第二十四話 覇者、観戦しながら隕石を見届ける
SIDE ショーン
「さぁ!?
第12試合を彩るメンバーは……」
熱気は冷めない――むしろ高まっていた。
観客は声を張り上げ、武者震いする者すら現れる。
天井から照りつける陽光が、これから現れる猛者たちを祝福するようだった。
試合は続く――滞りなく、そして賑やかに。
「エントリーナンバー11!!
運命の女神に微笑まれ、シード権を得てから無敗街道まっしぐら!
いま大躍進中の――『ソドオ&ラピカド』コンビだァァア!!」
金の鬣のような乱れ髪を揺らしながら、巨体が現れる。
ソドオ――まるで猛獣が、ヒトの皮をかぶって歩いているかのようだった。
一歩踏み出すたび、大地が微かに唸る。
その隣を歩くは、深海の青さが滲むマッシュヘアの男。
彼は、風の流れに身をゆだねるように、静かに佇んでいた。
空と海を連想させる2人組──なのに、空気は妙に重たい。
漂う雰囲気からは、悍ましさがうごめいていた。
「対するは、エントリーナンバー3!
初戦から才腕を巧みに使い、圧倒的なスピードで敵を蹴散らしてきた――
『エンドウエ&ラリプルス』コンビ!!」
銀輝の重鎧に身を固めた男が、静かに会場へと歩を進める。
その傍らで、陽炎のように軽やかに踊る赤髪の女性が、手を振って観客に笑みを向けた。
鉄と炎、静と動。
対極の気配が、彼らの『チーム』としての完成度を思わせる。
相反するコンビ同士の戦い。
そんな異質な空気が、コロシアム全体を包み始めていた――
……かと思いきや、
「第12試合……ていうことは、あと何試合で決勝らっけ?」
エミレは、ポッポコーンを口いっぱいに頬張りながら、隣のシルアに訊ねる。
「確か、参加者が、15チームの勝ち抜きだから……あと、2試合だね。」
「ほうほう、ぱくっ。
だいぶ大詰めまで来た感じだ!!」
「うん……にしても、エミレ、食べ過ぎじゃない?」
彼女の隣には、『爆盛り』と書かれた大量のポッポコーンの空き箱が山をなしていた。
「えっ、なんてことを言うの、シルア!?
……私は、乙女にそんなことをいうような教育をした覚えはありませんよ!?」
「いや、そんな教育された覚えないんだけど……」
シルアが、やや引き気味に保護者のように注意する。
そんなふたりのやり取りに――
「お前、本当にこのままだと太るぞ。
……特に『腹』が、な!!」
レシャミリアがすかさず入る。
彼は、デデんと、エミレの腹に指をさす。
「な!?
そんな、わけ、ないもん……ねぇ、ノエルおねーさん?」
滝汗をかきながら、エミレはゆっくりと視線を向ける。
まるで、釈明を乞うように必死に。
「はいはい、そうですねーそうですねー。」
そんな願いをあっさりと跳ね飛ばすは、ノエル。
その黄金の瞳は、さらにエミレへ追撃する。
「……っていうか、試合見ないとじゃないんですか、覇者さん?」
「そーだそーだ!!
ほら、お前ら、よく見ろ。
この戦いで決勝の対戦相手が決まるんだぞ。」
「「……お前には一番言われたくないわ!!」」
「キャピケルウ!!」
エミレたちは、すかさず元凶を袋叩きにする。
観客席の上からは、笑い声が湧いた。
他愛ないやりとりのひとつひとつが、会場を盛り上げる。
だが、そんな祭りのような空気も次第に張り詰めていく。
コロシアムの中心から響く足音。
次の対戦を待ちわびるその合図が、砂を蹴るたびに重みを増していき――
「さぁ、ついに準決戦まで迫った、ギルド長専属冒険者をめぐるコンテスト!!
ノリに乗っている両チーム、その勢いを続けることができるのはどちらか……」
静寂が、コロシアムを締め付ける。
中央に立つ2組が、無言のまま互いを見据える。
視線が交錯し、火花が散る。
観客は、息を呑む。
……ついに、始まる。
「レディ、ファイト!!」
その合図とともに、一歩踏み出す者が。
「ラリプルス、頼む!」
銀鎧の男――エンドウエが、動き出す。
「任しな」
ラリプルスが、エンドウエに身体を向ける。
「あのコンビの才腕って……確か」
――ズバッ
エンドウエが、ラピカド目掛けて、腕を大きく振る。
目にも見えない速さで……そして、その腕は、剣に。
見た目は重厚でありながら、兎が跳ねるようにラピカドを捉える。
「エンドウエが、『腕を剣にする』才腕で、
ラリプルスが『任意の対象の速度を上げる』才腕だよね。」
エミレが、ぽつりと呟き、シルアが頷く。
「うん。
だけど――ひと筋縄じゃいかない。」
――ズブン。
刺さった瞬間、ラピカドの身体が崩れた。
剣先は、まるで水たまりに突き立てた棒のように、空を切った。
「ラピカドの才腕は、『身体を液化させる』ことだな。
剣と液体――液体の方が有利だが……はて、どうなることやら。」
レシャミリアは腕を組み、目を凝らす。
「ラリプルス……あいつはどこに行ったか、わかるか。」
エンドウエは、この動きを予想していたのか、素早くラリプルスの方へと戻る。
その目には、計算された光の中に、僅かな焦りが浮かんでいた。
「――わかるわけないだろ、アホ。
こっちだって、今探してんだ。」
探すは、流れる身体の持ち主。
だが、探す必要など、疾うにない。
彼らの直ぐ真下――じんわりと近づく気配が。
足元の石が、だんだんと水を帯びていく。
まるで、蜘蛛が糸を張り巡らすように。
「――やっと、準備ができたか。
遅いぜ、相棒」
ついに、ソドオが動き出す。
ずどん、と大地を踏みしめる。
その姿は、まさに大地の王。
けれども、その手の中には、小さな種が握られていた。
「今日も、自然は圧倒的で……」
まだ生命の息吹も僅かな、幼いその種を、彼は優しくなで――
「俺は、絶対的だ。」
……握りつぶす。
ぐしゃりと、その儚い命を否定し、狩るように。
――バチャリ。
そうして、捨てるように、地面にたたきつける。
刹那――
石に、生命が埋め込まれ、張り巡らされた水に絡みつく。
紡がれるは、草糸。
ツタは、石に宿る水を吸収し、さらに生命を紡ぎ続ける。
太く、強く、絡み合う。
「『植物を植える』才腕
……でも、それだけじゃないな。」
突如の出来事に湧く観客の中で、レシャミリアが、唸る。
――バシン
ツタが、鞭のようにしなり、地面をはたく。
かつて否定された生命が、執念で蘇るかのように――
絡みつき、藻掻き、空間を蝕む。
けれども、その想いを体現するのは、体内を駆け巡る水分。
そう、ラピカドは、水を媒介して、植物越しに、自分の身体を操っていた。
ツタは、獲物を目掛けて、ゆっくりと、近づく。
「おいおいおいおい、囲まれてるぞ。」
ラリプルスは、後退りしたときには遅かった。
前後、左右、そして、頭上までもがツタの壁。
逃げ場は、ない。
すると――エンドウエが、一歩前に出る。
ツタを睨み据えすその目には、怯えはなかった。
そこに、確信の色が宿る。
まるで、勝利の道筋を見抜いているかのように。
「大丈夫だ、ラリプルス。
……あれを使おう。」
「――はぁ?マジかよ。
……了解。」
ラリプルスは、目を見開き、ため息をつく。
だが、その声にはどこか好奇心が滲む。
彼女は、エンドウエの背中に手を当て……押しあげる。
「ゼンリョクで行きなよ!!
堅物!!」
――ギャン!
エンドウエの身体が、銀光を放つ。
雷光のごとく、鋭く硬く。
先ほどまでの軽さなど、影も形もない。
一歩ごとに地を裂き、空気を引き裂き、閃光が尾を引く。
確かな質量を持ち、残光を宿す様子は――まるで、銃弾。
彼の腕は、光の牙と化し、蠢くツタを薙ぎ払う。
白銀の旋風が、空間を切り裂く。
その圧に、ツタがたじろぐほどだった。
「――こりゃ、強い。
兎の皮を被った狼、ってとこかな」
エミレは、思わず手を止めて魅入る。
その目には、ハリボテの中に宿る光を見出すようであった。
……やがて、風が吹き止み、千切られたツタが、地面に落ちる。
砂埃が舞い、視界を霞ませる。
しん、と音が吸収され、コロシアムは静まり返る。
観客の吐息すら聞こえるような、静寂。
ただ、ツタの青臭い匂いと湿った水の匂いが、重く、あたりを満たした。
そんな沈黙を裂くように――一歩。
乾いた足音が、コロシアムに落ちる。
まるで、勝利の証を噛みしめるように。
観客は息を呑んだ。
「……終わりだ。」
砂埃が、散る。
その奥に、姿を現すは――エンドウエ。
まっすぐと突き出された腕。
銀の光を帯びた眼差し。
その先には――ソドオがいた。
彼は、斬られたことにも気づかず棒立ちのまま、静止している。
勝利の天秤は、大きく傾いた。
「……決着がついた、のか?」
閑静が、熱を帯びようとした……その瞬間。
――オワァァアアアア!!
空から、声が降ってくる。
と、同時に。
コロシアムの上空に、巨大な影が現れた。
「ヤバヤバヤバっで、ごわすよ!
ミカレ!!どうするでごわす?!」
「……このまま、身を、任せるのが……いい」
「それじゃあ、死ぬでごわすってぇええ!!」
「だいじょぶ……死な、な、い。」
「自信なさげで、言ってないでごわすか!?」
「もう……落ちる。
……盾に、なって」
「え、え、え!?
まさか、おでが、着地しろってことでごわすか……?」
「うん……がんばて」
「ヤアァアアアア」
――ドゴーン。
見事すぎる隕石落下。
(((……え?何が起きたん。)))
突然の出来事に、観客は、唖然とする。
ぽろりと、目がこぼれそうな勢いで、コロシアムの中心部を見つめる。
そう、不審者が、落ちた場所へ。
あまりの勢いに、陥没してしまった床。
巻き立った砂埃越しに、2人の影が浮かび上がる。
ひとりは、ぼさっとしたおかっぱに、眠たげな眼を携えた子供。
もうひとりは、豊満な巨体に、腰帯を巻いたごわす男。
一方は汗だくでへたりこみ、もう一方はほほ笑むだけど、差があれど。
彼らは、そこに着地していた。
「本当に、死ぬかと思ったでごわす……」
「でも、ほら……ぽわタン、げんき。
僕もげんき。」
「だって、僕たち――」
心なしか、そのけだるげな瞳に、鋭さが覗く。
「ギルド長専属冒険者だから」
魂ごと書いた。
待っててくれて、本当にありがとう。
話したいことは山ほどあるけど――今日はこれで、許して。
明日語らせろ
追記
というわけで、あとがき……書いたよ。
前編は、いつも通りスランプとかそういうの触れずに明るめのやつ!!
ルアンの怒涛の地獄日記とかw
https://ncode.syosetu.com/n9016kh/30/
後編は、真面目なルアンが出てるやつ!!
(スランプとかにも触れてるよ)
https://ncode.syosetu.com/n9016kh/31/
じゃ、君たち!!
週末も無理せず楽しんで!
次は、月曜更新のつもり!!
じゃ、またねっヾ(≧▽≦*)o




