第二十八話 覇者、平手打ちをする
SIDE シルア
「おバカな、子は……」
「重力で、おやすみ、なさい――」
子守唄のように穏やかなその声が、会場全体を一瞬で――恐怖の渦へと突き落とした。
それは、娯楽の一環として成り立っていたはずの大会が、
確実にその本性を――試験へ、そして殺し合いへと変えた瞬間だった。
もう……本当にだめかもしれない。
試験だと気づいた時から、『死』という単語が、頭から離れない。
そのひと文字が、じわじわと――僕の身体を、心を、舐めるように侵食していく。
熱い。
苦しい。
痛い。
そしてなにより……情けなかった。
圧倒的な力の前に、ただ押しつぶされるしかない僕が。
試合を軽く見て、中途半端な覚悟で挑んでしまった僕が。
戦うことの意味さえ、忘れかけている僕が。
……いっそのこと、もう。
このまま、押しつぶれたほうが――ラクかもしれない。
重力に圧されて、すりつぶされて、痕も形もなくなってしまえばいい。
醜く死んで、煌めく太陽の下に放置されたまま、腐ってしまえばいい。
そんな末路こそが、僕にできる精一杯の――罪滅ぼしだと。
重力が、優しく諭してくる。
そして僕は、『死』を――
受け入れようとしていた。
その言葉を、自分の身体に、静かに刻み付けようとした、そのとき――
「創無花――虚空よ、咲け。」
存在すら持たぬ華が、咲き乱れ
――重力を、ねじ伏せた。
耳を打ったその声には、遥かな熱を握っていて……僕の心に、じんわりと染みわたる。
押しつぶされていた身体が、反動で跳ね上がる。
でも、僕が向ける視線の先は――変わらない。
「エミレ……ぼくっ」
今度は、手を差し伸べてくれなかった。
その代わりに……
――パンッ。
乾いた音が、頬に突き刺さる。
容赦なく、真っ直ぐに放たれた、平手打ち。
「……ッ!?」
頬に、じんわりと熱い痛みがさす。
まるで湿布のように、じわじわと、でも確実に。
頬から頭へ。
頭から心へ。
蛇のように、心に巻き付いていたものを、その一撃が、振り払う。
そうして、香を嗅ぐわす。
そんな爽やかさと祈りを孕んだ残香に導かれ――目が、醒める。
僕は……今、なにを考えていた!?
死を受け入れようと?
――死のうとしてた?
情けなかったから?
戦う意味を、エミレを守ることを、忘れかけたから?
頭がぐるぐると回る。
そのたびに、顔が青ざめていく。
信じられなかった。
……信じたくなかった。
たった今までの自分が。
エミレを置いて、すべてを捨てて、死のうとしていた――その事実が。
そして、そんな僕に降ってきたのは。
……エミレの平手打ち。
初めて、だった。
平手打ちなんて。
エミレに直接、暴力を振るわれたことなんて。
――絶対、怒ってる。
当たり前だ。
僕は、それだけのことをした。
……どうすれば。
声が、出せない。
この気持ちが、言葉になるはずがなかった。
ただ、焦燥と動揺が全身を駆け巡り、戦慄させる。
エミレは、僕の頬を叩いたまま――下を向いていた。
その顔は、影に隠れてよく見えない。
けれど、それでも……わかる。
彼女の肩が、微かに震えている。
握りしめた拳も、こわばって、かすかに揺れていた。
叫びを込めた沈黙が、彼女を包み込む。
そのすべてが、彼女の本音をさらけ出していて、
――泣きそうだった。
でも、その前に……
「行くよ、ばかシルア。」
エミレが、顔を上げた。
目には、怒りでも、悲しみでもなく、覚悟と強さが滲み出ていた。
『信じて、シルア』
そうやって、言われた気がして――
「うん、エミレ!」
全部吹き飛んだ。
なんでかは、わからない。
でも、さっきまで悩んでいたこともどうでもよくなってきた。
信じよう、エミレを。
この気持ちに身を任せれば――どんなやつにだって勝てる気がしてきた。
「キャ……」
……リュドエールルは、重力に押しつぶされてから元気ないけど。
「リュドエールル、っと、ごめんね?」
「キェン!」
そっぽを向かれた。
握らせてくれてるということは、戦ってはくれるということだろう。
……たぶん。
一方で、
「才腕、消さ、れた?」
ミカレは、手をぢっと見つめ、呆然としていた。
その姿には、哀愁が漂い、恐怖にさらされていた観客も同情を寄せるほど。
「ミカレ、そんなときもあるでご……」
「おも、しっろい!」
気だるげな声がスキップし、無邪気さが弾ける。
ミカレの目には、まばゆい満天の星が浮かび、輝いていた。
「まだ……まだ、足り、ない!
もっと、もっと!たたかおっ!!」
ガッツポーズをするや否や、ミカレは再び重力を纏う。
髪を逆立たせ、その重力で浮かせるは――
「ちょ、ミカレ、興奮しすぎでごわす、って。
……うわぁぁぁ!!」
堂々とした面持ちで立っていたはずのぽわタン。
彼は、ミカレの感情のままに
ぐるんぐるんと宙を舞い、エミレたち目掛けて飛ばされる。
――バーン
これぞ、人間爆弾。
だが、もちろん――
「重力は抑えられるけど、
もうひとりの能力は難しいから……頼んだよ。」
エミレによって、人間爆弾は未遂に終わる。
こっから、リスタートだ。
でも、再起を誓ったのは……僕だけじゃなかった。
「さあ、やっと舞台が――混沌に変わる。」
黒いローブに身を包んだ狂気。
その握られた装置には――もう、半分指がかかっていた。
ご覧いただき、読んでくださり、ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
どうも、ルアンですっ!!
22時は、遅れるフラグ立ってたけど((
23時ちょいとすぎちゃってて申し訳ございません!
あとがきで、遊びすぎたの!!てへっ!!
まぁ、あと、明日もつなぎの関係で、ふたつに分けて投稿することにしたから、
描写増やそうと思ったら、シルアの心情が冗長かなって思ったり?
比喩多すぎたかなって思ったり?
とにかく、格闘してました!!
明日のつなぎでまた見直すかも!!
いつもどおりの改稿でね♪
改稿多すぎだろって、思ってるんでしょ?
ほいほい、ルアン様有能だからね!!
……改稿によるPON集前編まとめたよww
ルアンの恥じさらしという名目でね!!(((
リンクはこちら↓
https://ncode.syosetu.com/n9016kh/35/
……23時過ぎてるし、可及的速やかに投稿するけど!!
前話から、84PVいただいております!!
本当に、いつもありがとう。
2か月経ったし、君たちとの信頼も築けてきてるのかなって思ったり。
むふふふしてうれしいんですよ、ルアン。
て、早く投稿しないと!!
じゃ、また、明日投稿するから!!
またねっ!ヾ(≧▽≦*)o




