第二十二話 覇者、虚偽を宣う
SIDE シルア
「でも、わかった」
演じるのは――
『想い』を伝えるためだ。
リュドエールルを構え直す。
同じく気を取られていたポリリが、こちらに向きなおしてきた。
わかったのなら、あとはやるだけだ。
「僕も、魅せる!!」
リュドエールルを大きく振り、注目の的を搔っ攫う。
佳境の始まりを告げるように。
「お、やっと、やる気になったみたいだな。男」
ポリリが、突進してくる。
彼の才腕は、『なんでも食べられる』能力。
きっと、リュドエールルなら、食べられないはず!
だけど――
「怒られたくないから、ねっ!」
ポリリの鳩尾めがけて、僕は蹴りを入れる。
――ぐはっ!
ポリリは、唾を吐きながら、床にたたきつけられる。
――ワアアァアア!!
瞬間、割れんばかりの歓声が鳴り響いた。
この隙に、叩き込む!!
リュドエールルを、旋律のように操りながら、残像を撒きながら高速移動する。
一撃一撃、隙を狙い、突く。
歓声の波を荒立たせるように、強く、速く。
「お前、なんなんだよっ!?」
ポリリが叫ぶ。
その目にどこか、飢えたような乾きが覗いていた。
……!?
そこに、若干の違和感を憶える。
刹那――
観客の歓声が一気に止む。
バタリと不自然に。
……どうして!?
ここが一番盛り上がるはずなのに!?
その答えは――
「あーあ、喰い足りねぇ」
目の前にあった。
ポリリは、ねっとりとした笑みでシルアを見据える。
「あれ、どうしたんだろ。もう帰ろうかな」
「なんで、コロシアムに来たんだろ?」
「つまんない、見る価値ないわ」
突如、観客から色が消える。
まるで、モノクロの世界に塗り替えられたように。
音も、光も、すべての熱が失われていく。
拍手も、叫びも、沈黙に吸い込まれていった。
そんな中……ひとつの狂気が宿る。
「うーん、やっぱ“熱狂”って、表面がサクサクで中がトロトロなんだよなぁ。
ちょっとだけ、冷めたとこが、クセになる。
なぁ、リポポ?」
「ああ……だけど、もうちょっと溜めてからの方がよかったんじゃねぇか?
――なぁ、かわいこちゃん?」
「……やられた、シルア。」
エミレが、膝からガクリと崩れ落ちる。
その目には、いつもの明るさがないし、心なしか顔色が悪い。
まるで、輝きを失った星みたいだ。
まさか、こいつら――感情を喰ったのか!?
観客の……そして、エミレの熱を!?
「嘘、だろ。」
信じられない。
胸が張り裂けそうだった。
けれど――
コロシアムの空気は冷たく、無慈悲に僕の呟きを跳ね返す。
その事実が、僕に重くのしかかる。
全部ないことにされたんだ……僕の蹴りも、奏でた歓声も。
そして――エミレの熱も。
「最高だな、こいつの顔。」
「ザ・絶望って顔しやがる。」
ポリリとリポポが、ゆっくりと近づいてくる。
どうすればいい、どうすれば――
「キャリピッ!」
リュドエールルが、小さく鳴く。
そうだ、ひとりじゃない。
僕には、リュドエールルもいる。
なんなら……
まだ消えてない。
例え、観客の感情も、エミレの輝きも喰われようと、
――僕の想いは、消えていない!
「うおおおおおおおっっ!!」
僕の叫びは、反響する。
観客の目にも――届かない。
エミレの目にも――届かない。
だけど、それでも。
「誰も見ていなくても、僕は演じるッ!!」
大きく、踏み込む。
「キャリリ~!」
刹那、リュドエールルが、光り輝く。
僕の想いに答えるように、強く、引っ張るように。
――また、呼んでくれたね。シルア。
空気を裂き、旋律のような一閃が、床を駆け巡る。
舞台を『演出』するように、主役を照らす、スポットライトのように。
「おい、みろよ……」
「なんだ!?あの光……」
リポポとポリリの足が、一瞬止まる。
――その隙を逃さない。
「紅雪龍牙!」
渾身の踏み込み。
刹那、剣から放たれた竜牙が、宙を裂き、舞い上がる。
向かうは、ポリポリ兄弟。
急所を避けながら、竜は彼らを喰らう。
「「ぐっ、ざけんな……」」
彼らの顔が引き攣り、血しぶきが小さく飛ぶ。
『喰われる者』の痛みを孕んだその血汐が、氷を染め――
繰り出すは、想いの桜!
いつもなら、このまま消えてはずが、
――ふわり。
一片の花弁が、静かに、空気を割るように落ちる。
それは、凍った心に灯る、最初の炎だった。
ひとつ、またひとつと、
まるで、失ったものを、戻していくように。
人の心に、色を灯すように。
「すげぇ……!!
心がぽかぽかする。」
「あれ、なんか……涙が。」
「きれい……!!
天国みたい」
声が、熱が、ほんのりと帯び始める。
じんわりと、じんわりと、広がり始め……
「シルア、万歳!!」
大きな感動が、激情が、息を吹き返し、芽吹く。
その熱量は、強く暖かく、ひとりを弾け照らす。
……よかった。
達成感、というより安心感が大きかった。
これできっと、もう大丈夫だ。
胸をなでおろし、僕は小さく息を吐く。
エミレも、きっと――
「「まだだ……まだ、俺たちは――」」
背後。
ふたつの気配が、不気味に、粘つくように、迫る。
「「すべて、喰らう……!!」」
気づいたときには、もう、遅かった。
身体が、動かない。
いや、感情の反動で、もう限界だったのか。
ポリポリコンビが迫る。
狙うのは、僕の心。
今まさに、輝いたばかりの――僕の感情だ。
ごめん、エミレ。
やっぱり、僕には――
静かに目を閉じ、身体の力を抜く。
その時。
「――おっと。そこまでにしてもらおうか。」
凛とした声が、狂騒を裂いた。
終わりを受け入れかけた僕の胸に、ひとしずくの光が落ちる。
主役の再登場だ。
「創無花――虚無より咲け。」
その瞬間、咲いたのは彼岸花。
静かに、気高く、空間に乱れ舞う。
咲いた花は、やがて一面を包み込み――
まるで、すべてを慈しむように。
「「なっ……! 才腕が……使えない……!?」」
能力も、力も、狂気も。
すべてを――なかったことにする力。
無へと還る。
最初から、それは存在しなかったかのように。
――ありがとう、エミレ。
胸の奥で、氷が溶ける音がした。
脈が熱く、確かに鳴る。
「……もう、勝てないよ?」
エミレは、やわらかく笑った。
無邪気に、けれども、突き落とすように。
「私はね、反才腕の持ち主だから」
一歩、コツリと前へ出る。
その所作には、気高さと演技めいた美しさがあった。
「そして――」
その瞳が、まっすぐに僕を射抜く。
迷いはなかった。宿した熱は、まるで神話のように鮮烈で。
「彼は、英雄の卵。
あなたたちの『終わり』であり、『救済』でもある。」
ご覧いただき、読んでくださり、ありがとうございます。
どうも、ルアンです(^^ゞ
今回は、シリアス&カッコいいで、すすんだ話でしたが、、、
笑い足りねぇぜ!!という方は是非、今日のあとがきをお供に!!(今日も語りまくるよんw)
読者様方のいいところを番外編で、ルアンが、そして、今回のあとがきでAIが、語り対決をするという合戦を繰り広げてるぞ(๑•̀ㅂ•́)و✧
リンクはこちら↓(または、シリーズ一覧から!!)上から番外編、下が今回のあとがきね♪
https://ncode.syosetu.com/n9016kh/26/
https://ncode.syosetu.com/n9016kh/27
なんとなんと今見たら……
249PVも前話から頂いてる!?
そしてね、レビュー、感想本当にありがとうございます。。。
もう本当にうれしくて、、
エミレたちとやったねパーティーを涙ながらに開いてました(((o(*゜▽゜*)o)))
イラストは、テストが終わった、あたりに描きますね!!
そして、次回は、日曜日!!
今日も読んでくださり、本当にありがとう!
週末、ゆっくり休も!(ルアンはテストww)
またねヾ(≧▽≦*)o




