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第三十一話 シルア、秘月に触れる

SIDE シルア


薫鎧虚残(ザンファルネア)で、混沌を打ち破る!」


声が、空気を澄み渡らせる。

決意を携えて、鋭利に、真っ直ぐと。


だが……


――ギャララァアア!!


咆哮。

ドラゴンが、対抗するように吼える。


大気が軋み、地面を揺らす。

観客の悲鳴が激しく混ざりあい、混沌が唸る。


早く、仕留めなきゃ。

速さ優先――粗削りでもいい。


急がないと……


「シルア!丁寧に動いて!!」


エミレの声が、鋭く思考を遮ぎった。

釘のように突き刺さる必死さが、次の言葉に錆びついた痛みを塗り込む。


「そうじゃなきゃ――」


創無花(クレア・ニイロ)が、君を呑み込んでしまう。


……背筋を、焼けた鉄を孕んだ汗が這う。

冷ますようで、身体を焼き付けるような汗。

恐怖と戒めが、心に火傷を刻む。


――それは、絶対に避けないと。


丁寧に。でも確実に。

そして速やかに。


わずかに頷き、空気を吸い込む。

研ぎ澄まされた空気が、不安を引き締める。

軸を立てるように、強く、重く。


『行くよ』って言ってくれた彼女の想いが、

まだそこには染みついていて――


「リュドエールル、行こう。」


僕の決意と結びつく。


「キャリッ!!」


静かに、一歩。

空気が虚空へと溶け、優しく寄り添ってくる。


だが、次の瞬間。


――ビュン!!


突風のように、背中から激しく押し出される。


振り返るなと背中を押されるように、勢いよく。

けれども、撫でるような繊細さも張り巡らせて。


それが、暖かくて、心地よくて――そっと身体を預ける。


青い鱗にへばりついた泥の匂いが、だんだんと濃くなる。

匂いだけじゃない。


それは、威圧。重圧。

進むたびに臓器が鷲掴みされる。

骨が軋み、灰が膨らむたび、体内が圧迫される。


でも。


風も、空気も――すべて、虚空に溶けるから。

僕の心は、靡かない。止まらない。


気付くと、目の前には()()()

瑠璃色の鎧に包まれた、紅蓮の心臓が硬質な鼓動を刻む。


そこを――突く。


「……ッ!!」


全てを葬る虚空に乗せた、渾身の一閃。

狙いを定め、リュドエールルを鋭く突き立てる。


が。


――カキン!!


甲高く、硬質な金属音。


刃が……弾かれた。


剣同士がぶつかって割れるような、いや、それ以上に冷たく拒絶する音。


「くっ。」


反動が、方から腕を貫いて、骨の髄まで響いた。

手が、全身が、震え上がる。


握り締めるので精一杯だ。


「ギャケッ……!?」


リュドエールルが、切なげな声を漏らす。

そこには、動揺と、何かを訴えるような切実さが。


――ギュラァァアアアア


咆哮と同時に――閃光。

僕を、世界を焼き尽くすほどの白。


視界が眩み、耳が割れる。

感覚が、崩れて痺れる。

その視界を飲み込む閃光の中心に、青く囲まれた心臓が。


理解する。


この一撃じゃ、届かない。

この一振りじゃ、斬れない。


リュドエールルでは――受け止めきれない!!


全身が、悍ましいほどに喚く。

警告。警戒。死の予兆。


……僕も、あの子みたいになるのか?


過ぎるは、混沌。

瓦礫のように重なった――(かたち)亡き残骸。


生きろ、生きろ、生きろ――


全細胞が悲鳴をあげる。


回避しろ、逃げろ、早く。

けれど、焼き尽くすの光が迫る中、僕の身体は凍り付いたままだ。


目を閉じる。

せめて、焼べる痛みが、少しでも優しくありますようにと。


だが……来る、と思っていた衝撃が、なぜか訪れない。


代わりに、

柔らかな旋風が、僕の前に立ちはだかる。


「……大丈夫でごわすか?」


間の抜けた声。

けれども、その奥には甘さのない、確かな温かさが宿っていた。


顔をあげる。


そこには――


雄々しく、真っ直ぐに立つ背中と、

その横にちょこんと浮かんだ小さな影。


ちぐはぐな組み合わせのはずなのに、

ふたりの間には、不思議と『呼吸』があった。


異質な強者の気配――

恐怖だったはずのそれが、今は……頼もしさに変わっていた。


「ぽわタンと、ミカレ!?」


驚いて声をあげる僕に、2人は並んで頷く。


「僕たちも、援護、する、から。」


「任せるでごわすよ!」


眠そうな声と、勢いに満ちた声。


まったく真反対な響きなのに――その言葉は、不思議なほどまっすぐで。


肩に、心に、ぽっと小さな灯がともる。


「……っ、ありがとう。」


本当に、嬉しかった。


あの時、怖かった。

人の死の重さを、目の前で知ってしまって。

残酷で、取り返しがつかないのに――あっけなくて。


そんな味気ない事実が……僕の足を縛った。

閃光から逃げようとしていた、僕の足を。


でも――もう、大丈夫。


ぽわタンも、ミカレも、リュドエールルもいる。


そして――


薫鎧虚残(ザンファルネア)が、微かに揺らめく。

胸の奥に、確かに吹いた風が、心の炎を、より強く燃やす。


怖くても――『死』と向き合おう。

もう二度と、逃げないように。

なにより、死なないために。


そんな感傷に浸りかけていた僕の耳に――


「おい、お前ら、ちょっと待て!」


張り詰めた声が突き抜ける。

レシャミリアだ。


「言わないといけないことがある!!」


彼は、激しく肩で息をしながら、こちらへと手を振る。

だが、その眼は、ただ一点……奥のドラゴンへと突き刺す。


「わかっているだろうが、そいつは――()()()()()()魔物だ!」


ピシャリと、彼は、言い放つ。

感情的ではなく、けれども鋭い、確信に満ちた声。


――やっぱり。


その声が、すっと、僕に違和感の答えを落としてきた。


「つまり、だ。

 ……この会場内に、『魔物を巨大化させている何か』がある。」


彼の視線が、確かめるように周囲を駆け巡る。


「俺様が、そいつを探してくる。

 あの、黒いローブ野郎も含めてな。」


背筋が、冷え切る。

言われて、やっと気付いた。


周囲を改めて見渡す。


広がるは、無数の怒号と、叫び。

そして、ドラゴンの呻き声。


そう、そこには。


……クローブが、いなかった。


まさか。

あいつ、観客の動乱に紛れて、逃げたのか!?


思考が、ぐるぐると駆け巡る。


焦燥と、怒りと、疑念。

ぐちゃぐちゃな感情が、ねっとりと糸を引いて、

心に巻き付き――爆発しようとする。


……でも、わかっている。


怒りのままに突っ走ったって、何も役には立たない。

暴れたって、あいつは戻ってこない。


抑えろ。


飲み込め。今は、それしかない。


「だから――お前らは、そこでドラゴンの足止め、および討伐を。」


ドラゴンを倒さないと。


「「「「了解」」」」


「キャルッケ!!」


声が重なる。

それだけで、抑えた怒りが、少し報われた気がした。


ふと、そんな僕の肩に、あの明るい声が響く。


「ていうか、ノエルおねーちゃんは!?」


レシャミリアの隣にいたエミレが、ひょっこりと尋ねる。


その天真爛漫さが、心を和ませる。

本当に、エミレは……。


少しだけ、頬が緩む。


――どこまでも、変わらない。


阿鼻叫喚に包まれた、この混沌の中でも。


それが、なんだか。

救われるようで。


「ノエルちゃんは観客の避難誘導だ。」


「えっ、うっそ。

 一緒に戦えないのっ……!?」


彼女はしょんぼりとした様子で、膝から崩れ落ちる。

この世の終焉を告げる……ような?

謎の、切なさを帯びて。


それに対し、レシャミリアは、ほくそ笑む。

いつかの仕返しだ、と言わんばかりに。


「一緒に戦う相手を選ぶな。

 ミカレとぽわタンがいるから十分だろう。」


「な、忌々しいやつ!!

 本当に、このクソ……って、来るよシルア!」


エミレの声が、素早く飛ぶ。

振り返る間もなく、ドラゴンが地をたたきつけ、風圧が砂埃を舞いあげた。


「じゃ、俺様は行ってくる。

 なるべく早く戻ってくるから、それまで頼んだ。」


レシャミリアは、軽く手をあげるとそのまま駆けだす。

その顔には、冷徹さで覆った中に、責任感が滲み出ていた。


あ、そうだ。


戦いに戻る前に――

彼女に、()()()()を聞かないと。


「エミレ、鱗を貫通できなかったのって……」


「虚空が、淡すぎた。」


即答。


彼女の声は静かに、壁へと反響する。


感情の起伏のない、淡々とした答え。


でも、それこそが、自分の力と――そして失敗すらも、ちゃんと受け止めているようで。


……そういうところ、本当にすごいなって。

思わず、見とれていた。


 「……たぶん、私の創無花(クレア・ニイロ)が、

 あのドラゴンの鱗を飲み込み切れなかったんだと思う。」


彼女の理性に少しだけ、悔しさが滲み出る。

そして――それでも、止まらない強さも。


「じゃあ、虚空を濃く――鮮やかにすれば、ドラゴンの鱗を破れるかな?」


「恐らく、ね」


一泊の間のあと、彼女はふんわりと微笑む。


なんでだろう。

こんな極限状態なのに……胸の奥が疼いて、あたたかい。


その温もりが、()()()()を紡ぐ。


「ちなみに、リュドエールルだけに創無花(クレア・ニイロ)を出すこと、できる?」


「……?

 できるけど。」


きょとんとした顔で、エミレは素直に頷く。


「じゃあ――お願い。」


今度は、僕がほほ笑んだ。

いたずらっ子のように、好奇心を燻らせて。


すると――

身体を纏っていた、虚空(ヴェール)が音もなく崩れ、霧のように散る。


けれど、それは消えたわけじゃない。


霧は、風に乗って流されることなく、ただ一点に向かって――

リュドエールルへと集っていく。


「キャルケン!」


リュドエールルが、鳴く。

それは、虚空の意思に応えるような、神聖で禍々しい音色。


剣から生えた、ふたつの羽が、微かに震える。

虚空の残滓を染み込ませ、新たなものを産み出すように。


薫鎧虚残(ザンファルネア)が、その羽に、刃に、太刀に――吞み込まれる。


準備ができた。

そう、言われた気がした。


なら、僕も。

僕は、空中を自由に歩けないから――叫ぶ。


「ミカレ、重力操作で、僕を飛ばしてほしい!」


「おっけい」


彼女は、サムズアップをしながら、重力を操る。


刹那、身体がふっと軽くなる。

この感覚――これなら宙を翔ける!


狙うは……心前(しんぞう)

蒼き盾を纏う、深紅の臓物。


風を切る。


疾穿箒閃(セルヴヌ)!!」


疾風のごとく――穿つ!

すべての速度を突きに変え、天へと打ち上げる。


秘めた月の光を添えて、輝きながら、神秘を孕んで。


剣先が、鱗を捉える。

逃すまいと、牙を立てるように、鋭利なまま。


――バキンッ!!


砕けた……!!


乾いた破裂音と共に、重厚な青き鎧が崩れる。

舞い上がる破片は、秘月に照らされ――星が散った残響を告げる。


その下から、何かが、顔を覗かせる。


「……これ、は。」


息を止める。


露わになったのは、仰々しい金属の球体。

それは――明らかに、ドラゴンの肉体の一部ではない『何か』。


まさか、これは……


レシャミリアの声が、脳内を走る。


『つまり、だ。

 ……この会場内に、『魔物を巨大化させている何か』がある。』


魔物巨大化装置――?


汗が、ポツリと()()に垂れる。


その時。


……ドクンッ。


脈打つ。

音を立てて、脈打つ。


造命(いのち)の危機を感じて、無機質に。


……ドクンッ。


その拍動がこし出すは――混沌を極める予鈴。

ご覧いただき、読んでくださりありがとうございます。

どうも、ルアンです!


1日投稿遅れさせてもらい、申し訳ございません!


が、長めなのかけたのと、表現ブラッシュアップできたかなって思うから見逃してええ!!((


あとがき書きたいところなんですが、、

ちょ明日体育祭の予選会があるので、怪我しないためにも寝させて!!


明日の朝...か、午後には投稿させていただきますね(๑•̀ω•́ฅ)☆


ではでは、今日はこれにてお暇!


2100PV超えました(*´꒳`*)

本当にいつもありがとう...投稿遅延も多いのについてきてくれて、本当に今日感動しまくってました。


てか、感動の涙で書いてたら筆が思いの外乗っちゃって。。笑


気づいたら今、12時前に!?

はっ。。。

ねんと!!


ではでは、みなさま...よい月光を。


じゃまた明日ね(*ˊᵕˋ*)੭ ੈ


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