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第二十七話 シルア、試験という語に騙される

SIDE シルア


「では、始めるでごわすか――試験を。」


会場に降り落ちた、ひとこと。

熱もなければ、迫力もない。

司会が言ったわけでもない。


けれど――これが、試合開始の合図だと。

そう、僕の直感が告げていた。

けたたましいほどの警戒音と共に。


エミレをちらりとみると、彼女はいつの間にか、飄々とした表情に戻っていた。

……その顔が、余計に僕の心臓を冷やす。


絶対、『何か』を誤魔化してる。

……僕が、なんとかしなきゃ。


だから――


「リュドエールル、いくぞ!」


先手は、僕が!


足で地面を蹴り、一直線に飛び出る。

狙いは……ぽわタン。


醸し出す圧が、壁のように行く手を阻む。

けど、そんなの関係ない。

リュドエールルを構え、ずんずんと距離を縮める。


――思ったよりも、すんなりと間合いに入れた。


が、対するぽわタンは、僕に恐れる素振りすらみせない。

表情を全く変えず、ただまっすぐと僕を見据える。


「無駄でごわす。」


その声は、どこか確信めいていて――

胸の奥をさらにかき乱す。


でも……構わない!!


「いっけええ!」


雑念を消し去り、

ぽわタンの腹目掛けて、リュドエールルを振り下ろす。

風を切り、冷気を纏った一太刀。


本来なら――


――ザバッッッ!!


その斬撃は、鋭い音を導くはずだった。


が、


――ぽよーん。


……え?


返ってきたのは、間の抜けた音と――反動で跳ね返される、()()()()


衝撃が、電撃のように体を迸る。

と同時に、凄まじいほどの反動に、身体が振り回される。


「くッ!」


体勢を崩し、床に叩き落される。


……なにが、起きた?

間違いなく、当たっていたのに……なんで。


思考が、追いつかない。

ただ、雲のようにぽわぽわと、頭が彷徨い続ける。


「さっきの攻撃あたってたよな!?」

「なんで、効いてないんだ……」

「さすが、ギルド長専属冒険者ってことか」


観客たちのざわめきが、耳を擦る。


そんな中――


「シルア、怪我は?」


凛とした声に、ふんわりと包み込まれる。

エミレが、僕の前に立っていた。

差し出されたその手には、心配の色が滲んでいた。


けど。


「……ない。」


僕は、その手を借りず、よろめきながら立ち上がる。

まるで、氷柱で突き飛ばすように。


こんなところで、倒れてる場合じゃない。

だって――


「しるあ……?」


エミレが、目を見開いて立ち尽くす。

差し伸べていた手は、そのままで。


「エミレは――休んでて。」


僕ひとりで、こいつらに勝たないと。

僕が、引っ張らないといけないんだ。

無理をさせたくないから。


例え、彼女が『何か』を隠していても――この気持ちだけは変わらないから。


「おりゃああああ!!」


リュドエールルを構え、再びぽわタンへ。


わからないけど、それが立ち止まる理由にはならない。


――ぽよーん。


また、跳ね飛ばされた。


でも。


「もう一回!!」


立ち上がる勢いのまま、切りかかる。

今度は角度を変えて、粗く、荒々しく、噛みつくように。


それでも……


――ぽよーん。


交わされる。


「ゼッ……ハッ、ハッ。」


息が荒くなる。

ぬるい汗が額から滴る。

心に纏わりついて、べっとりと感情をむき出しにしてくるように。


なんで……なんで、交わすんだよ。


「――『甘いから』でごわす」


僕の心に呼応するように、ぽわタンがつぶやく。


甘い、から……?


言葉が、疑問符が、絡みついて、頭を潰す。


足りない。

理屈も、技術も、経験も……何もかも。

けど、それ以上に僕には『何か』が欠けている。

それが、僕とぽわタンを隔てる大きな壁を作っているような気がした。


だが、考えようとすると――

思考がぐちゃぐちゃに絡まって、ミミズのように蠢き、心臓を圧迫する。


心に靄がかかって、息苦しい。


視線が、彷徨う。

無意識に、何かを求めるように。


……いた。


エミレ。

会場のど真ん中で、固まっていた。

手を差し出したまま、ぼうぜんと。


その姿が、どこか――あどけなかった。


ぽわタンの言葉が、蘇る。


――『甘いから』でごわす


やっと、わかった。


――気持ちが弱かったんだ。


守りたい、という想いに。

不純物(動揺)が入り混じったから。


……僕の一撃は、届かなかったんだ。


なら――全部、受け入れよう。

攻撃が届かないことも、観客のざわめきも。

そして、エミレが何かを隠しているということも。


今は全部――どうでもいい。

エミレを守ることだけに、集中しろ。


リュドエールルの重みが、意志と重なるように増していく。


「また、立ち向かうでごわすか」


ぽわタンがのっそりと、姿勢を整える。

そこには、呆れと余裕が浮かび上がっていた。


「届けっ!!」


リュドエールルを大きく振りかぶり……


もう一度、想いのすべてを乗せて、ぽわタンへと突き立てる。


刺さってくれ。

お願いだ、僕はエミレを――。


僕は、祈るように目をきゅっと閉じる。


「ケッピ」


リュドエールルが、小さく鳴いた。

まるで、「大丈夫」と言ってくれているように。


導かれるまま、眼を開くと……


――刺さってる!?


刃先が、確かにぽわタンを捉えていた。


いける!!


このまま――押し切る!


リュドエールルの刃の碧みが増し、僕の心とリンクする。


そうして……火嵐(マグマ)を呼びよせる。


蒼焔竜(ラルム・タンペ)――」


叫ぼうとした刹那。


ドンッ、と。


……地面が、急に近づいた。


違う。


僕が、沈んだ……?


「期待、はずれ

 視野、せますぎ」


蒼が、抜ける。

リュドエールルが、項垂れた。


膝が勝手に折れ、肘がつき、喉が押しつぶされる。


身体が――動かない。

重い。

腕も、足も、呼吸すら……沈む。


僕の背後から、()()は一歩踏み出す。


「おバカな、子は……」


――ゲハッ。


肺が握りつぶされた。

口の奥から、血が逆流してくる。


踏みつぶされたカマキリのように、地面に広がるしかない。

手も、足も、へたへたと痙攣するだけ。


痛い。苦しい。怖い。

……わからない、何が起きたのかすら。


「重力で、おやすみ、なさい――」


上から冷たく声が、降ってきた。


観客の歓声は、もう聞こえない。


……あれ?

何のために戦ってるんだっけ?


エミレを、守るため……だったのに。


戦いの意味も、忘れかけていた。


僕の意思も、声も、リュドエールルさえも

――すべてが、沈む。


拍手も、声援もない。

魅せ場も、勝敗もない。


ここは、誰かを選び。

誰かを切り捨てる場所。


ああ、そうか。


僕は、騙されていたんだ。

試験なんていう『甘い』言葉に。


これは――試験(殺し合い)だったんだ。

ご覧いただき、読んでくださりありがとうございますm(_ _)m

どうも、ルアンです!


...多くは語りませんが、、このままじゃ、辛い方は、あとがき来い!!

これねリンク(今回は、色々語る会、割と考察勢にもおすすめかも。あとYouTubeでするルアンラジオ、能の活動報告についても話してるのでぜひ( ̄∀ ̄))

https://ncode.syosetu.com/n9016kh/34/


余韻に浸りたい方ようにね、今日はここで締めますよ!

全話から53pvいただいております。

本当にいつも読んでくださりありがとう(*´꒳`*)


明日は仕事民大量だな!?

無理せずに、季節の変わり目だし特に!!


次の更新は水曜かな〜

そわそわしながら待っといてくれ((

じゃ、みんなまたねっ(*ˊᵕˋ*)੭ ੈ


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