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第十九話 リュドエールル、バレ、のち知らんぷりをする。

――ここは、ドウア国の首都、ミネアウズの大聖堂。


重厚な鐘が、空へ飛び立たんと鳴り響く。

その音と呼応するかのように、白鳩は羽ばたき、石畳の町を色づける。


石造りの大路には、信者の列が……


神に、祝福を――神に、導きを。

老いも若きも、貧しきも、富める者も、皆が等しくその頭を下げるこの場所は、まさに「信仰」の象徴。


教会の大扉は、3重のアーチ構造で、来るものを暖かく出迎えるようである。

そして、その上には、未来永劫の慈悲を告げるような天使の象が、そびえたつ。


白く塗られたその壁は、純潔の証。

纏う空気は、人々の心を癒し、そして、引き締める。


その奥に張り巡らされたステンドグラスは、祈りを捧げる者たちの方に優しく光を降り注ぐ。


「ありがとうございます!

 おかげさまで、迷いが晴れました!」


「ええ、よかったです。

 また、何かありましたら、ぜひ来てくださいね。

 神はいつでも、貴方様の幸せをお祈りしておりますから。」


目を潤ませ、必死に感謝を述べる女性を清らかな笑みで、見送る神父。


「わぁ、これが俺の才腕(ギフト)……!!

 すげぇよ、母ちゃん!父ちゃん!」


そう放つ少年の手からは、あふれんばかりの光が放たれる。


「まぁ、なんて素敵な能力なの!?

 神父様、うちの子天才じゃありませんこと?」


誇らしげな母親の声に、シスターはふんわりとほほ笑む。


才腕(ギフト)は、人を映す鏡――いわば、その人の分身なのです。

 ……こんなにもすばらしい才腕(ギフト)を授かるなんて、立派な息子さんですね。」


人々は、感謝と希望と、そして、教会への忠誠心を胸に町へと戻っていく。

――ステンドグラスに宿る光は、そんな彼らの笑顔を吸い込み、その輝きを増す。

まるで、彼らに祝福あれ、と告げるように。


教会は、ただの建物ではない。

この場所に集う迷える子羊たちを受け止め、慈悲を施し、救い上げるまさに『祝福の舞台』。


……だが、誰もが信じるその純白は、真実なのか。


――キェエエエエエエイ!!


突如、大聖堂の奥から不快極まる汚叫び(おたけび)が、響き渡る。

まさに、清らかで穏やかな空気を汚すには十分すぎるノイズ。


そんな声の発信源は、選ばれた者だけが行くことを許される、聖堂奥の大広間。


「ええい、みつかったのか?ガキは!」


ブンブンと激しく腕を回し、怒号をあげるのは、大司祭――

その頭頂は見事に禿げ上がり、顔には脂汗がきらめく。

その姿、まさに、艶めかしい脂汗で輝く、聖なる(ダサ)タヌキ。


「まぁまぁ、大司祭さま。どうか、お心をお鎮めください。」


脇に控える男は、副司祭が、柔らかな声で宥める。

緑髪が肩にかかり、その微笑みはまるで聖母のよう。

……だが、その瞳の奥には、濁った氷の刃が。


「ご安心を。

 あの少女には、すでに最凶の刺客を送っております。」


「だがなぁ!連絡がほとんど来てないじゃないか!!

 まさか、サボってるんじゃなかろうな!?」


「アハハハハハ……御冗談を、大司祭さま。

 それは、絶対にありません。

 そんな不敬を犯して、生きていられる者などいないのですから。」


「そ?そうなのか?いや、ほんとにそうなのか?

 んー、まぁ、確かにそうか!

 この、タヌーキーダヨ大司祭に逆らって、息を吸えているやつらのがおかしいわな!」


大司祭は、椅子にふんぞり返り、腹を揺らして笑い転げる。

ぽよんぽよんと、笑うたびにお腹が踊る汚どる。

 

「まったく、お前のほめ上手に免じて、今回はその刺客とやらに任せるか!

 ……だがな、期限はあと3か月だ。」


刹那、雰囲気が締まる。

タヌーキ―ダヨは、不快感をあらわにした態度で、副司祭を睨みつける。


「承知いたしました。」


副司祭は、恭しく頭を下げる。

洗礼されたその所作に迷いはない。


「もし、それが過ぎたならば……

 最強騎士団、聖歌隊(レクイエム)に捜査を任せるからな。」


「……はっ、大司祭さまの仰せの通りに。」


跪いて、大人しく命令を承る副司祭こそ、まさに神に仕える者として在るべき姿。

しかし、その唇には灰をかぶった祈りが、にまりと潜んでいた。


だがタヌーキーダヨは、すぐに居眠りを始め、その不気味な笑みに気づかない。


……教会の鐘が、再び鳴り響く。

これは、時を告げる合図なのか、それとも祈りなのか。


――神の塔の上に、ひとつの影が揺れる。

そこには、真相を見極めようと黒きローブに身を包んだ者がひとり、佇んでいた。


「はて、シルア(道具)を手に入れられた巫女様は、これにどう対処するのか。」


軽く呟いたその声は、冷たく、柔らかく伝播し……そして、影を愉しませた。


****


時は戻り……その数時間前。

コラーレーの町のギルド本部――ギルド長の部屋では。


「――そなたたちは、何者だ?」


ピシャリと放たれた声が、シルアの胸に冷たい釘をさす。


(これは、かなりマズいのでは!?)


シルアは、エミレに目配せをするが……


――ぷい。


(……ぷいって、するな!)


エミレは、目が泳ぎに泳ぎ、汗もだらだら。

そして、絶対にシルアとは目を合わさない。


まさに、しくじった者の佇まい。



「……ワ、ワタシハ!

 『シガナーキハシャ』デスケド?」


ギギギギと、機械がぎごちなく動くように、片言で話すエミレ。

見るからに、ごまかしているのがわかる。


エミレの不自然な様子を見たレシャミリアは、呆れたようにひと息。


「――わかった。質問を変えよう。

 そなた、いや、シルアといったか、

 ……お前はここに来るまでに何か違和感を感じなかったか?」


(名乗っていないのに、名前を知られている!?)


その事実が、シルアの心にさらなる重圧をかける。


(変なことと言えば――)


「そういえば、巨大なハダカネズミの王の話を誰もしてなかった。」


ぽつりと違和感を吐き出すシルアに、満足そうにレシャミリアは頷く。


「うむ。正解だ、シルア。

 では――次。」


「ぺちゃんこ娘――エミレ。

 そのネズミはどうだった?」


「どうって?なに、大きくて禍々しかった、それだけだよ。

 ……それと、私は、将来はぼいんのフラグが立っているのでね、ちび坊ちゃん?」


張り付いた笑みで、さらりと毒を吐いて応戦するエミレ。

なお、エミレの方が、身長は遥かに小さい。


()()()()()りはしなかったのか?」


だが、レシャミリアは、そんな嫌味を気にも留めずに続ける。


「……要件は何。

 まぁ、なんとなく予測はついてるけど。

 ――口止めでしょ?」


どうせと語尾につきそうな勢いで、面倒くさそうにエミレは放つ。


「それ()()、ではない。

 なに、すこし親睦を深めようと思ってな、エミレとシルア。」


にんまりと細める彼の目の奥には、狩人が宿る。

まるで、ふたりの粗捜しをしているかのように。


そうして、1拍。

まるで、嵐の前の静けさのようなひと時。

悪寒が、ふたりの背に迫る。


「そして――そのシルアの背にいる剣ともな?」


空気が固まった。


ふたりの身体に走るは、衝撃。


((バレてるぅ……しかも、結構ガッツリと。))


数多の視線が、一斉にリュドエールルへ向けられる。

じとりと、様々な視線に当たられた当の本人は……


――ぷい。


絶対に動かない。

その姿は、必死に驚きを隠しているようであった。


心なしか、シルアの背が、少し湿る。

……リュドエールルは、汗をかく代わりに結露するタイプらしい。


(いや、もう無理だと思う……あきらめろ。リュドエールル。)


それでもリュドエールルは、梃でも動かなかった。

むしろ、刀身が異様に引き攣っている。


「噂には、とても美しい刀身をその身に宿しているとか聞いたんだけどなぁ~」


レシャミリアが、ぽつりと、でもどこかおどけるようなひとことをポツリ。


「……キャ?」


反射的に漏れた小さな音。

まるで、小鳥が控えめに鳴くように。


「すごくすごく、俺様は楽しみにしたたのになぁ~

 残念だなぁ、なんなら、その剣の絵を美女たちに描いてもらおうと思ったんだけどな~」


「……まあ、しょうがない。絵を描いてもらうのは諦め――」


「キャリイイイ!!!」


バシュウゥ!!


刀身が突然発光し、シルアの背中から飛び出す。


「キュ~ルル~」


リュドエールルは、回転しながら、地に落ちていき……


――スタッ!


見事に赤い絨毯の上に着地する。


((いや、美女出されたら、あっさりと出るんかい!?))


エミレとシルアは、青い顔をしながら突っ込む。


一方で、


「おお!!ブラボー!」


レシャミリアは、熱心に手を叩きながら、リュドエールルを観察する。

その目はきらきらと、幼子のように光を放つ。


「すばらしい、非対称の構造に、丁寧に作りこまれた細工。

 しかも、刀身が透けている!しかも、中から光が!?」


「リャルル~」


リュドエールルは、まんざらでもない顔で、身体を上下させる。

その鈴のような鳴き声は、金箔とハーモニーを奏でた。


しかし、蔑むような眼をしたノエルが、こつんと肘をつつくと、


「――まぁ、どちらにしろ。これではっきりした。」


彼は、再びその眼差しを鋭くして、2人と1振を見据え直す。


「さて、本題に入ろうか。

 そなたたちも気づいているだろうが――なぜハダカネズミが、巨大化したのか、わかるか?」


(たぶん、あいつはクローブに操られていた……はずだけど、エミレのために言うわけにもいかないし。)


そんな物思いにふけるシルアの横で、エミレはあっさりと答える。


「あの様子じゃ、確実に誰かに操られていたね。

 ――それも、悪意をもって。」


「うむ。さすが、()()()()()()()だ。」


レシャミリアは、胸のポケットから1枚の紙を取り出す。


「これは、最近『異常個体』が確認された迷宮(ダンジョン)一覧だ。

 似たような事例が、ここ数か月の間に爆発的に増えてきている。

 そして、そのどれもに共通しているのは――魔物も外部干渉の跡が残っているということ。」


「つまり……誰かが裏で魔物を巨大化させている?」


「その通りだ、シルア。」


レシャミリアは、ふと視線をノエルの方へと移す。


「実をいうと――私はそなたたちの行動を観察させてもらっていたんだ。

 ……正確には、彼女が、だけどな。」


レシャミリアが、手を指し示した先には、ノエルが。

彼女は、深々とお辞儀をし、正面を向く。


だが、あげられたその顔は、キリリと引き締まり、雄々しさを孕んでいた。

まさに、闘う者の顔。


「ノエルちゃんは、俺様の専属冒険者のひとり。

 いわば、ギルド長直属の冒険者。」


ノエルは、エミレたちを一瞥して、淡々と話し始める。


「依頼を受けられた時から、観察しておりました。

 なにやら、曲者の気配がしたので、念のために。

 ……その直感が、間違ってなかったようで残念です。」


「もしかして、迷宮(ダンジョン)であった人の気配って……」


(あの時、とっさにクローブだと思っていたけど、単に僕が焦りすぎだっただけ……?)

一抹の不安を抱えつつ、シルアは恐る恐る口を開く。


すると、ノエルは首を横に振り、即座に否定する。


「いいえ、あの場所には確実にもうひとり、いました。

 が、かなり手ごわく……正体までは突き止められませんでした。」


その言葉を聞き、シルアは、ほっと息をつき、安堵する。


「それで、だ。

 見るからに、そなたたちは只者ではない。

 極秘情報である、魔物の巨大化についても知ってしまった上に、どうやら、深い事情を抱えていそうだ。」


レシャミリアが、いたずらっこのような笑みを浮かべて、エミレたちを見据える。


「特に――そなたたちの才腕(ギフト)は。

 そなたたちのあの技は、才腕(ギフト)なのか、はたまた……」


彼は、腕を組み、試すようで、それでいて、どこかで興奮が抑えきれないような眼をする。


「とにかく、君たちは、特殊でとても魅力的だ。

 けれども、危険分子に成り得る可能性が十二分にある。」


そんな厳しさを持った声とは、裏腹に、レシャミリアは微笑む。


「だからこそ――君たちに提案したい。

 俺様の、ギルド長の専属冒険者になって、魔物の巨大化について調べてくれないか?」


ご覧いただき、読んでくださり、ありがとうございます。

どうも、ルアンですっ!


今日も遅めでしかも昨日投稿できなくて、申し訳ないです、、

あれもこれもってしてたら、こんな時間だった。。

エミレたちと話し込んでたら、時がたつの早いよお、、申し訳なき。(うちのこきゃわいw)


しばらく、二週間くらいは投稿遅めになったり、ずれたりということが増えちゃうと思います(ごめんなさい汗)←テストに踏みつぶされ中なんだw


今日のあとがきは、AIで遊ぼう第二弾、作者のあとがきから自画像を生成してもらったよ を盛り込んでますw↓リンクはこちらから(もしくは上のシリーズ一覧!)

https://ncode.syosetu.com/n9016kh/


そして、そして、前話から71PVいただいております!ありがとうございます!

まじで、うれしい、、、、ᕦ(ò_óˇ)ᕤ一人でわっしょい、腹踊りしてたよw汚どりかなw

そういえば、昨日投稿してなかったけどあとがきだけは書いてました((

GW明けだし、気分上げにあとがきでも送り付けとくか!!的な感じです((おい

人気のあとがきランキングを発表しましたのでご興味あればww(ぼいんは人気なのか!?


というわけで、みなさん、また次話にてお会いしましょ~~

またねっヾ(≧▽≦*)o


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― 新着の感想 ―
おかゆ焦がしてたあたりからエミレにぞっこんでぷいっ、の部分はやばくて声出して笑ってました。 ぴえん落とし、プライドぽきぽきに続く悪魔技をめちゃ期待してます。 それから無能な上司キャラのタヌキがいい死に…
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