第三十話 シルア、混沌に呑まれる
まずは、投稿遅れてしまい、ごめんなさい!
今回の話は、残酷描写多数ございます故、苦手な方は、あとがきにて回想形式で、残酷描写を省いての今回の話の流れ説明しているので、無理せず、そっちに行ってね!!
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SIDE シルア
――ギャラゴオオオオ!!
けたたましい咆哮が、コロシアムを揺らす。
激しく、容赦なく――破滅の予鈴のように。
「クローブ……なのか?」
僕の呆けた呟きの先には――黒いローブを纏ったクローブが。
その目は、まっすぐじゃない。
ちらりと、こちらに目を向けたかと思うと、すぐにそらされる。
心の中で、火薬が燻る。
……ああ、やっぱり。
こいつは、僕の事なんてどうでもいいんだ。
クローブの興味は――エミレだけ。
だからこそ、エミレから目を離さなければ大丈夫。
そう思った、その時だった。
――ドゥン。
なにかが、再び地下から鋭く突き上げてくる。
会場の中央、盛大に割れ目が入った地面から、ちらりと白い何かが地表に顔を出す。
それは、まるで巨大な鉤爪のようで、泥を纏っている。
「あの白いのって……?」
「さっきの咆哮、やっぱり聞き間違えじゃないよな!?」
観客席がどよめく。
そいつは、少しずつ、けれども確実に現れる。
鋭く逞しい爪。
ざらりとした青い鱗。
泥の混じったその鱗は、陽光を飲み込む。
「何が来るんだ!?」
「おい、あれ魔物だよな?」
空気が震え、ざわめきが不安に染まる。
まだ、止まらない。
地面がさらに割れ、巨体が完全に這い上がってくる。
青い鱗から飛び出た背骨の突起が導くは、禍々しい翼。
射貫かんとするその眼は、黄色くざらめく。
魔物の頂点、何かと僕と縁がある――
「ドラゴン、だ。」
胴体は、ギルドの建物3つ分ほどの厚みで、凄まじい威圧感を発する。
――大きい。
異様なほどの巨体だ。
それこそ、無理やり大きくさせたような。
そして何より歪だったのが――
「ギャラフ」
ドラゴンは微動だにしなかった。
生きた気配を漂わせながらも、静寂に佇み、動かない。
真っ直ぐに、観客を見据えるその目には、本能の色がない。
まるで、完全に調教された生き物の面持ち――そこに、既視感を覚える。
「これは、演出……なのか?」
ぽつりと期待を孕んだ誰かの声が、コロシアムにこだまする。
その言葉は、波紋もように伝播していき――
「すげぇなギルド長!!
こんなにデカい魔物をコロシアムの地下にいれていたなんて!」
「もしかして、この魔物も交えて試合をするのかしら?」
「そりゃ、見ごたえがありそうだ!」
人々の心の熱を、どんどんとあげてく。
観客が旗を振り、興奮を煽る。
人々は、ギョロギョロと好奇に染まった目でドラゴンを眺める。
会場の盛り上がりは、絶好調だった。
でも……
違う。
これは――違う、絶対に。
視線が逸らせない。全神経が尖る。
悪寒を逃がすまいと、必死でしがみつくように。
こんなのが、コロシアムの地下にいるわけがない。
何より、クローブ。
こいつがいるってことは、確実に何かが起きる。
――悍ましい何かが。
「それは、演出なんかじゃない!」
思わず叫ぶが――届かない。
勝負どころじゃない。
早く下にいかないと……。
「みて!!動き出したわ――」
観客が、ドラゴンを見据えて歓声をあげる。
その声は、これからの試合への期待と興奮に弾ける。
だが、刹那。
黒い影が、落ちる。
……グチャリ。
空気が震え、何かが飛んだ。
観客席の一角で、液体のようなものが弧を描く。
それは、混沌を導く赤黒い狂乱の舞のように。
美しく、無慈悲に、冷たく、少女の頬にへばりつく。
「……え?」
少女は、小さな指でその液体を撫でる。
触れた指に、ねっとりと絡む。
鼻をつく金属臭。
遥かな暖かみを帯びた赤液。
「……ち、血?」
横を見る。
――誰もいなかった。
隣の席だけじゃない。
どんどん見渡す。
その隣の席も、その隣の席も、その隣の席も、その隣の席も……
笑っていたはずの人が、声を上げていたはずの人が……
いなかった。
代わりに、あるのは――崩れた座席と、原形をとどめていない残骸。
残骸は、黒く滲む染みに浸り、独特のにおいを醸し出していた。
かつての生命を思わせるその姿が、なによりも残酷だった。
その匂いは、少女を、観客を、絶望の淵へと叩き落す。
――『人だった』それらを、眺めながら。
「……く、はっ」
少女の喉は詰まり、喘ぎ声を上げさせる。
苦し紛れに揺れるその瞳は、捉えられた。
「たす……けっ――」
サラッ。
もう、その声は聞けない。
少しの肉片が、ただ佇むだけ。
歯車が狂い、混沌が鳴り響く。
――ギャアア!!
不協和音が、至る所から投げ出される。
「いや、いや、死にたくない」
「せめて、子供だけでも!」
「もう、終わりよ……」
「どいてって!
私が先よ」
人々の声が、豪雨のように激しく降り落ちる。
そこには、叫び声と怒号が嵐のように渦巻いていた。
泣き声が聞こえる。
子供ではない。大人の、男の嗚咽。
「あああ、どうすればっ。
イザーウっ……!!」
崩れた座席の間に膝をついて、顔を覆って蹲る男。
そのとなりで、女性がただ茫然と荒れ狂う化け物を見つめていた。
もう、その目に光はない。
心が――死んでいた。
「ま……ま?」
少し先には、崩れた死体をうつろな目で見つめ、固まっている少年が。
ぶつぶつと感情のない声が紡がれ、やがて声も出なくなってしまった。
一方で――
「邪魔だ、どけ。」
「ひぃ、嫌。たすけてっ。」
「開かないんだよ、くそっ!!」
「出して。お願い神様っ……」
死に物狂いで逃げようとする者たちもいた。
子供と繋いでいたはずの手を離し、前の人の背中を押して進もうとする大人。
叫びながら愛する者の名を呼び探す人。
手を差し伸べるも、すんでで止めてしまった人。
ただ望みを胸に、祈り続ける人。
駆けだした人々が、互いぶつかり、押し合い、転び、踏まれる。
彼らは一様に、ドアを目指す。
『人間』としての本能が、ただただ彼らを支配していた。
――自分さえ生きていれば、生き延びられればそれでいいと、告げるように。
逃げたい、でも逃げられない。
助けたい、でも自分が死にたくない。
本能に抗う葛藤ですら、振り落とされてしまう。
誰かの最期の叫びは押し殺され、音と喧騒に紛れて消える。
ただ、ひたすらに命への強欲さと諦めが、コロシアムを支配していた。
本能と、諦め――相反するものが絶妙に重なり合い、更なる混沌の音を喚かせる。
けれど、僕が思いを馳せるのは、ただひとつ。
……初めて、見た。
人が死ぬところを。
何度も何度も、同じ情景がフラッシュバックする。
人が、押しつぶされていた。
払いのけるように、あっさりと死んでいってた。
あんなにも、簡単に人って死ぬんだ。
簡単に死ぬのに、死にざまはあんなにも――
視界が、ぐらぐらと揺れる。
重圧と、血生臭い匂いが、首を絞めてくる。
胃が逆流して、湧き出る何かを体現しようとしていた。
息ができない。
吐きそうだ。
「はじめて?
ひとが、しぬとこ、みるの?」
耳元で、誰かに囁かれる。
「……っうん。」
やっとのことで絞り出た声は、震えて掠れていた。
頼りなく、まるで縋ることしかできない赤子のような声だった。
「おちついて。」
肩に触れる、ミカレの指。
トントンと優しく、体温が伝ってくる。
頭から心まで、固まっていたものをゆっくりほぐすように。
「あ……ありがとう」
ひゅうひゅうと荒い息を吐き出しながらも、お礼を言う。
心なしか、気分が楽になった。
……大丈夫、まだ何とか出来る。
クローブの言う『混沌の鐘』。
エミレが、絶対に関わってる。
彼女を守り抜けさえすれば、きっと混沌に呑まれない。
だから――
身体に纏う無の花をそっと抱き締め、誓う。
「薫鎧虚残で、混沌を打ち破る!」
ご覧いただき、読んでくださり、ありがとうございます。
どうも、ルアンです。
もはや0時超えたので開き直りかけています(((((最低w
残酷描写、生まれて初めてレベルなので、手間がかかりましたが、
ちゃんと臨場感伝わってたら、ショーンと泣くほどうれしいです(´;ω;`)
気分が悪くなった方とかいるかな?そこが心配で。
なるべくそこまではならないように、がんばったけど。。
後半少しルアンの情けない話が入ってるけどハイテンションなので、気分転換とかにでもしてもらえれば(๑•̀ㅂ•́)و✧
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そして、前話から、48PV&ブクマいただきました!!
本当にありがとうございます!!
まずはね、今日ルアンラジオ投稿できるように頑張りまっせ。うん。
そして、次の投稿は、水曜日!!なはず。
というわけで、ルアンはラジオに備えて寝るぞよん。
じゃ、日曜日休みつつ楽しむんだぞ!!
またねっヾ(≧▽≦*)o




