せる。

胎児のように、身を縮めて、彼女は闇の中へと吸い込まれた。

読んでいただき、ご覧いただきありがとうございます。

どうも、ルアンです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾


今日そして、明日か明後日に出す次の話では...あとがき出さないよ。


なんでか?

タイトルを見てごらんなさいっ!!


ヒントは、この古文。

雪と見せたまえ。


ふふふ。

まぁ、調べりゃわかるさ。


...だが、ルアンがこの意図を語るのは、ドウア国前編の大詰めだろうけど!((おい


さぁ、混沌の鐘に浸るのだ!!諸君

前回のあとがきで言っただろう!!


考えろ、クセギブで頭を埋め尽くしてしまえ!!(((((


でも、大丈夫。

その歪な余韻を抱えているのは、1人だけじゃないから。


...ううっ

本当ば、ずぎの中盤くらいまで、がごうとおぼったけど、無理だっだぁあんだおおお(T . T)

BYキモい嗚咽Withルアンよりww


前話から61pvいただいておりますっ!!

しかもポイントまで...!!

本当にいつもありがとう(*´꒳`*)


そっと見守ってくれてる君たちにルアンは甘えてばかりですね...本当に。。

しかも、今日は

謎の質問を全力投球して逃げるし。。。(((最低だろw


...んんっ

そうだ逃げるんだ!!ルアンはっ!!w


というわけで、読んでいただき、本当にありがとうございます(720度のおじぎ)


次の話は、涙が抑えられたら明日、、だが、明後日にずれ込むと思っておいてくれよな!!(((


このあとがきなしパートなるべく、短期でずんってしたいから頑張るけどね!!


ということで、みなさん、またねっ(*ˊᵕˋ*)੭ ੈ

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